出逢い
「シロ」
とっさに、その名前が出た。どうしてか分からない。
白くもないのに。
いつか読んだ白い犬とワルツの話が、なぜか唐突に脳裏をかすめたのかもしれない。
ううん、それよりも、小さい頃に飼っていた犬の名前がシロだったからだと思う。
その小さな子犬は、何の疑いもなくあたしの足にすり寄って来て、あたしのつま先のにおいを嗅いでる。・・・臭いと思うよ?
あたしは屈んで、シロの背にくっついている桜の花びらを取ってやった。そのまま、背を撫でてやる。
また、桜の季節がやって来た。世間では新学期と呼ばれるものがまた、巡り巡ってやって来た事になる。
つまり、あたしが授業に出れなくなってから、もう半年が経った事になる。
それでも去年進級できたのは、前半の半年皆勤だった事、そして成績がすこぶる良かった事に起因する。先生達の間でも私の評判は良かったため、保健室登校でお情けで単位を出してもらった。
でも、それも去年だけの話。さすがに、もうそんな特例は許されない。
だから、あたしは覚悟を決めて来た。
もう、学校が始まって2週間経つ。長引けば長引くほど、クラスに戻りにくくなるって分かってて、それでも足が踏み出せずに、気づけば益々学校に行きにくくなってた。
だから、今日はすごく強い意志の力が必要だった。
教室に入れなくなった事に、特に理由はない。
元々、人付き合いは得意だし、表面上明るくふるまう事は得意なので友達も多い方だと思う。
そこそこ綺麗な顔に産んでもらったため、中学校の時には既に恋愛なるものも経験した。
それに、今日これから授業に出ても、あたしなら普通にクラスに馴染めるって分かってる。
表向きは、授業に出れなくなったのは、母親の介護で心身ともに疲れ果てていた、と言う事になっているから、みんなもあたしに対して気は使わないはずだ。加えて、クラス替えをしたばかりだから、まだ確固たるグループだって出来てないと思う。
学校復帰にはベストタイミングと言える。