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恋空桜模様  作者: 乾 碧
9/10

チョットシタ×キガカリ

 

  「はぁう………………」


  桜花(さくら)はドレッサーの前に座って、ポニーテールをほどいたりもう1回ポニーテールにしたりしていた。下駄箱の所で(れん)と別れて自分の部屋に戻ってからずっと、だ。


  「もうこんな時間……」


  6時半。1時間くらいは髪をいじっていたことになる。


  「もうすぐかぁ…………」


  後30分もすれば晩ご飯の時間。蓮と一緒にいれる時間。毎日一緒に食べているわけではないけれど、桜花はこの時間が好き。いや、蓮と一緒にいれる時間の全てが好き。


  「でも……………………」


  もし、あの頃、自分と蓮が付き合っているという噂が流れたあの日。その噂を受けて本当に付き合うことになっていたりしたら、今どうなっていたのだろうと思う時がある。


  戻りたい。そう思っても過去に戻ることは到底不可能だし、今更噂をまた流れることもないだろう。


  クラスの皆が、噂を流した皆が、その噂を信じていた皆が、1年生の全員が、この噂をもう信じていない。いくら今まで以上に蓮と仲良くなったとしても噂は流れない。それを普通と思っているから。桜花と蓮の仲の良さを不自然と思う人はいないから。


  そんな噂を真っ向から否定してしまった桜花だけど、蓮のことが気にならないわけではない。1番近くにいる男の子なのだ。気になるに決まってる。


  だけど、今告白したところで、どうにもならない。一度否定してしまったから。それなのに告白なんてものをしてしまったら、蓮は困ってしまうだろう。自分のことで困らせたくはない。


  コンコン。


  「……………………ん? 」


  扉をノックする音が、桜花の耳に届く。こんな時間に誰だろう。髪をほどいたままだったけど、待たせるわけにもいかないので、桜花はそのままの状態で扉の方に向った。



● ● ● ● ● ●


 

  女子寮にいるってだけで、ちょっとそわそわする。あまり女子寮に入ったことがないから余計に。


  男子寮長だからといって、簡単に入れるわけではない。まぁ、書類だけは簡単に作れるんだけど、そんなに大したようもないのに頻繁に女子寮に行っていたら、他の男子生徒に示しがつかない。それに、変な恨みを買うかもしれない。それだけは、避けたい。


  「そういえば、比良(ひら)

  「何ですか……? 」


  佐々木(ささき)先輩は僕のことを"比良"と呼び捨てにする。まぁ、それは当然のことなんだけど、ちょっと慣れない。桜花や菊夕(きくた)先輩からは蓮って呼ばれるし、クラスの女の子は比良君って呼んでくれるから。気にすることでもないんだけど。


  「あの子………………桜花とは仲良いの? 」

  「それなりには……」


  あれ……? 佐々木先輩は噂を知らないのか。菊夕先輩と佐々木先輩は仲良さそうだし、菊夕先輩が知っているのだから佐々木先輩も知ってるもんだと思ってたんだけど。


  「葉月(はづき)は知らんのか? 蓮と桜花ちゃんの仲の良さは、付き合っているって噂が出るほどなんやから」

  「へぇ…………。そんなに仲いいんだ…………」

  「まぁ…………」


  何か気恥ずかしい。


  「それが気になったんですか? 」

  「え、そ、そうよ……っ。それだけ」

  「どうしたんや? 葉月? いつもと何か違うような気がするんやけど」

  「そんなことないわよっ。あたしはいつも通りよ……っ」

  「それならそうで別にかまへんねんけど……」

  「ほら、はやく桜花のとこまで案内しなさいよ」


  何やら急にワタワタとし始めた佐々木先輩は、僕の背中をバシバシと叩いて急かしてくる。痛い痛い。気になることがあるけど、後回しにしたほうがよさそうだ。

 


● ● ● ● ● ●



  「ここですね」

  「そうやな」


  ここの寮のそれぞれの生徒の扉には、その部屋が誰の部屋なのかを示すプレートがかけられている。もちろん、部屋を間違えないようにするため。


  見た感じ作りは一緒だし、寮生でも間違える人が多発したのだとか。それも昔の話。残っている昔のデータに書いてあった。


  コンコン、と2回ノックする。ガチャ、という音と共に扉が開かれる。


  「蓮……!? 寮長…………? それに…………」


  何故か佐々木先輩を睨みつけている桜花。桜花はポニーテールではなく髪をおろしていた。ちょっとびっくりした。その新鮮さに。

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