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第弐話 ー 其の弐

ちょっとしたイザコザ

「刻城くん」

「…なにか?」


声をかけて来たのはクラスメイト。それだけのただの知ってる人。遙音とよく一緒にいたから、おそらく仲は良かったのだろうが、特別興味がないから「遙音の友人A」くらいの認識しかなかった。こいつから声をかけることもなかったし。だから今、多少驚いてる。


「少しいい?」

「俺は別に構わないが」


場所を変えようと席を立とうとする。


「ここでいいわ」

「…そうか」


それをこいつが制し、特に逆らう理由もないので従う。

心なしか周りからいつもとは違う視線を感じる。好意と言うにはあまりに自惚れで、興味半分と言った視線。だが今はそれとは180度違うよう。裁判を受ける被告人のような気持ちだ。


「…単刀直入に聞くわ。あの夜のこと、本当のことを教えて」

「………」


そんなことだろうと思った。


「…君がどれだけのことを知っているのか分からないが、多分君が知ってることが全てだと思う」

「あなただけ偶然助かった、それが事実ってこと?」

「そうだ」


間髪を入れず、出来るだけ冷静に返す。

俺と遙音が鬼に襲われそうになったところ、罪人が俺たちを助けに来た。だがその時には既に遅く、遙音は事切れていた。

それが偽りの事実。この学園内で広まっている真相。


「…なんで」

「……?」


少し空いた間を埋めたのは彼女の呟き。


「なんであんただけ無事なのよ…!」

「………」

「なんで遙音だけ…なんであんたは助かって遙音は助からないのよ!?」


俯いた顔を上げ、涙が溢れる眼で俺を睨みながら心からの叫びを吐露した。

一般的に、冷静にその発言を聞けば、あまりにも理不尽で一方的な物言いに、俺は怒りで返すべきだろう。けど、そんな簡単なことじゃない。


「……君が言いたいことはそれだけか?」

「…なんですって?」

「君が俺に言いたかったことは、その言いがかりだけかと聞いてるんだ」

「なんだって!?」


彼女の後ろの女子生徒が声を荒げ、俺を見下すように身を乗り出す。机を強く叩いて、以下にも怒っているのだと伝わる。


「なんだその言い方は!?お前には罪の意識の欠片もないのか!?」

「罪の…意識…?」

「そうよ!少しは申し訳ないとか思ってないの!?」

「申し訳ない……?」


周りの視線が突き刺さる。彼女たちと同様に俺を非難するような目。逆に俺に同情するような目。ただただ圧倒されてる目。


「ふざけるな……」

「え?」


強く突き刺さる。的を得ているようで得てはいない。そのはずなのに、なぜこうも身が引き裂かれるような、胸に募る不快なわだかまりにあの日を思い出させられるのか。

だが事実、一つ言うならば、なに勝手におれのことを決めつけてやがる。


「誰が好き好んで俺だけ無事になったって言うんだよっ!」

「っ!?」

「罪の意識?申し訳ない?そんなものあるに決まってるだろ!!無い訳ないだろ!」


俺が冷めた人間だってことは、きっと周知の事実なんだろう。だがそれは一般の人間に対してで、遙音は例外だという当たり前の事実をなぜ説明しなければならないというんだ。


「だからって俺になにが出来たっていうんだ?あの場面で?あの瞬間に?俺になにが出来たって?」


今は罪人であっても、あの時はまだ無力なただの人間だった。それは覆せない事実。否定したくても、俺の過去に確かに張り付いて離れない、消し去りたい自分の弱さ。


「無力なんだよ俺は!人間なんだよ俺は!なにも出来なかったんだよ…俺は…!」


怯え。好奇心。疑問。変わらず俺を見つめるそれらは、いつの間にか全て俺に向けられていた。


「どうすれば良かったって言うんだ?どうすればあいつを失わず助けることが出来たって言うんだよ?…教えてくれよ」

「そん、なの…」

「……いきなり怒鳴ってすまない」


言いたいことを、言いたかった俺の中に溜まっていた黒い塊を、全て曝け出したような嫌な罪悪感に、頭が冷静に動きを再開する。


「…俺を非難したいのなら好きにしてくれ。俺はそれに答えることは出来ないだろうし、報いることすら出来ない。それぐらいの、ただの凡人なんだよ、俺は」


そうだ。いくら力を得たって、守りたいものを守れないんじゃ、俺はただの凡人に過ぎない。何も出来ないんじゃ、力を持ってないも同じだ。


「…どこ行くんだよ?」


教室のドアを開けようとした俺を、だるそうな新宮の声が引き留める。


「保健室。先生には体調崩したとでも言っておいてくれ」

「俺みたいな不良じゃないんじゃなかったのか?」

「ケースバイケース、だ」

「そりゃあ都合いい」


その声をドアは閉まる音で遮った。













「失礼します」

「…あら?」


保健室のドアを開けると、俗に言う保健室の先生がいた。別に物珍しいことでもなく、至って当たり前のことだが、俺が不思議に感じたのは、先生(その人)じゃなくて別。


「……どうして会長が?」

「そんなに嫌そうな顔をするほど、わたしがここにいるのが不思議?」


養護教諭の七瀬 静華(ななせ しずか)と談笑していたのは、保健室と無縁に思える雪野生徒会長だった。


「いや、先輩みたいな人が体調を崩すとは思えなくて」

「それって馬鹿は風邪引かないみたいな意味で言ってる?」

「違うと思います」

「そこは断言するのが礼儀でしょ…」


馬鹿とは思っていない。ただ結構マイペースな人物だとは思っているが。


「雪野さん、割と身体弱いのよ?時々こうやってよく来るわ」

「時々とよくは、矛盾だと思いますが」

「あら、そうね。ん〜一週間に二、三回は来るわね」

「それ普通によく来てますね」


一般生徒の保健室利用数より、間違いなく多いと保健委員でもない自分でも分かる。


「けど意外でした。先輩はいつも明るく元気なイメージがあったので」

「そう?確かにそんな人でありたいとは思ってるけどね。多分、見栄はってるところがあると思うわよ。私は別に完璧なんかじゃないから」


成績は学年一番。全国模試でも上位。運動させれば部活動の人たちにも並ぶ才能。その他家事、音楽、手芸、様々な趣味にも精通していると、それを完璧と言わず何と言うのか?


「それで?刻城君はどうかしたの?」

「あぁ……」


そういえば保健室だった。ここへ来たなら当然、要件を聞かれるのが自然だ。


「……気分が優れないので」

「そう。…言われてみれば、少し顔色が良くないかしら」


嘘は言ってない。つい今しがた、自分のどうしようもない哀れな姿を晒してきたのだから。これでいつもと変わらない気の持ち様でいられたら、俺自身の言葉を撤回しなくてはならなくなる。


「じゃあベッドに横になって。あと一応熱も測るから」

「はい」

「…じゃあ私は失礼させてもらいます。じゃあね、刻城くん」

「えぇ、先輩もお大事に」

「ありがと」


気分をリフレッシュしておきたいのは事実。この夜、初めての狩りなのだから。

次回バトル突入

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