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恋空桜模様  作者: 乾 碧
4/10

トツゼン×ノ×ホウモン

 

(れん)。帰ろ」

「うん。分かった」


 これも日常。僕の後ろの席にいる桜花(さくら)は、いつも僕の制服の裾を引っ張るようにして言ってくる。

 教室から出た僕達は、正門に向かわず裏門の方向に向かう。僕達の帰る場所は一緒。


 だって、寮に住んでるから。


 桜島(さくらじま)学園の寮だから、サクラ寮。

 全体的にピンクと白を基調としているデザインで、見た感じ、外国のお城みたいな感じ。


 このサクラ寮に住んでいる生徒数は、男女合わせて120人くらい。全生徒数の3分の1くらいが、この寮に住んでいる。ちなみに、男子が40人くらいで、女子が80人くらい。

 何で女子の方が多いのかというと、この桜島学園。昔は女子校だったらしい。で、共学にしたらしい。


 もう一つ、サクラ寮の特徴としては、男子と女子の寮がくっついているということ。だから、こんなにも大きいのだ。


 元々女子校だったから男子寮なんてものはなく、新たに男子のためだけに寮を新設するのは金銭的に無理だったらしく、もとあったものをリフォームしたんだとか。

 で、まぁ、一緒になってるということは、目を盗んでは女子側に行こうとする生徒もいるわけで。


「寮長としての仕事とかある? 」

「いや、大丈夫だよ。ありがとう」


 2年生になったばかりの僕ではあるが、男子側の寮長は、まさかの僕である。数日前に選ばれたばっかり。


 最初は僕じゃなくて3年生がやるべきではと思ったのだけれど、残念ながら、この寮に3年の男子生徒は住んでいなかった。

 そもそも、3年生の男子の数は極端に少なく、その中でこの寮に住んでる人となれば、該当者はいなくなってしまうのだ。

 で、僕にお鉢が回ってきたというわけ。


「夜ご飯、何時くらいが良い? 」

「どうだろ……。7時くらいかな? 」


 今が5時半だから、その頃には仕事もだいたい片付いてるだろうし。


「分かった。7時ね」


 嬉しいことに、この寮に住んでると、朝食と夕食がもれなくついてくる。もちろん、作ってくれているのは購買部のおばちゃん達である。

 自炊をしてもいいのだが、しない人は、食堂でおばちゃんたちのご相伴にあずかることになる。


「じゃ、後でね」

「うん」


 サクラ寮の入り口を入ったところで、サクラ寮専用の上靴に履き替える。土足は禁止なのだ。



● ● ● ● ● ●



「仕事しないと…………」


 僕の部屋、いわゆる寮長室。ここが、僕に与えられた部屋。他の部屋より広いらしく、結構快適な空間。仕事がしやすいようにパソコンもついてるし、本棚とかもたくさんあって、昔の寮長の記録とかが残っているのだとか。


 鞄をベットに向かってなげる。いつものルーティン。


「痛い…………っ! 」


 ……。


 …………。


 ………………。


 聞き慣れた声。毎日のように聞いてる声。それであって、桜花ではない声。


小松(こまつ)。こんなところで何してるんだ? そこは僕のベットだ」


 妹の小松がそこにいた。何食わぬ顔でそこにいた。まるで、そこにいるのが普通とでも言わんばかりに。


「お帰りなさい。蓮お兄様」


 ベットの上に座り直した小松は、三つ指をついて言う。


「うん。ただいま…………じゃなくて…………っ!! 」

「どうかしたんですか? お兄様? 」


 不思議そうに首を傾げる小松。小松のトレードマークである二つのおさげが、それに合わせて揺れる。


 声をひそめて話を続けることにする。部屋にいくら妹であれ女の子を入れたことが周りにバレてしまえば、大変なことになる。だって、僕、寮長でもあるんだし。


「何でここにいるのかな? 」

「だってここ、お兄様の部屋ですから」


 ニコっと笑いながら言う小松。どうやら、小松の癖は変わっていないらしい。


 その癖というのは、僕の部屋に忍び込むという癖。それが治るかもしれないという希望を抱きつつ、僕はこの寮に入ったんだけどなぁ……。どうやら、意味はなかったらしい。


「久しぶりにお兄様とこうして会うのです。いいじゃないですか」


 そう。僕がサクラ寮に入ったということは、本来の家に帰る機会がぐんと減ってしまったということ。


 僕には妹以外にもお姉ちゃんの松菜(まつな)もいて、お姉ちゃんとはちょくちょく話すわけだけど、小松とは、そんな機会は僕が家に帰った時くらいだった。


「それはそうかもしれないけど、ここは寮で、しかもこの場所は男子寮。バレたら大変なことになるんだよ? 」


 主に僕が。


「それは分かってます。でも……」

「今日はもういいだろ? 」


 僕は、ひさしぶりに小松の頭を撫でる。この感覚も久しぶりか。

 もしかして、小松は僕に会えなくて寂しかったのかな。かなり甘えん坊なところあるし。


「分かりました。今日()帰ります」

「うん。分かってくれたようで何より」

「それじゃ、お兄様。また明日」

「待って、小松」


 すばやく僕のベットの上から降りた小松は、すぐに部屋から出ていこうとする。


「何ですか? 」

「晩ご飯。一緒に食べない? 久しぶりに」

「それは嬉しいですけど…………」


 あれ? 乗ってこない。先約があるのかな?


「今日は、お姉ちゃんと一緒に、お姉ちゃんと食べることになってるんです」

「そっか。それなら仕方ない」

「ごめんなさい。蓮お兄様」


 ぺこり、と小松が頭をさげる。そこまでしなくてもいい。ついでに、謝らなくていい。


「いいよ。気にしないで」

「それじゃ」

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