表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/21

第壱話 ー 其の六

大きな場面だと思います。

丘の上の公園。

小さい頃、俺と遙音と玲でよく行った思い出の場所。大きく長い滑り台を見て、懐かしくなっていながら、その姿を見つけた。


「はぁはぁはぁ………いた」

「悠太!」


縄に縛られて、いかにも連れ去られましたと言っているようにそこに鎮座している。


「やっと来たのね。待ちくたびれたわよぉ」


近くの屋根から降りた謎の女性。聞かずとも分かる。危険だと。


「あなたが刻城 悠太?……呼んでないお客さんも来たようね。良ければ、邪魔だから帰ってくれない?」

「その言い方はどうかと思うのだけれど。呼ばれたつもりもないけど、せっかく来たんだからちゃんと歓迎してくれないかしら?」


そう言いながら玲は構える。まるでそこに剣が収められた鞘があるかのように。


「来てしまったついでに聞かせてもらえるかしら?なんのためにその子を攫ったの?呪鬼が人攫いの真似をするなんて話聞いたことない」

「10年そこらの分しか積まれていないあなたの経験で、何もかも知った気でいるのかしら?自分が知らないことがたくさんあるってことくらい分かるでしょ?優等生って感じのあなたなら」

「さぁ?けど……」


玲の手に刀が握られる。どこからともなくそれは現れた。これが罪人の力…。


「確かに私が知らないことなんてたくさんあるけどね、一つだけ分かってることがある」


力が溢れ出す。その瞬間に玲は俺の知らない玲になる。


「あなたはここで死ぬべきだって……!」


力の奔流。それは禍々しくも儚くて、押し潰されそうな重圧。人間の域を超えているのだと、直感的に感じる。


「“加速(スピルド)”!“強化(バルキ)”!」


なにか言葉を唱え駆け出した。それは神速。風を切るかのように音が鳴り、そして金属音が鳴り響く。慌てて目を向けると、玲の刀と呪鬼の洋刀が交差している。


「乱暴ねぇ。女ならもっとお淑やかにするべきでしょう?」

「あなたに女を語られたくないわっ!」


激しく斬り合う猛者が二人。既に目で追いかけることは出来ない。音速に達しているのではないかと、ただの凡人である自分にはそう感じる。


「……あ、遙音!」


そこで戦っているであろう二人に巻き込まれないように、慌てて遙音に駆けつける。


「勝手に動かないでくれる?」

「っ!!」


呪鬼の剣がこちらに向かって飛んでくる。


「それはこっちのセリフよ」


その剣を横から弾く玲の刀。


「あなた、なにかの目的があって悠太を誘い出したのでしょう?なのに殺そうとして、本末転倒じゃないのかしら」

「分かったような口を利くわね。あながち間違いじゃないけど、私自身よく分からないし」

「分からない……?」

「そう。ただ、ここに呼べって言われただけだから。けど、その後何すればいいかは、いくつか教えてもらってるわ」


玲が食い止めてくれている間に遙音に向かって駆ける。


「大丈夫か遙音!」

「悠…太……!」


その目には涙が浮かび、そして溢れる。嗚咽と共に恐怖の感情が溢れ出す。ただ、強く抱きしめる。


「ラブラブしてるところ悪いんだけどね〜?こっちの都合ってのもあるのよぉ」

「ごめんなさいね。うちの王子様が姫様助けてる最中なの。もう少し見守っててあげてくれない?」

「ガキのイチャコラなんて興味ないの、よっ」

「ふっ!」


再び始まる剣戟。援護など馬鹿なことは考えない。


「今のうちにさっさと逃げなさい!」

「言われなくたって…!」


と行ってもどこに?この夜の中、どこに逃げればって…。なにも戦力と成り得るものなどない俺が、どうやってこいつを助けろって?


「立てるか?」

「う、うん…!」


なんとか遙音を縛っていた縄をなんとか解き、とりあえず離れるように促す。


「くそっ、どうすれば……」


なにも出来ない。無力。この二文字からも逃げ出すように、遙音の手を掴んで駆け出した。


「安心しなさい」

「---っ!」


いつの間に?なんて考える時間も無かった。玲と戦っていたはずの呪鬼が目の前にいた。その向こうには、立ち上がりながらこっちに向かおうとしている玲の姿が見えた。


「どうせ死んじゃうんだから」


こっちに向かって空を走る剣。まるでスローモーションになったかのような不思議な時の感覚を味わう。

これが死。これが恐怖。これが絶望。終わりを感じ、左手から伝わる温度を感じながらも躰は動かなかった。


「…………え?」


グシャっと、なにかが突き刺さった音。

けど、俺から血が溢れてなどいない。紅く染まっていない。

じゃあなにが?なんで目の前に紅がある?いったいなにに刺さった?


「……遙………音………?」

「………悠…太…」


その躰は倒れ、紅が流れ出す。


「あっ…あっ…あっあっあっ……!!」


認めてたまるか。夢だ。幻想だ。現実なわけがない。こんな展開があってたまるか。


「あああああああああっ!!!」


ただ、泣く。哭く。啼く。

口から溢れて止まらない号哭。現実から目を逸らそうと、それは叫ばれ続ける。

遙音のその姿に、俺はただ吼えていた。

感想・アドバイスなどよろしくお願いします。


次回、一回説明回にしようと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ