第壱話 ー 其の七
バトルシーンが苦手。
幼い頃の記憶。
人間誰しも古いものは忘れていくものだが、それにしても俺にはそれが特に欠落しているように思う。
幼い頃の記憶。
思い出そうとして、こうも何も思い出せないのは不自然に感じる。まるで意図して消えてしまったような。そういう違和感を感じる。
頭の中に霧がかかるとはよく言ったものだ。白くぼやけた記憶の海に、先は見えない。どれだけ進んでも何も変わらない。
昔の俺は、いったいどうしていたのか?どんな奴だったのか?そもそも、なぜこんなに覚えていないのか?
「遙音!遙音!おい遙音!」
血が流れ、横たわる遙音に声を荒げ名前を呼ぶ。
「やっぱ、人間って脆いのねぇ〜。こんだけでこんなに血塗れになっちゃって」
「……こんだけ?」
こんだけってなんだ?剣で刺して血を吹き出させるのがこんだけ?
「…………ふざけるな」
「ん?」
「ふざけるなって、言ってんだよ……!」
「別にふざけてなんていないわよ?私はただ思ったことを言っただけ」
「そんな理由で納得出来るかよっ!」
人のこと脆いとかほざいていてふざけてない?……所詮、そういうことか。
「じゃあ聞くけど」
呪鬼が俺に声をかける。
「あなたは肉や魚や野菜を食べたりする時、いちいち食物のことを考えながら食べるの?」
「っ……!」
そう、そういうことだ。呪鬼にとって人間とはただの食料に過ぎない。人間にとっての肉や魚や野菜のように。
食べられるだけとなった存在に深く感情を現したりしない。食べる目的のものに無駄に情けをかけたりしない。
そう、種が違う故に決して合間見れない価値観。呪鬼と人間は喰うものが違うのだから。
「だからって……」
けど、そんな理屈じゃない。そんな風に割り切れるほど人間は出来ていない。
「許せるわけないでしょ!」
「っ!?」
それは玲にとってもきっと例外ではなく、今までよりも格段に速く駆けて来てるその様子がそれを物語っている。
「……悠太は下がってて」
「けど!」
「今のあなたに何が出来るの!」
「っ……!」
事実。言い返すことなんて何も出来ない。俺はただの足手まといに過ぎない。
「まだ、死んでない。けど、もう間に合わない」
鍔迫り合いをしつつ、冷静にそう告げる。
「だから、悠太が側にいてあげて」
「……お前」
泣いているのか?
その言葉は出なかった。言ってはならないと思ったから。玲が涙を堪えて今戦ってるのに、そんな野暮なこと言う重要性がない。
「その間に私」
そして空気は凍てつく。
「この呪鬼を殺しておくから」
そして瞬間、呪鬼が吹き飛んだ。玲が力強く刀を振るい、呪鬼の身体は弾丸の如く飛んでいった。
「………いたたたた…ちょっとぉ、いきなりどうなのよ?」
「ごめんなさい。少しでも早くあなたを殺しておきたかったから」
そして刀の鋒を呪鬼に向ける。
「ねぇ、あなたの名前は?」
「私?エミシュって言うけど、聞いてどうするの?」
「覚えておくのよ。一生許すことが出来はしない、あなたの名前を」
「そう。じゃああなたの名前も教えてよ。不公平じゃない」
「……五十嵐 玲」
そして双方駆け出す。
「あなたに最後をくれてやるっ!」
【魔力】
罪人、呪鬼が呪術を使用する際に必要とするエネルギー。呪鬼にとっては生命力そのもの。罪人は魔呪によって生成を可能にしている。
罪人の魔力は呪鬼とは違い生命力そのものではない。魔力が枯渇すれば生命力にも影響は出るが、最悪魔力が尽きても普通に過ごす分には支障はない。だがそれ以前に魔力が尽きれば、魔呪の代償により死に至るだろう。
魔力は精神面に大きく関わる。極端な話、ローテンションよりハイテンションの方が、魔力は多く発生し、魔呪及び呪術の威力が高まる。一時的な強化に過ぎないが、戦闘の基本としていかなる場面でも、精神を安定させておくことが大切となる。少しの動揺で、急激に魔力に差が生まれ、それが原因で敗北ということも、特に珍しいことでもない。
感想・アドバイス等よろしくお願いします。




