センパイ×ノ×タノミ
僕の膝に乗ってルンルン気分な菊夕先輩。僕は頭をズラしてパソコンを見てるわけだけど、目の前に菊夕先輩の頭があるわけで、菊夕先輩が右に左に揺れるたびに、シャンプーの香りが僕の鼻腔をくすぐる。
僕も一年の時からこの寮に住んでいて、菊夕先輩はその時からいたわけだから、桜花の次くらいに仲が良いけど、菊夕先輩を膝の上に乗せたのは、これが初めて。
もちろん、桜花はそういったことを頼んでこないので、乗せたことはない。まぁ、頼まれてしまったら、今、菊夕先輩を乗せているように、押されてしまうかもしれない。
「パスワードは順番に、3、9、l、o、v、e。覚えときや? 忘れたらあかんで」
「はい。ありがとうございます」
菊夕先輩がパスワードを打ってくれたことにより、パソコンの画面はデスクトップを表示させる。
マウスを菊夕先輩が持っているため、菊夕先輩はマウスをカチカチとして、そこいらのファイルを開けている。なんという素早さ……。
……見ている場合ではないかな……。
学校のパソコンであるから、そんないかがわしいデータとかはないけど。
まぁ、マウスの主導権を奪おうとしても、菊夕先輩は僕の膝に乗ってパソコンを操作させているから、もうちょっと先輩にくっつかないといけなくなる。
それだけは、やめておかないと。僕の理性的にも。後、色々なために。
「そうや、蓮」
「何です? 」
「久しぶりに、夜ご飯一緒に食べへん? 」
「あぁ………………。せっかくなんですけど…………」
残念ながら、桜花との先約がある。僕は一緒にご飯を食べる人数は多くても別に困らないんだけど、どうしても桜花は僕と二人きりで食べたいらしくて。
そりゃ、僕と桜花は仲が良いし、そうしていたとしても何ら不思議はないのだけど、たまに気分を変えたくなる時もある。
これまでに、桜花と一緒に晩ご飯を食べなかった回数は両手で数えられるくらいで、その回数のほとんどは、菊夕先輩と一緒に食べている。
「桜花ちゃんやったか」
「はい」
「二人はほんとに仲えぇよな。羨ましいわ」
ちょっとだけ、褒められた気分。別に褒められてはない気もするけど。
「でも、たまにも、僕も桜花ちゃんと一緒に食べてみたいんやけど……。頼めへんか? 」
パソコンの画面を見ながら、僕の方には顔を向けず、声を作っている。先輩の目は、そこに映し出されている文章を追っている。
「まぁ、それくらいなら……」
「ありがとう」
そう言った菊夕先輩は、俺の目を見つめながらニッコリと微笑んだ。至近距離で放たれる、とても可愛らしい破壊力抜群の笑顔。
他の人の頼みをなかなか断れないのは、こういう笑顔を見たいからかもしれない。桜花と食べれることが決まったら、これよりもいい笑顔を、先輩は僕に見せてくれるかもしれない。
「ほな、ちゃっちゃっと仕事終わらせて、桜花ちゃんとこ行こか」
「そうですね」
さっきまでも機嫌が良かった菊夕先輩。もちろん、それよりも今は機嫌が良さそう。何か、楽しそうである。
それもそうかもしれない。だって、これまでに、菊夕先輩は桜花とちゃんも話したことがない。何かの偶然だったりするのかな。
「本棚の整理とかする? ここに来てから、一回も触ってないやろ? 」
「それもそうですね…………」
パソコンを立ち上げているのだから日誌を書こうと思っていたが、菊夕先輩がそういうなら、そっちからした方が良いかもしれない。
本棚にはかなりの数のファイルがあるし、今なら、先輩が手伝ってくれる。
仕事のスピードも、大幅にアップかな。