第壱話 ー 其の九
少し長いかも。
「玲ーーーーっ!!!」
吹き飛んでそのまま起き上がらない玲。
「さて、と。どうするのかしら?あの子は伸びちゃってるから、しばらくは起きないと思うけど?」
「……こっの、クソが………!」
激しく憤る。自分たちを守ろうと戦っていた、数少ない友が蹴散らされることに。
「そう思うならさ、なんかやってみせてよ、ね?せっかく歯向かってくれてるのに、こっちも一方的にイジメるの面白くないもの」
「好き勝手、言いやがって……っ!」
このままでいたくない。
そんなことはとっくの前から思っている。こいつに一泡吹かせられるというのなら、是非ともそうしたいもの。だが、そうする手段が無い。呪鬼と人間。その差は容易く埋められるものなどではなく、現に、
「ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「馬鹿ね…」
近づいてきた奴に拳を有りったけの力でぶつけたところで、負傷したのは自分の右手だけ。瞬間的に骨が大壊したのが分かる。
「カッた、すぎるだろ……」
「それはそうでしょ。それくらいで傷ついてたら、私たちがこんなに怖がられることなんてないでしょ?」
「そりゃあ…そうだ……」
まるで力が入らない。もう使いものにならない。頭で理解している。
「……ったく、今日はついてない」
親友と(側から見れば)喧嘩をし、あげく夜に外に連れ出され、化け物と戦わされる。人生で此れ程憂鬱な日など、過去にも未来にもないだろう。
確かに退屈だった。毎日はつまらない。美しき日常も、目線を変えれば延々と続くループのようで、地獄にも感じる。
いつか言った。飽きてはいるが、苦しみや悲しみを伴うような刺激的な日常は求めていない、と。だったらどれだけ退屈でも、どれだけつまらなくても、あいつらといる極めて普通な日々の方が何倍もマシだと。
だったら。だからこそ。
「……お前、さ」
「?なに?」
既にこの世界に溢れた呪鬼を、異端だとか非日常などと最早言うことはできない。それはただの現実逃避。
分かっている。切り離そうとしたところで切り離せるものではないと。事実、玲は他ならぬ関係者だった。
それでも、関わりたくなかった。自分には関係ないことだと、遠い話なのだと、そんな戯言をいつまでもほざいていたかった。ただ馬鹿みたいに笑って、ふざけて、時にはくだらないことで喧嘩して。そんな高校生活を過ごしていたかった。
それを狂わせた。その張本人をどうやって許せると?言わずもがな、
「邪魔だ」
精一杯の見栄。何も出来なくとも、負けを許すのは許せなかった。
「ふふ、ふふふ、ふふふふふはははははははははっ!!」
鬼が笑う。少年のその一言に堪え切れないとでも言うかのように、笑い声を上げる。
「ふふふふ、ふふ、ほんっと最高ね、あなた。自分がどういう状況であるか分かっているのに、そんなこと言えるなんて。ふふ、素晴らしいと思うわ、ええ。ふふふ……」
素直に褒めているなどと、とてもそうは思えない言葉の色。むしろ馬鹿にしていると、それが世論だろう。
「たくさん笑わせてくれたお礼に、ちょっと小話してあげる。…あぁ、その子は大丈夫。確かに死んじゃうけど、すぐには死なないから。そういう力だし、私」
「ふざけているのか……!」
「ふざけてはいないわよ?これも私の仕事の一つだし。どっかで話さなきゃって思ってたからちょうど良かった」
真面目ではないだろうが、自分のやるべきことはやらねばならない。そういった義務感。
確かに面白い。口元を緩めそう一度思うが、けど、面倒くさい。今すぐにでも帰りたいと、内心では悪態を吐く。逆らうことが出来ぬ以上、命令には従う。
だが、理解は出来ない。仮にその話が本当でも、そこまで執着する意味が分からない。
何かあるのか?自分には分からない何かが。
「おとなしく聞いてなさい。何回も話すのは嫌だし」
そして鬼は口を開く。
「罪人といっても、細かく言えば幾つか種類がある。主に、罪人となったタイミングで。私も聞いた話だけどね。
もちろん知ってるだろうけど、罪人は元々はただの人間。詳しいことは知らないけど、特殊な方法でなんとかかんとか。改造されて生み出された、対呪鬼の生物兵器。呪鬼と同じように、それなりに強いやつはただの兵器なんて効きはしない。倒すには魔力を用いなければいけない。確かに、「鬼に最も近い人」とは良く言ったものだわ。
大半の罪人はそうやって生まれる。けれど、他にも作り方はある。罪人と罪人との間、もしくは片一方が罪人である時、生まれてくる子供も罪人となる場合も多いとか」
「…………」
少年は知る由もなかったその事実に、唖然としつつ、一つ思う。それは、
(呪鬼はそんなに知ってるのか…)
人間の敵である呪鬼たちは、同じく敵である罪人のことに関してここまで知っている。そう、罪人の元の種である人間よりも、ずっと詳しく。
「生まれ持っての罪人か。生まれてから罪人となったか。大きく分ければ、この二つ。
どちらの方がいいかなんて、私が分かるわけないけど、ただ疑問があるとすれば、後から罪人になった人間って馬鹿なの?普通、自ら地獄に行かないでしょ?」
何故、自分に聞く?
そう少年が思ったのを見透かしたかのように言葉を続ける。
「そんなことをなんで俺に聞くんだ、って言いたそうね。正直、無関係ってわけじゃないんだけど……。というか、別になった理由なんてどうでもいいか。何かしら訳ありなんだろうし。
…問題はそこじゃないのよね。
一度罪人になった人間は、二度と人間には戻らない。それはルール。けれど、ごく稀に例外がある」
「例外……?」
「そう、例外。稀と言っても一人しか知らないけどね……」
悠太は、あまり人の話を信じない。どちらかと言えば慎重、まずは疑ってかかるタイプだ。ましてや呪鬼の話。信じる理由など微塵もありはしない。
なのに、不思議と、この話は確かなものだと確信に似た認識をしていた。
信じると言うと些か語弊がある。悠太にはその話が既知であるように思えた。現実味があるとか、呪鬼の話し方が真に迫っているとかではなく、ただ自分が知ってるから信じられるだけだ。初めて聞いた話なはずなのに。
それも奇妙な感覚だが、それを確信付ける別の違和感。
「-----っ」
一瞬、一瞬だけモノクロに変わる世界。例えるなら、昔の記憶をふと思い出した時のような、頭の中のアルバムから引っ張り出してるような。
「自分が罪人であることを忘れてしまった者、そんなやつがいるのよ」
「忘れて……いる…………っ!!」
そして激しい頭痛。嫌な吐き気がする。気持ち悪い。無理矢理なにかをこじ開けられるかのような、鈍い痛みに嗚咽が溢れる。
なんだなんなんだ。なにかの扉を無理矢理開けようとしている。なぜ?なぜこんなに身体が反応する?まるで、自分がそれに深く関わっているみたいな……。
「……俺と?関係している?」
言葉にして理解する。そして、少しずつ戻ってくる。霧が晴れていく。だが、その見えた景色は決して絶景ではなかった。
「そうよ」
俺は
「あなたよ」
罪人。
「忘れているやつは」
少しずつ書いて貯めて長文で投稿していきたいと思います。




