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シロとあたし  作者: 美貝
11/11

ありがとう

シロがいなくなって3日が経った。


まだ信じられなくて、毎朝晩あの桜の木の下に行ってる。

そして、毎回誰もいないのを確かめて孤独を確認している。

あの弾けるような生の匂いも消えてしまった。


きっと、今のあたしには誰も近寄れないくらい悲壮感が漂ってる。

本当は学校になんか来たくないけど、来ないとシロに対する裏切りのような気がした。


昨日、母に会いに行った。

何も知らない母は、朗らかな顔であたしを迎えてくれた。

あたしが心から心配して夜に病院に駆け込んで以来、母の態度はガラッと変わった。愛されているって感じられたからかも。

何だかんだ言って、あたし達は母娘で水面下では強い愛情で繋がってるんだって確認できた。


それもこれも、全部シロのお陰。

ねぇ、シロ、あんたがあたしのところに帰って来てくれて、あたしを学校に引き戻してくれた。

お母さんを守ってくれた。

あたしたち母娘の関係を修復してくれたの。


あんた、そのために帰って来てくれたの?あたし達を救うために?

桜が舞い散る中、あたしにすり寄って来てくれたの?

シロ、シロ。あたしの可愛いシロ。


「お前、まだ毎日来てんだな」


背後から聞き馴染んだ声がする。

あたしはすぐに振り向けなくて、ゆっくり深呼吸した。

そして時間をかけて振り向く。

綺麗な顔と三日ぶりに対峙する。


「来るよ、もちろん」


あたしは真っ直ぐ彼の強い視線を受け止める。


「お前さ、これからもちゃんと学校に来いよ」


彼は、おもむろに力強い声であたしに告げた。


「何で、颯太君にそんな事言われなきゃなんないの」


あたしはボソッと呟いた。

誰にもそんな事言われたくなかった。

今のあたしにとって学校に来るって事は、シロに対する感謝と謝罪を意味する。

だから、その心に踏み込まれたくなかった。


シロを思って、また涙が込み上げてくる。

視界がぼやけてくる。

だめだ、あたし、立ち直れない。


颯太君が急にあたしの手首を握って、彼の方へあたしを引っ張った。

あたしはバランスを崩して彼の胸に倒れこむ。

そして、いつかのようにまた、あたしは彼の温もりに包み込まれてた。


「俺が毎日会いてぇんだよ!畜生、一人で泣くんじゃねぇ!何のために、俺が毎日ここに来てたと思ってんだ」


そう言って颯太君は更に腕の力を強める。苦しい。息が詰まる。


「小学校の頃から、お前の事ずっと気になってた。中学になって人形みたいになっても、高校になってクラスに来れなくなっても、ずっと気になって見てた。

 シロの事を見つけた時、正直チャンスだと思った。本当はお前と話すきっかけが欲しくて、ここに通って来てた」


颯太君の頭がおりて来て、あたしの肩におでこが乗った。彼の髪の毛があたしの耳をくすぐる。


「今は、きっと何も考えられないと思う。俺だって、シロの事から立ち直るのに、まだまだ時間がかかる。でも、お前ひとりじゃないだろ?俺はシロがここにいたって知ってるし、シロがお前にとってどう言う存在だったかも分かってるつもりだ。泣きたくなったら、俺のところへ来い。一人で泣くな。俺が全部受け止めてやるから」


そう言って、颯太君はおでこをグリグリとあたしの肩に押し付けた。

あたしは彼の肩越しに鮮やかな葉桜を見上げたまま涙が止まらない。

何て言っていいか分からなかった。

颯太君の身体に触れてる部分全部を通して、颯太君の強い思いが伝わって来る。


ああ、シロ、どうしよう。


あたしは両手で颯太君の制服をまた握りしめる。

あたしの血は綺麗に洗い落とされてた。

シロがここに生きた痕跡は、あたしの鞄にかかるあのキーホルダーと、あたし達二人の記憶の中だけになった。


「あの、あたし」

「何も言わなくていいよ。これまで辛かったな。もう大丈夫、もう大丈夫だから」


今度は、颯太君の手がスリスリと優しく背中をさする。

胸の内からにじみ出てくる温もりが、徐々に身体中に広がってく。

ああ、ホッとする。

何かあっても、颯太君が守ってくれるって素直に思えた。


シロがいてくれたから。

シロが颯太君をあたしのところに連れて来てくれたから、今あたしは温もりに包まれてる。


あんた、どこまであたしを救ってくれるの。

シロ、ありがとう。心から、ありがとう。


あたし、あんたに応えるためにも、これから頑張るから。

まだ当分は、立ち直れないけど。

でも、もうヘラヘラ笑って逃げたりしないから。


あたしは颯太君の制服で涙を拭いて、目の前に広がる瑞々しい新緑を見上げた。

颯太君の温もりで、蘇生されたあたしの心を映し出すかのように輝いてた。

そして、それはまた、頑張れってしっぽ振って嬉しそうに笑うシロの笑顔のようでもあった。


颯太君の腕の中で深呼吸をすると、爽やかな若芽の匂いが胸を満たした。


ーENDー

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