断章.ソフィア・アサラベル
近頃、アリスちゃんが男の子にべったりで、少し妬いています。
冗談です。
人見知りなアリスちゃんなので、嬉しくもありますが、親として複雑なのです。
男の子の名前はゼシカ。メフィルス伯爵家の長男ですね。
「ゼシカ……ジェシカ…ジェシー……」
ハーフエルフでつまり母親が人間なのですが、私は彼女を知っているのです。
とても綺麗な黒髪と黒い瞳の、活発なお姫様でした。
私が彼女にあったのは、二度だけ。
一度は彼女が嫁いできた時、もう一度は、アリスちゃんの出産祝いで。
その時連れていた男の子がジェシーくんでした。
「ソフィア様、ご機嫌ですね」
「ジェシーくんって、どんな子?」
私は、部屋の掃除をしてくれているメリちゃんに聞いてみる。ジェシーくんとは確か幼なじみのはず。
「……あ、ゼシカちゃんですか」
「……?」
「良い人ですよ。はっきりしていますけど。少し冷めているように見えて近寄りがたい空気はありますが、向き合えば無視はしませんよ」
ジェシーくんを冷たいと言うメリちゃんの笑った顔を、私は未だに見たことがありません。
昔はアリスちゃんと仲良くしてくれたけど、今は顔を合わせているのも見たことが無かったりします。
「母さん」
「セイくん。どうしたのですか?」
私のことをそう呼ぶのは、兄弟の中で唯一、銀髪なアレクセイだけです。もしかしたら、エルフの中でも銀髪は珍しいかもしれませんけど。
ともかくリクくんもアリスちゃんもエミちゃんも、母様と呼びます。
少し寂しいです。
「どうかしましたか?」
「本を返しに来ただけだよ。メリアちゃんがいると知ってたら邪魔はしなかったけどね?」
「ちゃん付けは止めて下さい」
「ゼシカちゃんは良いんだ?」
「…………」
私にも、この二人はあまり仲が良くないのは分かります。この間はアリスちゃんの話をした時、火花が飛び散りました。
「また、黙り? たまにはあのハーフエルフみたいに愛想を使えばいいのに」
「嫌です。構わないで下さい」
大変です。かなりバチバチきてますね。しかし、口を挟む前に話し出してしまいました。
タイミング読めません。
「まぁ、君は賢明な方か。無駄な足掻きはせず、危険は避けて通るってね」
「……」
セイくんは、口が達者です。
元々は良い子なのに、どうしてしまったのでしょう。
「セイくん。メリちゃんをいじめてはいけませんよ」
「……母さんに免じて、勘弁して上げる。くくくっ……そんなに眉間にしわ寄せてると、可愛い顔が台無しだよ?」
「思ってもないくせに、ふざけないで下さい」
「確かに、アリスティの方が何十倍も可愛いよ」
二人の気が合わないのは今更だけれど、私の部屋でぶつかり合うのが大半な気がして仕方がありません。
私はため息を吐き、結局まだ言い合っていたセイくんを、もう一度止めてみることにしたのでした。