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第四話

 真実?


「あなたは、あなたの守護する禁足地がなぜできたのか、ご存知ないだろう」

 ジェムナンド山の禁足地。

 それは、神々に供される薔薇を守るため。

 それ以外に何があるというのだろうか。


「これから先に話すことは、他言無用だ」

「‥‥はい」

 里長は一度、ジェムナンド山の頂上へ視線を投げて再び私をみる。

 その瞳には、‥‥‥恐れ?


「ここは単に薔薇を乱してはならないための禁足地ではない。清泉を守るための地なのだ」

「‥‥‥」

「‥‥‥この泉には、はるか昔、魔が封じられたのだ」

「‥‥‥」

「その魔は、はるか昔に多くの人間を呪い、焼き、喰った。今も歴史に残る第四の魔のことだ。女神の御助力によりこの地に封じられたのだ」


 私はまじまじと里長を見返す。

 何を突然言っているのだろうか。

 突拍子もない話に私は言葉が出てこない。

 しかし、語る里長の表情は真剣そのものだ。


 第四の魔。

 それは知っている。


 この皇国には多くの歴史がある。

 伝承で、文書で、数多く記された歴史の中に、誰もが知る開祖アウルスリールの、開国のための魔封じの旅の話がある。

 二千年ほど前のこと、アウルスリールがこの皇国を建国する以前、この大陸は魔の跋扈する地だったのだ。その名残が、今も開国以前の魔が住まうとされる不可侵の森だ。

 その当時の人々は、魔を恐れ、魔という災いを避けるために、ひっそりと身を寄せ合って暮らしていた。魔たちは、時折、いたずらのように人間を狩り、遊びのように残虐を繰り返す。突然の残虐がその身に降りかからないことを祈りながら、息をひそめて人間は暮らしていた。

 そんな中、開祖アウルスリールは人の世を望んだ。

 幼いころに家族を目の前で魔に虐殺された彼は、人の世の平和を切に願っていたのだ。

 人が平和に暮らすには、魔を倒さなければならない。

 その当時すべての魔は、四つの魔によって束ねられていたのだ。

魔の社会とは、純然と力によって階級づけられた世界であり、その四つの魔を倒すことで、アウルスリールは人の世を作ろうとしたのだ。


 第一の魔は水を操り、アウルスリールの行く手を阻んだ。

 しかし、アウルスリールは火山の奥底の、煮えたぎる溶岩の中に、父の形見の剣で縫い付けて倒した。


 第二の魔は風を操り、アウルスリールの体をこの大陸から吹き飛ばそうとした。

 しかし、アウルスリールは偶然通りかかった有翼人に助けられ、その翼の力を借り、魔を母の形見の弓矢で射て倒した。


 第三の魔は夢を操り、姿を見せずにアウルスリールを狂わせようとした。

 しかしアウルスリールは、妹のリボンと引き換えに先の有翼人と協力し、三日三晩眠らずに第三の魔の居場所を突き止め、素早く切りかかり倒した。


 そして第四の魔は火を操り、アウルスリールを焼き殺して喰おうとした。

 アウルスリールは必死で攻撃をかわした。

 しかし、どうしても勝てる気配がなかった。その残忍で恐ろしいほどの力を持った第四の魔に。


 時間だけが無為に過ぎて行った。

 魔に反抗したとして、いたずらに人々の命は第四の魔に次々と消されていった。

 その現実に、アウルスリールの心は折れそうになった。

 人の世を望み、人が豊かに、平和に暮らせるように必死で戦った。

 しかし、ここまでなのか。

 彼は悲嘆の涙を流した。

 その涙が、美しい水の女神の心をゆすぶった。

 そう、アウルスリールの涙は天界を震わすほどの悲しみに満ちたものだったのだ。

 その悲しみに好奇心を抱いた水の女神が地上に降臨した。

 降臨した女神は、アウルスリールの魂の輝きに惚れ、ただちに夫になることを求めた。

 それはすなわち、地上を去るということだ。

 人間は天界に行くことができない。

 肉体に縛られたものでは、天界の門を開くことができないのだ。

 女神はアウルスリールに命をささげることを求めたのだ。


 しかし、彼はその申し出を断った。

 呆然とする女神に彼は言った。


『私は人の世を築きたいのです。父を殺し、母を喰らい、妹を引き裂いた魔が許せない。こんな憎しみをもう誰も抱いてほしくない。すべての人間が、平和に暮らせる世界を求めているのです。志し半ばで、あきらめることはできません』


 女神は落胆した。

 どうしてもアウルスリールを天界に連れて帰り、共にありたかったのだ。

 彼の強い意志を知ってからは特に。

 女神は、拒否の言葉を聞いてもアウルスリールを得たかった。

 女神の嘆願に、アウルスリールはしばし考えてこう言った。


『ならば、人の世を私に下さい。そうすれば私はそれ以上の望みなく、あなたに私のすべてをささげましょう』


 女神は喜んだ。

 魔といえども、神とはその住まう世界が異なる。

 アウルスリールの言葉を聞き、水の女神は第四の魔を、自分の領土である水の中の奥深くに封じ込めたという。その圧倒的な力を持って。


 そうして、人の世が築かれたのを見て、アウルスリールは迷うことなく、女神とともに旅立ったのだ。

 アウルスリールの命を代償に、女神が第四の魔を封じなければ、アウルスリールの皇国の建国はなかったといわれている。


 そんな魔が。

 ここに封じられているというのか。

 開祖アウルスリールが、倒せなかった魔が‥‥‥ここに?


「真実を告げれば、だれも守護者にならない。昔はそれでも無理やり赴任させていたらしいのだが、魔の恐怖で発狂するもの、自害するものがいたそうだ。そのために詳細を告げることをしなくなったのだ」


 もちろんそうだろう。

 第四の魔は、子供のころから耳にする、アウルスリールの開国のための話の中で、最も恐ろしい魔と称される。

 女神の力でしか、人の世にない力でしか倒せない魔であり、女神がアウルスリールに力を貸さなければ、今の世はなかったといわれるほどのものなのだ。

 ‥‥‥誰がそんな魔の封じられている地の守護を、努めようというのか。


「禁足地に足を踏み入れたものは、今、シラサギ亭に止まっている。シラサギ亭の主人が、この時期に珍しい薔薇の花を持った騎士を見て、我々に異常と届けてくれたんだ。なんでも皇国の“聖騎士”なんだそうだ」


 息子は侮蔑の色を浮かべて吐き捨てるように、言った。

 その中には激しい怒りと、恐れの色も含まれている。

 聖騎士は神殿に務める、神殿のための騎士である。

 剣を持ち戦うのは、自分たちの信じる神々の信託のためであり、守るべきは神々の定めた戒律。

 そんな聖騎士が女神の封じを解いた、という。


「これはこの国の、この世界の存在にかかわることだ。もしも封印が解かれたのならば、その責を負うのは、清泉の守護であるあなたの役目だ」


御一読ありがとうございます。

まだまだ説明的な文章が多いかもしれません。

誤字、脱字などありましたら(できれば)やさしく御指摘お願いします。

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