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無音の魔術師  作者: 芹沢十嘉
おまけ
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脱走

 俺と同じ半獣は、なぜかここに集められていた。

 監獄都市と呼ばれているその町で、俺達は執行者と呼ばれていた。

「…………」

「おうチビ。どうしたんだ?」

「ヒャクイチは?」

 おじさんはその先にある木を少し見て、俺を見た。

 手で俺を追いやるような仕草をすると、吐き出すような声が届く。

「……止めとけ。同じ目に遭うぞ」

 頭に白く長い耳、木にくくりつけて息もしていない。仲が良かったのかはよく分からない。

「興味、ない。……べつに」

 ここではこれが当たり前、日常の風景。

 ただ、数が減って少しだけ負担が増える程度だった。一日に執行する回数が増えるだけで、それ以外は特にない。

 牢屋から引きずり出して、殺す。

 俺達の仕事は、同時に存在理由だ。

 そして今日も同じように牢屋にいく。

「やあ、こんにちは」

 赤い髪は長くて、何故か笑っていて。

「おーい、おチビさん」

 それは、俺に向けられた笑顔だった。全く面識のなかった俺は訳の分からないまま、彼を観察してみる。

 やはり見たこともない。

「僕を殺すんだよね? じゃあ僕と勝負しようよ」

「……え?」

「だからどうせ殺すんでしょう? だったら良いよね。僕弱いし」

「…………」

「おっちゃん! 良いでしょ!」

 正直うるさくて、何が起こるのか分からなくて、些細な変化が怖くて、ここで今、終わらせようと思った。

「あー! わぁった、わぁった! 好きにしな!」

「えへへ、さんきゅー」

 変わるのが怖かった。

 いや、変われないかもしれなくて怖いんだ。

「あ、最期に僕の得物使って良い?」

「うるさい! 好きにしろ!」

 抵抗するやつは確かに多くいたが、はじめから戦いを挑んできたのは、彼だけだった。

 そこから色々聞かれたが、何を答えたか分からない。聞こえていたのかも分からない。

 ただ、すごく気持ち悪いものが体の中にあるのが分かった。

 吐き出したかった。

「猫ちゃん」

「なに?」

「…………逃げない?」

 何を言われたのか、分からなかった。

 いつしか屋外に出ていて、彼は俺の目の前にしゃがみこんで言った。小さいと馬鹿にされてる気分だが、確かに俺は彼の腰辺りまでしか背がない。

「逃げたい?」

「なに、それ」

「逃げようか」

「そんなことしたって」

「逃げるよ」

 最後のそれは合図だった。

 ただ、俺への合図ではなかった。

 赤髪は俺を担ぎ上げると走り出した。後ろからは、逃走に気づいた人たちの怒号が聞こえる。

「ひぎゃあ! あんたなんだよ下ろせーっ!」

 弱そうなやつなのに、バランスも崩しているのに異様に速い。

 俺は逃げるのも殺すのも忘れて、そのからくりを探した。

「黙ってた方ぎゃっ……舌、噛むよ……」

 それはあんただ。

 原因はすぐに見つかった。足と靴底になにか描いてある。魔方陣のようだ。それが順番に光って、地に陣を描いている。

 魔術師だ。

 やけに、というか無駄に長い槍に騙された。

「加速するよ!」

「ひ、ぃ……!」

 ぐんっと体に力が加わり、起こしていた頭をこいつの背中に打ち付けたくらいだ。

 赤髪がむせてくれたから、スッキリしたけど。


一応これで全てです。何とか無事に、ラストまで行けました。

ここまで読んでくださった方は、ありがとうございます。

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