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たぶん、あいの話



 「結局、愛ってなんなんでしょうか?」

 何杯目かの中ジョッキを空にして、私は問う。

 誰に?空中に。もう、視線も定かではない。

 「んー、それってどれくらい真剣な質問?」

 隣に座る、境田はけろり、とした顔である。同じくらい飲んでいるはずなのだが。

 「お強いんですね」

 「いやいや」

 「前の彼は、弱かったんですよ」

 「ほうほう」

 「初めて会ったのは飲み会で…、あ、合コンとか、そういうんじゃなくデスね。あの、内輪の集まり的な」

 「うん」

 「彼は友達の友達の…みたいな人で、なんというか~私の周りにはいない感じって言うんですか?その、真面目っぽいというか…、ちゃらんぽろん?あれ?」

 「ちゃらんぽらん?」

 「そう!ちゃらんぽらんじゃない!感じがいい感じで、その…」

 「うんうん」

 「その飲み会でも、なんかバカな…あ、これは私の友人でどうしようもないのがいるんですが…、そいつが無理矢理飲ませたもんだから、彼、吐いちゃって」

 「大変だね」

 「ええ、それを私が介抱して、彼は『ごめんねえ、ごめんねえ』っつって」

 「へえ、えらいねえ」

 「いやいや、そんな、えらくなんかありませんよ~」

 「じゃあ、それが馴初めで?」

 「え?えへへ、ええ。ええ…、はい。でも…」

 「うん」

 「ちょっと前に、別れちゃいました」

 「へえ、そう。なんでまた?」

 「聞きます?ふつう」

 「聞いて欲しそうだったから。そうじゃなかったなら謝る。取り下げるよ」

 「あはは。変な人ですね、境田さん。ええ、まあ、単純な、ありきたりな話なんで、面白くもないんですが、まあ、端的に言って浮気です、彼の」

 「ああ~そりゃあ…」

 「なんです?」

 「お疲れ様です」

 ブッ!!

 噴出した。変な汁がテーブルに飛び散る。酔っているとはいえ、いささか弁解の余地がない。

 「なんです?『お疲れ様』ってえのは?」

 「じゃあ、『お悔やみ申し上げます』?」

 「ククク…境田さんも実は酔ってますね?」

 「そりゃあ、お酒を飲んでいますから」

 境田がグラスを持ったから、思わず私も持つ。

 無言の乾杯。意味はない。

 「じゃあ、さっきの質問。『愛ってなんなんでしょうか?』」

 「愛は『I』さ。僕なら僕。君なら君」

 「は?」

 「まあ、単純な言葉遊びの語呂あわせ。ダジャレ、親父ギャグみたいなもんだけど。要するに、僕なら僕を構成する全てが総て『愛』だ。当たり前のようにそこにある、何気ないそれら。大事な大事なそれ。愛用の枕とか、いつも座っている職場の椅子とか、よく立ち寄るコンビニとか、家族とか、右手とか左手とか、もろもろの全てが僕にとっては『愛』だ」

 「え?はあ…」

 「そういえば僕は、小学生のころ理科が大好きでね」

 「はあ」

 「オオカナダモの細胞の観察は未だに忘れられない。あ、今でもスケッチできるよ」

 境田はどこからかボールペンを取り出し、コースターの裏側にすらすら、とオオカナダモの細胞(らしきもの?)を描いて見せてくれる。

 正直、ぴんと来ない。

 「ぴんとこないでしょう?」

 ギクリ。

 「これは僕の大事なもので、君の大事なものじゃないからね」

 「ああ、じゃあ、境田さんは、オオカナダモに恋しちゃったわけですか」

 「まあ、そうだね。あれは恋だった。人は恋をして知り、愛にして受け入れるんだ。『恋愛』というのは循環、いや、代謝だね」

 「私たちには、老廃物がたまっていたっていうんですか?」

 「さあ?どうだろうね。どう思う?」

 「わかりません」

 「じゃあ、それが正解」

 「え?」

 「わからないものは、わからないよ」

 「そう、ですかね。そう、ですよね…」

 カバンの中の、携帯電話が揺れた。着信である。

 「あ、すいません」

 どうぞ、と境田は無言で促す。

 「はい、もしもし…あ…」

  彼だった。

 「あ、えっと、ごめん。なに?え?今から?」

 どうしよう、どうしよう、どうしよう、と三回唱えていると、横から携帯電話を奪われた。

 「やあ、こんばんわ。境田です。だれ君だい?ぼくは君の元彼女をこれから口説こうかと思っている者なんだけど…え?ああ、先に言ったろ?境田だよ。境い目の『境』に田んぼだ。そう、さ・か・い・だ…」

 「ちょっ…、なにやってるんですか?」

 「んー?もしもし?今、彼女に怒られちゃった。うん、そう。あはは、そりゃそうだよねえ」

 いやいや、なに笑ってんだ!この人!!

 「あーじゃあ、こうしようぜ、君。彼女に決めてもらおう」

 「え?」

 「君のところに行くか、僕と一緒にいるか、な?」

 「え?」

 「じゃあ、ラストPRターイム!」

 「えぇ?」

 「はい」と手渡される携帯電話。手汗が滲み、若干震える。

 「もしもし…。……うん。………はい」

 電話を切る。

 「あの!」

 「うん。いってらっしゃい」

 「あ、え?」

 「行くんでしょ?彼のとこ」

 「ええ、まあ」

 「じゃあね」

 「はい…あの、でもまだよりを戻すとは…」

 「いやあ、100%戻すんじゃない?」

 「100ですか?」

 「100でしょ?で、彼はいつかまたやらかす」

 「う!予言ですか?」

 「いや、統計かな」

 「どちらにしろ胡散臭いですね」

 「まったくだ」

 「なんというか…ごめんなさい」

 「いいよ。僕も楽しかった。がんばって」

 「じゃあ…」

 「ばいばい」



まさか読んでいただいた方々へ。


ありがとうございます。


境田さんの相手の子は一話の子とは別人のつもりです。まあ、同じでもいいです。



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