第十一話
会議の開始の言葉とともに、神殿の窓という窓が、神殿に仕える巫女たちの手により白布で覆われ、閉じられる。
日の光を遮断した巫女たちは、やがて一言も発することなく、祭壇の横にあつらえられた外へ通じる扉を通り、私たちに見えるように退去する。その姿を確認し、神の息吹が鳴り響く神殿の中には、聖騎士たち三人と、里長、記録官である里長の息子と、審判長、そして私の7人となった。私はまた口を開く。
「これから行うのは神事会議。執り行うはノーマンディールの“清泉の巫女”。これから先は真実のみを告げていただきます。‥‥‥偽りをつむぐ者には、天から真実の剣が振り下ろされる。そのことをお忘れなきよう」
そう言い、私は目を閉じ、黙礼する。
そしてゆっくりと目を開けて、彼らを見る。
「さて、本来ならば会議の前には、いろいろと前口上があるのですが、今回は簡潔にまいります。あなた方聖騎士様たちの足を、お止めさせていただいたのは、聖騎士様がこのノーマンディールに訪れたその旅程にあります」
「旅程?」
団長と呼ばれた男が眉をしかめながら繰り返す。
「そうです。はっきりと申しますと、あなた方はこのノーマンディールを訪れる途中で、薔薇の花を手折ったと思います。その薔薇の花はどこで手に入れたのか、ということです」
そう言うと、団長はすこし考えるような表情で私を見る。
その団長の横で、細身の男が口を開く。
「旅程は何とも‥‥‥皇国の聖騎士としての密議の帰りでありますので、はっきりとは答えられません」
そう言って、男は続けた。
「しかし、薔薇の花は、どこぞの山の頂上の、きれいな泉の横に生えていましたよ。」
突然の断罪にも関わらず、清泉の風景を思い出しているのか、彼はわずかに頬笑みを浮かべて私に答える。
その言葉に、記録官であるはずの里長の息子が口を開こうとする。
おそらく罵声を飛ばそうとしたのだろうと思うが、私はそれを視線で咎める。
ゆがんだ表情を浮かべ、彼は、口を閉じた。
今の時期に、ここら近辺で薔薇の花など咲いているはずはなく、それはジェムナンド山の頂上の聖域であることは容易にわかる。
「今の時期に薔薇の花は珍しいですね」
そう私が言うと、細身の男は微笑みを深くして、面紗越しに私の目を覗こうとするように、しっかりとこちらを見ながら言う。
「だから、神殿に寄与しようと思ったのです」
まるでそれが正しいかのように。
確かにそうだろう。
神々を信仰しているのであれば、真新しいもの、美しいもの、珍しいもの、それを隠し立てせず神々に捧げる、それは間違ったことではないだろう。
しかし、薔薇が咲き誇っていた場所が聖域であることを、聖騎士たちは知らず、知らないとはいえ、聖域を犯してしまったのだ。
断罪、すべきは彼らなのだろうか。
本当に?
「一体、何をしようというのだ!」
団長と呼ばれる男が私に、声を荒げて言う。
横で細身の男が、まあまあ、と団長をなだめる。
私はそんな彼らを見て、小さく、彼らに聞こえぬようにため息をつく。
そして、口を開く。
「聖騎士様たちが手折った、その薔薇はジェムナンド山の聖域にある薔薇なのです」
私の言葉に細身の男が、私を見ながらつぶやく。
「‥‥‥聖域」
「そうです」
私の言葉に彼らは眉をひそめる。
「聖騎士様たちは、御存じないかもれません。このノーマンディールは皇国の一部とはいえ、辺境の地。そして、この地には訪れる者もほとんどおりません。まさかこの小さな里に聖域があるとは、思ってみないことかもしれません」
そう言って、私は三人の聖騎士を見る。
三人とも、無表情でこちらを見返す。
「ジェムナンド山は聖域。神々にささげられた聖なる場所であり、さらにその頂上にある美しい薔薇を周りに持つ、清らかな泉は、神にささげられた供物なのです。その神聖さを保つためにも、それをたたえる巫女しか足を踏み入れることが許されていない、禁足地なのです」
薔薇を手折ったこと、それが今回の神事会議の理由。
それが彼らの罪。
そのことが彼らにも伝わったのだろう、聖騎士たちは呆然とする。
そして、一呼吸置いた。私は里長から聞いた、魔の話をするかどうか、迷った。
私ですら信じていない魔の存在をもって、彼らを断罪できるのだろうか。
いや、できはしないだろう
「ここからは私が言う」
まるで私の迷いを感じ取ったかのように、里長はそう言い、私の言葉の先を告げた。
「このノーマンディールは、はるか昔から、ジェムナンド山の清泉と薔薇を祀ってきた。そうして、清泉の巫女という守護者をつくり、その聖域を侵すものを排除しようとしてきた」
突然饒舌になった里長を、眉をひそめながら聖騎士たちは見やる。
「この聖域には、はるか昔、皇国の開祖であり、英雄であり、神にも匹敵するアウルスリールが苦戦して戦った魔が封印されているのだ」
一人一人を睨むように里長は聖騎士たちを見る。
「その魔は、この聖域に封印していたのは第四の魔だ」
「第四の‥‥‥魔」
団長が、繰り返すように里長に聞き返す。
「そうだ!愚かなおまえたちが荒らした聖域には、この世界最悪の魔が封印されていたのだ!」
里長が、そう言い放つ。
「そんな、骨董無形な‥‥‥」
細身の男がつぶやく。
「嘘だというのか。ならばなぜ、このノーマンディールの井戸が干上がる?大河オーガ・リーの水量が減るのだ!?」
今度は、記録官として静かに書記に務めていた息子が、そう断罪する。
聖騎士たちはそんな里長親子の激高した調子に、互いに顔を見合わせる。
突然の流れに彼らはついていけないのだろう。
昔話の、伝説にも近いアウルスリールの魔封じの旅。そしてその第四の魔の存在。
それが、こんな辺境の地に封印されているなんて、信じられないのだろう。
自分と同じように。
「里長、」
少し、落ち着いてください、激高しかけている里長に私はそう話しかけようとした。
その時に神殿の扉が強くたたかれる。
「さ、里長っ!!」
里人の息切れたような感じの悲鳴に近い呼びかけがされる。
「何事だ!神事会議中だぞ!!」
しかし男の声はやまない。
「も、申し上げますっ!」
そう言い、神事中というのにもかかわらず、男は神殿の扉を開けた。
神殿の中の風が、扉へ向けて吹き抜け、四方のろうそくの火を吹き消す。
そして吹き抜ける風が、神殿の鈴を強くかき鳴らす。
断罪するような鈴の音が鳴り響く中、男は震える声で言葉を紡いだ。
「オーガ・リーに、水獣がっ、水獣が出現しました。その場にいた里人を攻撃し、そのまま動こうとしません!!」




