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Matoba,s squad

 

…………………………

…………………………………………


 Matoba,s side_


「よっしゃぁ、脱出成功!!」

 俺は小脇に抱えていたフランドール……フランを地面に降ろす。

 まだ幼いとはいえ、人(?)一人を抱えての全力疾走はけっこうしんどかった。

「うぅ、おねーさま。助けて、フランはここだよ」

「……フランさん、いつまでやってんスか?」

「うぇーん!! 助けてぇ、このままじゃ、お、お」

「お?」


「犯されちゃうよぉ!!」


「犯すかぁぁぁぁぁぁ!!!! その臭い芝居を止めろぉ!」

「へへっ、そう? 興奮しない?」

「しねーっす」

 俺が淡白にそう言うと、レミリア・スカーレットの妹、フランドール・スカーレットは舌を小さく出して微笑んだ。

「で、フランさん。肩の傷はもういいんですか?」

「ふっふーん。なめてもらっちゃこまるよ、『ゼン君』。私はこれでも吸血鬼だからね。ほら」

 彼女がそう言って自分の肩口をみせつけてきた。

 そこの肉はもう塞がっており、傷跡さえない。少し服が破れているくらいか。

 ……しかしゼン君ねぇ。フランさんのほうがかなり年上なのは知ってるが、見た目が少女なため、随分違和感がある。

「で、これから人里にいくんでしょ?」

「あ、あぁ。そうっスよ。何か忘れモンでも?」

「そうじゃなくて、方向分かるの? パチェの地図、結構ボロボロだけど」

 フランさんはそう言って、スカートのポケットから一枚の地図を取出し、俺に手渡してきた。

「この地図、……図郭線が無ぇ。イコール、自己位置が分からねぇ」

「うん??」

「いや、独り言です」

 

 地図判読において一番重要なのは、自己位置の割り出し。つまり、自分が地図上のどこにいるのか理解することだ。

 その一番簡単なやり方は、『図郭線』と呼ばれる地球上の平面を等分し、上下に数字(だいたい四、五桁)をあてがった線とGPSを照らし合わせること。

要はこれが、よく聞く『座標』の意味になる。

 が、GPSも使えないし、この方法は論外。

 と、なると、あとは交会法か。


「フランさん。ちょっと飛んでもらえますか?」

「え? 何で?」

「早く人里に着く為ですよ」

「え!! どうやるの? 教えて!」

 そういってフランさんは俺に詰め寄って来た。

「長くなるから嫌ッス。フランさんは、俺の言われた通りに動いて下さいな」

「何よ、いけず。いーじゃん、教えて! 教えてくれるまで私、言う事聞かないもん」

 誰がいけずだ。

 まぁいい。専門分野に予備知識無しで首を突っ込むとは、大した度胸だ。


「……紅魔館とその他もう一つの著明物を使用するコンパスと交会方によって自己位置を算出します。まず俺は紅魔館より概ね南南西に前進したため、地図上の紅魔館から当該の方向に直線を書き、現在位置から紅魔館と他の著明物のミル公式によって算出された方向、方位角を地図上の直線と交差させて――」


「や、やっぱりいいよ。あはは……」

 予想道理、俺の説明が終わる前にフランさんは顔を逸らした。

 ……な? 飽きるだろ? 俺この地図判読の座学ん時、居眠りしてめっちゃ怒られたもん。

「ところでゼン君。飛ぶのはいいんだけど……」

「ん? 何スか?」

 何やらフランさんは、顔を赤くしてもじもじしている。

 あ? 便所か?

「……下から、覗かないでね」

「はい? 何をです?」

「……おパンツ」

「はよ飛べや」



…………………………

………………………………………


 三十分後――


「あ、ゼン君。沼があるよ」

「了解ッス」

 俺達二人はその後も順調に足を進める。

 まぁ、地図が古臭いアンド、結構適当に進んでいるので『順調』と言う言葉が適切かどうかは、……知らんス。

 取り敢えず、沼か。

 めんどくせぇな。

 俺はコンパスを南に向け沼が途切れる所まで移動し(この間、歩数を数える)、沼を超え、先程の歩数を引いた場所に戻る。

 それを見たフランさんは、苦笑いを浮かべた。

「なんか、小難しい事言ってた割にはアバウトだね……」

「いーんスよ。地図判読なんて軍用の地図と超高精度のコンパスでミリミリやっても多少はズレるんですよ」

「えー……。そんなもんなの?」

「えぇ。大体、地球は丸いっしょ? 地図ってのは本来丸い地形を無理矢理平面に模したもんなんで、誤差が生じます」

「そっか。丸い物を展開しても、平面にはならないもんね」

「ですね。誤差は、人間の空間把握能力で補完です」

「……でも本当に大丈夫? あの沼横断したほうが良かったんじゃない?」

「山で衣服を濡らすのは自殺行為です。あと、半長靴の中が濡れるのが一番テンションが下がります。気持ち悪いんで」

「……意外とデリケートなんだね、ゼン君」

「そっすか? 割と兵隊なんてこんなもんすよ」

 そんなこんなで適当に雑談しながら、前進する。

 

 しかし、何だろう?

 体が重い。呼吸もかなり荒くなり、喉が渇く。

 俺は顔面塗料(ドーラン)のパックに付属している鏡で自分の顔を見てみる。

 ……蒼白い。そして、多量の汗をかいている。

「何だこれは?」

 ショック症状の初期段階だ。

 俺は体の隅々まで意識を巡らせる。

 ショック症状っつっても、出血等の怪我はない。

 ……くそ。中でも呼吸と喉の乾きが気になる。

 症状だけで言えば、神経剤を吸引した時に近い。

 だが、粘膜である眼球に痛みは無い。

「フランさん、ちょっといいですか? 休憩しましょう」

「えー。私早く人里に行きたい」

 俺はフランさんの意見を無視して、その場に座り込んだ。

「そんなこと言わずに。ほら、お菓子あげるから」

 俺は背嚢からカ〇リーメイトをひと箱取り出すと、フランさんに差し出した。

「あ!! 外の世界のお菓子!? やったぁ!」

 ……良かった。中身はお子様で。

 水筒を取出し、中身をあおる。

 全部飲み干したかったが、多量の発汗があるときにそれをしてしまうと体内の塩分濃度が一気に低下し、逆にぶっ倒れてしまうので一口程度に留める。

 ……フランさんに異常は見られない。

 そもそも吸血鬼に化学兵器の類が効果あるのか知らんが。

 クソ、意識も朦朧としてきた。

 対神経剤の薬としては、アトロピンとパムがいるが、んなモンねーよ。

 ……って、いやいや。何で神経剤ってことで確定してんだ!! 一番可能性低いだろ!

 思考が混乱する。

 少し、目を瞑ろう。

 ……うーん。何となく気分が楽になった気がするよーな、しないような。

 しかし、突っ立っているよりましだ。

 俺はそのまま体を倒し、横になった。

 その時、ふと俺の頭の横に人の気配を感じる。

 フランさんかな?

「あー、すんません。カロリーメ〇トならもうなくなって――」

 そこまで言いかけて目を開く。

 ――そこに立っていたのは、フランさんではなかった。

 着物を着て、背は博麗ほどだろうか。日本的な、つややかな長い黒髪が印象的だった。 


 ……誰?


 朦朧とする意識でそれだけを思った。そして、視線を落とし……。


「黒か……。度し難いな」


 普段の五分の一ほどのしか回っていない頭で、セクハラを言って――


「ゼン君危ない!!」


「っ!?」

 フランさんの声に救われた。

 俺が反射的に頭をそらすと、その位置に拳が降って来た。

 頭があった位置には、黒髪の女の拳が地面にめり込んでおり、まさに間一髪。

 こいつ妖怪か!

 すぐさま体勢を整えようとするが、

「お?」

 何故か自分の背負っている背嚢と銃の重さに負け、再び元の位置に戻る。

 ……あ、そう言えば、具合悪いんだった。

立つのは無理だし、もう遅い。

 妖怪は二撃目を俺に繰り出そうと、拳を振りを上げ……、そのまま崩れ落ちた。

「な、なんだ?」

 俺は這いつくばって妖怪から距離を取る。

 改めて、その妖怪を観察すると、その背中には多量のナイフが刺さっている。

 俺は訳も分からずに呆然としていると、今度はフランさんが嬉しそうな声をあげた。

「あれぇ、咲夜じゃない!! どうしたの?」

 咲夜。……聞いた事がある名だ。

 フランさんと同じ方向に目を向けると、見知ったメイド服に身を包んだ一人の美女が、フランさんに慇懃な礼を送っていた。

「こんばんわ、妹様。少し野暮用が。そうですね……」

 十六夜 咲夜は底冷えするような目で俺をみやると、

「大人のお守と言ったところですわ」

 そう言って不機嫌そうに腕を組んだ。





………………………………

………………………………………


「魔法の森よ」

「……なるほどな」

「意外ね、知っていたの?」

「あぁ。毒キノコから放出される毒素で、魔法耐性のない人間には有害な森なんだろう? 森近って言う、何屋か分からん店の店主から聞いてたよ」

「じゃあ善処しなさいよ。意外と抜けてるのね、軍人さん」

「へいへい。……それにしても、何だこの状況は?」

 妖怪の襲撃と、魔法の森の毒素から解放された俺は、空を飛んでいる。

 ……勿論自力でではない。

「大丈夫、ゼン君?」

「めっちゃ怖いっす」

 フランさんに防弾チョッキの首部プロテクターを掴まれた状態で、だ。

 ヘリで空輸される装甲車の気持ちが分かった。

 しかし、総重量百キロオーバーの俺を片手で掴んで余裕とは、すごいな吸血鬼って。

 俺はひょっとしたら、とんでもない種族に喧嘩売ったのかもしれん。

 そして、そんな俺達に並走する十六夜は、再び不機嫌そうに腕を組んだ。

「まったく、なんで私がこんな目に合ってるのかしら」

「知るか。第一、俺の台詞だよ。そりゃあ、助けてもらったのには感謝してるが……」

「あんたの為じゃないわよ。うぬぼれないで、ロリコンさん」

「……はぁ!? ちょっと、お前そういうの止めろよ!!」

「私は知ってるわよ。妹様が『犯される!』って叫んでたこと。実際に行動しなかったから生かしておいてあげてるけど――」

「いつからいたんだオメェェェェェェ!! 大体、あれはフランさんがふざけていただけで……。フランさん、何か言って下さいよ」

 俺が話を振ると、彼女は顔を赤くし、何故か黙り込んだ。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!! さっきから何でそんな強引にエロい方向に持ってこうとしてんだ!!」

「やっぱりね。あの後、大声で『犯すかぁぁぁぁ(準備)』って叫んでたし」

「違う、ツッコミだよ!! 何の準備だよ!!」

「ゼン君、突っ込むだなんて……」

「変態」

「ガッデム、二人揃って頭ン中が紅魔館(?)だわ」

 体調は幾分ましになって来たが、精神的な疲れが……。

「で、十六夜。お前、大分前から俺らに張り付いていたようだが、それだったらもっと早く顔出せよ」

 長い間、フランさんは紅魔館で軟禁状態にあったらしい。そこに外来人の俺がくっついても人里には行けるはずも無く、面倒な地図判読をするはめになった。

 尤も、十六夜は人里へのルートが完全に分かるらしく、今は彼女のナビで人里に向かっている。

「……五月蠅いわね。私にも色々事情があるのよ。そう言うあなたは? 妹様といつの間にこんなに仲良くなったのかしら? 本当に拉致したのなら、あなたを殺してでも妹様を連れ戻したのだけど、どうやらそう言う訳でもないんでしょ?」

「……俺にも色々あったんだよ。取引さ、フランさんとの」

「取引?」

 汚い手ってのは俺にも分かる。

 だが、俺にはこの方法しか残ってなかったんだ。

 



















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