第壱話 ー 其の五
一回一回の量は少ないです。
今更ですが。
「悠太、あなた馬鹿なの?」
「…何が馬鹿だ?」
彼の顔は唖然としているように見える。
突然いろいろと舞い込んだ出来事に、頭が冷静に回っていないのだろう。落ち着いていたら、そこに突っ込まないだろう。
「じゃあ聞くけどあなた、1人で夜に外ぶらついて自分の身を守れる保証でもあったの?」
「逆に聞くが、俺にあるとでも?」
「そこは開き直るところじゃないでしょう…」
相変わらず表情を変えぬままそう言い返す。
「お前は罪人だもんな」
その発言に、悲しみだとか裏切られたとか、そういった感情は見られない。ただ、淡々と事実を確認するように。
「……確かに、玲の言う通りだ。俺は、自分の身を守る術なんて持ち合わせていないさ」
「じゃあなんで?」
なんて、そんな質問聞くだけ野暮だとは思うけど。
「遙音が関わってるからだ。理屈じゃない。俺がどうこう出来なんかしなくたって、しなきゃならない。死に急ぐだけだとしても、なにもしないなんて、それこそ死にたくなる」
「………」
予想通り。いや、それ以上に強かった。無謀だと、限りなく不可能だと。分かっているが些細なことだと。その真剣な目は、そう語っていた。
「それに、今お前がいて俺は助かった」
「そんなの結果論に過ぎないじゃない」
私が罪人だったから。じゃなかったら死んでた。
「結果論の話をしているんだ。今過程がどうこうなんて話してるだけ無駄だ」
確かにそれはそうだろう。それだけで済む話でもないけど。
「後でいくらでも怒られてやる。だから今は行くぞ」
「行くぞって?どこに?あなた遙音の場所分かるの?」
「あぁ」
一切の間を置かず、そう言い切る。ただの人間がそのようなことが出来るか?いいや、そのようなことがあるわけがない。
「分かってるっていうより、知ってるって感じに近いか。なんでか分からないが、そこに遙音はいるって知ってる」
「…信じるための根拠としてこんなに相応しくないものはないわよ」
側から聞いてみれば、唯の勘。当てずっぽうって言ってるようにしか聞こえない。
「けど、いいわ。信じてあげる」
「なんでそんな上からなのかは分かってるから言わないが、そうしてくれ」
そう言い駆け出す悠太。そのあとを私は周囲を警戒しながら追いかける。
「……悠太」
「なんだ?」
「いくらでも怒られてやるってあれ、忘れないでよ?」
「……お手柔らかに」
小さい頃よく遊んだ丘の上の公園。悠太が駆け出した先にはそこがある。
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