第壱話 ー 其の拾弐
久しぶりの更新です。
もうすぐ一話も終わりかな?
「ぐっ!あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その剣は悠太の右腕を貫く。風穴のように空洞と化し、やがて赤く染めていく。
「はぁっはぁっはぁっ……なんだ、これ……?」
だが奇妙なことが一つ。確かに剣が突き抜けた。それは疑いようのない事実。現状、傷口は血によって赤くなっている。だと言うのに、決して軽傷とは言えないほどのものなのに、一滴も血が吹き出ない。
「言ったでしょ?」
この状況に唖然とし動揺しているであろう悠太に向かって、剣尖を向けつつ口にした。
「簡単には死なせないって…ねぇっ!」
「っ!?でぁぁぁっ!!」
再び始まる剣が奏でる無機質な輪舞曲。だが、音の強さには先ほどと変わって、差が生じている。
「ほらほらっ!ほらほらほらほらぁっ!!せっかくやる気になったんだから、ちゃんと私と踊ってちょうだいよ!ねぇ!」
「ぐっ!こん……のぉっ!!」
腕の片一本を今までに経験したことがない傷を負い、その中で先ほどのように振る舞うというのは、例え熟練の戦士と言えど、容易いことではない。
ましてやこの間、いや、ほんの数時間前までただの少年だった彼にとっては、このような状況でも十分に苦痛である。腕の痛みに涙も流すことだろう。
「誰が……っ!」
それでも彼は堪える。明確な理由はあれど、そこに明確な根拠はない。言葉にするは難し。今は泣くときなどではない。
「てめぇなんかと踊るかよ!」
誰から見ても虚勢であるが、自分の信念やらそういったものがまだ確かにあるのだと、そう確認するには十分だ。
「一人寂しく、空気相手に踊ってろよババアがぁっ!!」
「……そう」
激しい語気に返すはひどく落ち着いたもの。それを受け止め、ただ理解しただけ。
もとより、彼が何を言おうとも、何をしようとも、することに変わりはない。
「だったら『より強く』、かつ『より速く』に。楽になんてさせてあげないから」
「んなもん……始めっから願い下げだってんだよ!!」
覚悟はしている。もう自分から目を逸らすなど、愚かでしかない。
再び悠太は剣を振るう。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
その光景は予想出来ていたものでありながらも、実現して欲しくはないものであった。して欲しくないというよりかは、しないに越したことはない、と。
「…………悠太」
一瞬の動揺が命取りになることくらい、幼い頃から何度も言い聞かされ身に染みて覚えていた。
「あなたが勝手にムカついて、あなたが勝手に敵討ちして、あなたが勝手に報われたいだけでしょ?」
「くっ…」
そんなことはない。そう、言い切れなかった。疑ってしまった、何よりも自分を。
彼女のために力を振るうことが、格好いい自分を演出するためだけなのだと、心の何処か、そう思ってしまった。
「こんなざま……」
思わず笑ってしまう。殺しておく?よくもまあ、そんなことが言えたものだ。あまりの羞恥に顔を埋めようとも思わない。
決めたと思い込んでいた。
記憶は曖昧だが、幼い頃のことであった。
目的も理由も分からず、ただそういう使命でありそういう義務なのだと。深く考えずにただ己の力を磨いていた。
大半のここに住まう子供たちの理由は一緒で、親やそれに次ぐ身内を鬼によって失った、というもの。
それは玲にとっても例外ではなく、もっと言えば悠太にも当てはまる。
親を失い身寄りをなくした時、救いの手を差し伸べたのは、当時から仲の良い遙音の両親だった。
彼女らが小さいながらも、遙音の両親がアパートを経営していたために、それぞれ一室ずつ借りて、実質独り暮らしのようであった。
そんな二人と同様にアパート内にも自分の部屋を作ったのは、いつも三人でいようとした遥音らしい一面だと言える。大いに大家権限を振りかざしたのだった。
だから本当の意味で幼馴染み。そこらの数年間家が近いがために一緒にいたような連中とは違う。文字通り、一緒にいた時間の厚さも、それが織りなす時の密度もまるで違う。
学習能力もほとんど一緒だから、一緒の高校に行こう。なんてこじつけをつけ、三人とも星ヶ関学園に入学させたのが誰かなのかなど、わざわざ言うまでもない。
だがそんな三人にも秘密はある。正確には一人と二人の秘密、が。
言うまでもなく、人をやめたことだ。
遙音の親は知っていた。知っていた上で、自分たちを受け入れてくれたことは、簡単に決めれるものではなかっただろう。それでも、少なくとも自分たちの前では、いつも笑顔で実の子と変わらないように扱ってくれた。それが何よりもありがたかった。
だからこそ、遙音を騙しているという事実が、常に罪悪感となって纏わり付いていた。
実際子供の頃鍛錬を積んでいたわけだが、どれだけ人間の枠から外れた化け物だとしても、物心もついていない幼子。大人の罪人たちに比べ、基礎的な身体的な問題がある。そのために大した時間鍛錬していたわけではない。その分内容は濃いものではあるが。
だから遙音は、比較的独りで遊ぶことも多かった。理由を聞いてもはぐらかされるが、必ず毎日遊ぶことは出来ていたのだから、そこまでの不満はなかった。
そんな幼少期を過ごしていた頃の話だった。
それは突然やってきて、辺り一帯(自分が視認できる範囲)を謎の光が包んだ。
後にニュースでこれが、全世界で起こったことだとわかったが、その原因はまるで分からなかった。
だが、玲にとっては大きい変化が起きていた。それは玲自身ではなく、彼女を取り巻く環境が。
悠太の記憶の喪失。
彼が今まで何をして、何をやり遂げたかったのか。それら全てを忘れてしまった。
つまりそれは罪人としての自分も喪ったということ。
大人たちは放置することに決めた。それは彼を罪人として扱うのではなく、ただの人間として見るということ。
その真意は未だに分からない。だが、それを受け止めるほか、玲には出来なかった。何かをしようにもあまりにも無力。だから、言われるようにした。
「常に刻城悠太を守れるように」
それが玲に与えられた最初の任務であった。
「こんな…ところで…」
何度も呟いて、この身に改めて刻み込む。自分の役目はなんだ?任務はなんだ?使命はなんだ?……守りたいのは誰だ?
「……このまま退場じゃ、あまりにもカッコ悪いわね……」
自分を嘲笑うように、そして再び刀を握り、敵と彼がいる場所へと駆けた。
重い。
身体が、だんだんと重くなっていく。
重量だとか重力だとかそういう話ではない。どちらかというと疲労感だろうか。
身体に力が入らない。思うように動かない。
反撃することなど既に出来ず、ただ一撃一撃を凌ぐのに精一杯だ。しかもそれも、次第に不十分になっていく。自分の身体に傷が入るのも増えてきた。
「くっ、そ……なんなんだってんだよ……!」
悪態をついたところで仕方ないが、自分の身に起きている現象に苛立ちを隠せない。
「そろそろ限界みたいね……ふんっ!」
「がっ!!?」
剣戟の間に放たれた蹴りで回避する間もなく吹き飛ばされる。
「……罪人の力の源ってね?同じなのよ」
「……はっ?」
突如、そんなことを言う。
「私たちと一緒ってこと」
「なに、を……言って……」
なんとなく、なにを言おうとしているかは分かる。けど、分かりたくはない。
「罪人もね、人の魂が必要なのよ」
「……!?」
なんだそれは?なにを言っているこいつは?
「人の魂を燃料にして鬼を狩る力を手にする……矛盾もいいところよね!人を救うために定期的に人殺しになれって言うんだもの!きっと今あなたが感じる虚脱感もそれが原因。今まで忘れてたんだから、魂採集なんてしてるはずないわよね〜。だから魂が枯渇して身体が欲してる。枯渇してるから身体も蝕まれる」
「……なんだよ、それ」
本当に。言ってる意味がわからない。というより、分かりたくもない。
仮にそうだとしたら?……俺はしていたというのか?人殺しを。
「ここでやられたくないって言うならね?ちょうどそこにイイ燃料があるじゃない?」
「な……」
エミシュが指差したのは、他ならぬ俺が守りたいと強く想った俺の宝。
失ってはいけない、失いたくない。そのために俺は力を欲したんだ。
なのに、なのにこいつは……。
「その子…殺しちゃえば?」
俺に遙音を壊せと言った。
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