第壱話 ー 其の壱
キャラの登場&掘り下げ回。
いつからかははっきりされていないが、刻城悠太の生まれる数十年前には呪鬼がいた。
今では世界中に溢れ、その被害は言うに及ばず、甚大な被害が出ている。
被害というのは、人類の急激な減少。それは呪鬼が人の魂を餌としているため。
人間が家畜の肉や魚、植物を食べるように、呪鬼は人の魂を喰らう。魂だけを。
せめての救いと言えば、呪鬼が基本夜しか活動しないこと。昼は普通に活動し、暗くなる前に家に籠る。それが今の人間の生活の形。
何故夜しか活動しないのか?それはただの人としての悠太には、分かりはしなかった。
「で、どういうことよ!?」
「話す時は主語をつけてくれ。何がどういうことなんだ?」
栞を挟み本を閉じた悠太は、自分に声をかけてきた目の前の少女を見上げる。
「どうもこうもないわよ!この写真はなによっ!?」
「……むしろ俺が聞きたい。その写真はなんだ?」
遙音が差し出した写真には、他ならぬ悠太が写っていた。
「なんであんたが生徒会長と一緒に写ってるのよ!?」
「俺としては、見覚えのない明らかに盗撮と思われる写真を突き出されたことに対して、一言言わせてもらいたいのだが」
(盗撮は犯罪だぞ?)
なんて、そんな常識を遙音に聞いたら余計騒がしくなり、面倒になると思い口には出さない。
おそらくだが、いやそうだと思いたいが、遙音が純粋な女性であるのならば、この生徒会長が男性だったらここまで過剰に反応しないだろう。問題は女性だから、だ。
「たまたま遭遇しただけ。それで少し会話をしただけ。それだけの話だ」
「じゃあなんでこんな親しいのよ!」
「写真だけで親密度を測ろうとするのも、いかがなものかと思うが、言っただろ?そこで遭遇しただけだと」
「そういう話じゃないの!!」
(いやそういう話だろ)
理不尽な物言いに納得は出来ないが、今更だと思い、同じく口には出さない。
「じゃあなにを話してたのよ!?」
「それをお前に話す理由を説明してほしい。お前には関係ないだろ」
「っ!……そうですかそうですね。関係ないわよね。ただの幼馴染みにはっ!!」
「おい…!」
急に教室を走り去っていく遙音。今の短いながらも密の濃い会話の内容に呆然としつつ、その後ろ姿を見ていた。
「夫婦喧嘩は犬も食わないってな。相変わらず仲いいなぁお前ら」
「今のを仲がいいと言えるのなら、俺は世界中の人々と親しい」
飄々と声をかけてきたのは、新宮 蓮。悲しいことに、中学からの付き合いだ。中一から高二、現在五年連続で同じクラスで勉強することになってしまっている。
「けど、喧嘩するほど仲がいいとも言うよね?」
「一方的に売られただけだと思うが」
蓮の後ろからひょっこり顔を出したのは、瀬奈 朱里。気弱くあまり自己主張をしないようなタイプだが、なぜか蓮とよく連んでいる。そのため他の生徒に比べ、喋る機会は多い。
「だからってあの言い方は無いだろ?お前には関係ない、って。結構深い仲だろお前ら?」
「え…深いって……」
「昔からの付き合いという意味だからな、朱里。勘違いするな。それに紛らわしい言い方するな蓮」
なんか顔を赤らめてる朱里の誤解を解き、蓮に注意する。本当、なんで朱里は蓮と一緒にいるんだろう。
「あながち違わねぇだろ?少なくとも友達以上だろうが」
「そこは否定しない」
「即答されても困るけど……、まあそういうこった。学校中で有名なお前と抜きん出て仲いい天河、目立つよなぁ〜」
「うんうん。遙音ちゃんも人気者だし」
「あいつが人気者ってのは理解出来るが、俺に関しては全く同意出来ない」
確かに性格としてはいい方だと悠太は思う。人付き合いもよく、明るくフレンドリー。男女関わらず人気があるとよく耳にする。
「お前案外モテるんだぜ?理由はよう分からんけど」
「趣味が悪いとしか言いようがないな」
何故こんな自分を好むのか?
こんな自分のどこに惹かれる点があるのだろうか?まるで分からない。
コミュニケーションという点で言えば、まるで女子とは会話しない。
成績だって良くて中の上。スポーツだってそこそこ出来る程度。
悠太にはまるで分からなかった。
「そ、そんなことないよ!刻城くんは、か、かっこいいし……」
「…照れるなら言わなきゃいいだろ」
「そういう冷たいこと言うなや。どんな奴であれ、お前のことを好きになる奴を勝手に馬鹿にしてやるな」
自分のことを好きでいる人を、自分が見下すな。それこそが最大の裏切りと、蓮は言う。
「なにはともあれ、まずは追ってやれ。いくらお前が人気だからって、天河泣かせたらさすがにお前でもヤバいだろ?」
「……想像、したくないな」
思わず苦笑が溢れる。
確かに、あいつの機嫌を損ねたままってのは、今後の学生生活に影響が出るだろう。別にそこまで重要視していないけど。居心地はいい方がいい。
「放課後だし、時間はあるだろ?」
「そうだな。少し、迷子の子犬を探してくる」
「おう、行ってら」
「行ってらっしゃい」
なにを怒っているのか、悠太には分からなかった。けど、解決した方がいいということは、その鈍い頭でも分かった。
もう少し日常回が続くと思います。




