閑話 其の壱
新たな登場人物。
現実ほど奇怪なものはないと、そう言う者がいるように、案外想像の先にあるものというのは、ありきたりなのかもしれない。
フィクションの物語の中で、少なからず既存の展開だと感じる者もいるだろう。人は多種多様な思考を持ち、そのために様々な動きを見せる。だが、完全に他人とは違うという人間は存在しないだろう。
「………」
それは人間以外もそうなのだろうか?そのようなこと考えたこともなかったが、呪鬼である彼もそう考えずにはいられなかった。
「……おや?」
彼が招かれた部屋には、いわゆる彼の主にあたる者がいた。
「これはこれは、いったい君がなぜここに?」
「……あなたが自分を呼んだのでしょう?」
「そうだったか?あぁ確かにそうだったそうだったに違いない。こんがらがってくるんだよ、君とは文字通り経験の差というものがあるからねぇ」
「…それで、なんのようですか?」
喋り方といい、立ち振る舞いといい、素でやっているのかわざとなのか計りかねないが、どちらにしろ癪に触る。
「いやぁ、ついこの間エミシュ君がやられてしまっただろ?私の采配に落ち度があったために申し訳ない」
「…なぜ自分に謝るのです?」
そもそも、謝罪の意などないだろう。上辺だけの言葉で、現に今も笑みを浮かべている。
「君たちと仲良かっただろう?」
「確かに、一緒に狩りをする関係のことを言うのであれば、そうかもしれませんね」
だが、所詮それだけのこと。友好関係を築いた覚えはない。目的が一致していたから、行動を共にしていたまで。
「……それに、もともとあいつは死ぬ手筈だったのでしょう?」
「なんのことかな?」
「あいつが殺られるところまでが、あなたの采配というやつなのでしょう?」
「なぜ、そう思う?」
笑いを含めた顔のまま、自分の顔を見つめる。楽しくて仕方がないとでも言うような、そういう意地の悪い眼をしている。
「どうせあなたのことです。いくら性格の悪いあなたでも、さすがに計画に支障が出たら、本気で笑えないでしょう?」
「どうだろうね?もしかしたら、それはそれで面白いと言って笑い転げるかもしれないよ」
「そういう発言からして、そうじゃないのでしょう?」
「まぁ、そういうことだろうね」
両手を広げて、空を仰ぐように口を開く。
「でも、どうなんだろうねぇ。もともと、一生なんて思う通りにいかないことだらけだ。なんでも自分が思ったようなことだらけというのも、それはそれでつまらないじゃないか?だって今後の展開が分かっているのだろう?攻略本片手に進めるゲームじゃあるまいし」
「つまり、計画通りじゃなくても楽しめると」
「うーん…難しいなぁ。私からしてみれば、あまりにも経験したものが多いから、どれもこれも知っているようでつまらないんだ。しかもどれも全部私の望んだ展開じゃないときた。……嫌になってくるよ、本当に」
その一言だけ、半端じゃない殺気が溢れる。心の底から自分の今までの境遇を嫌っているのだと伝わる。
「だから、知らない望んだ展開を期待しているんだよ。この腐れきった世界から脱却したいがためにね」
「……そうですか」
この人の考えてることは分からない。深いのか、不可思議なのか、壮大なのか、少なくとも自分が理解出来る域ではない。
「それでも手順は必要だと思うんだ。いきなり突拍子もないことして、全て壊れてしまったら意味がないからね。最後の手段は、文字通り最後の最後までとっておくべきだ」
「…エミシュはその手順の一部だということですか?」
「ん?なんだい?やっぱり顔見知りの死は、胸に来るのかい?」
「馬鹿な」
そのようなものがないと分かっているだろう。人間じゃないのだから、情などただの重荷にしか思えない。
「彼女の運命がそういうものだったということでしょう。別段、自分が口を挟むことではありません」
「へぇ〜君は運命論を信じるのかね?」
「さぁ、あろうがなかろうがどちらでも構いませんが、そう言えば都合がいいと思ったまでです」
何が運命だ。所詮自分の身に起きたことを、何かも分からない他の何かに責任転嫁しているだけだ。偶像崇拝の一部に過ぎない。
「ただ……興味はあります」
「ほぉ」
お世辞にも優秀とは言えないが、中級呪鬼としての実力は十分だった。それを倒したと言うのだから、戦ってみたいという衝動は自然と湧き上がる。
「…いずれ会えるよ。そう遠くない日に。アーリハルトくんが望むのならね」
「あなたがそう言うのならそうなのでしょう」
部屋の入り口で止まり一礼する。
「では、失礼しました。アークゼイン卿」
背を向けて部屋を後にした。
「……さて」
部屋の中央の玉座のような椅子に腰掛け、手に顎を置く。
「役者も揃いつつある。間も無くだ」
アークゼインの頭に浮かび上がるのは、1人の少年。
「もうすぐだ……刻城 悠太」
割と重要人物。
多くの方々からのご感想・アドバイス等お待ちしています。よろしくお願いします。




