コイ×ノ×ハナビラ
テラスへと繋がっている階段の踊り場。その場所に、一人の女子がいた。
「はぁ……。どうしてなのかなぁ…………」
彼女の名前は比良松菜。名前からみてとれるように、蓮の家族であり、蓮の姉でもある。
「あれで付き合ってないって言うんだから……不思議なもんよねぇ……」
松菜は蓮を見ていた。お友達の桜花と仲睦まじくお昼ご飯を一緒に食べている蓮を見ていた。
視線の先のテラスで二人がご飯を食べている時は、ずっと、松菜は上から眺めている。
あの二人の間に割って入りたいと思ったこともある。衝動を押さえきれずに行動に移してしまいそうになったこともある。その度に、松菜は自分で自分の心にストップをかけていた。
「私はお姉ちゃんだからねぇ……」
たった1年早く、同じ母から産まれただけであるが、それが、松菜は蓮の姉であるということを決定付けている。
我慢しなければならない。二人は付き合ってるように見えるが付き合っていない。
もし、付き合っていたなら、歯止めが効かなくなっているだろう。傍目からはそう思えないが付き合っていないから、まだ踏ん張っているだけ。
「お姉ちゃん…? どうかしたんですか? 」
突然、背後から、階段の上から、聞き慣れた声が聞こえた。
「小松か……。蓮を見てたのよ」
比良小松。松菜の妹。もちろん、蓮の妹
「蓮お兄様をですか? 」
「そう」
小松から視線を外し、蓮に移す。松菜の隣に来た小松も、松菜に倣う。
「あの光景は………………っ」
「入学したばっかりの小松は知らないだろうけど、あの娘は蓮の友達」
「友達…………? 今、あーん、ってしてましたよ? それなのに、蓮お兄様とあの方は友達だと言うんですか? 」
「そう」
やはり、小松だって思うこと。皆が思うこと。あんな光景を見せつけられたら、彼氏彼女の関係にしか見えない
でも、違う。
「で、お姉ちゃんはずっと見ているのですか? 私が入学するまで、ずっと見ていたのですか? 」
「うん」
混ざれない。どう頑張っても、混ざれない。
● ● ● ● ● ●
「……………………」
蓮と桜花が座っている席から50mほど離れた距離にある桜の木。その木の陰に隠れるように、一人の女の子がいた。二人に気付かれないように二人を見ている女の子の姿が、そこにあった。
長い長い髪を風になびかせながら、松嶋秋華は、蓮を見続けていた。
秋華は蓮のことを知っている。ずっと昔から。だけど、蓮は秋華のことを知らない。話したことがないから。
なのになぜ、秋華は蓮のことを見ているのか。
それは、隠れ幼馴染だから。
小学校1年の頃から高校2年になる今まで、ずっとクラスが一緒。そのことすら、蓮は気付いていないだろう。だって、秋華は目立たないから。
高校に入ったらそんな自分を変えようと思っていた。頑張って、蓮に話しかけようと思っていた。
「それなのに………………………………」
そんな秋華の思いは、桜花によって砕かれた。
入学初日。ホームルームが終わったその時にはもう、二人は仲良さそうに話していた。
そんな二人を見てしまったから、秋華は下がるしかなかった。桜花と自分を比べてみて、蓮は自分より桜花と仲良くなったほうがいいと思ってしまったのだ。
でも、秋華はずっと蓮のことを見ていたのだ。なかなか、蓮と話をしたいという思いを失くすことは出来なかった。
だから、こうして、機会をうかがっている。でも、機会がない。桜花は誰にも機会を与えない。
「私のほうが…………ずっと近くにいたのに……………………」
それは紛れもない事実。桜花は知らないけど、その時間の差は変わらない。
それなのに、今、蓮の側にいるのは秋華ではなくて桜花。桜花なのだ。
それも、紛れもない事実。
でも、チャンスがある。
「二人は付き合っていない…………………………」
付き合ってないのだから、そこに自分が付けいる隙がある。蓮と話せるチャンスがある。本当に付き合っているのなら完全に引けるが、付き合っていないのだから、まだ前に進める。