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デビルズ・スレイブ

…………………

………………………………


Remilia・Scarlet side_


「糞、忌々しい。いったいどこに行ったの!?」

 レミリアは大変不機嫌であった。

 夜早くから起こされ、初見の男にセクハラされ、更にその男によって、一度は殺された。

 それもカスみたいな方法で。

「情けない男、あいつにはプライドってのがないの?! 下らない奇襲なんかして、…………あぁ思い出したらまた腹が立ったわ!」

 そういきり立っているレミリアに、咲夜がそっと耳打ちした。

「そこまで仰るのでしたら、いっそのこと私に一言命ぜられれば、時間を止めて、捕縛しますわ」

「バカ言わないで。私は『配下は使わない』そう宣言したはずよ。小手先の戦術は柄じゃないわ」

「分かりました、お嬢様」

 ……とはいえ、卑劣な男だと言うのは分かった。

 ならば、あまり奴を長いこと放置しておくのは得策ではない。

 出来るだけ早く片付けて、紅茶でも飲もう。

 レミリアはそう意気込んだ瞬間ーー


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 館全体に、鼓膜をつんざく妖精メイドの悲鳴が反響する。

 その声に、流石のレミリアと咲夜も片眉を歪め、顔を見合せあった。

「何事!? 咲夜っ、頼んだ!!」 

「はい、お任せくだーー」

「あぁ、ちょっと待ちなさい。マトバとの口約があったから動ちゃだめよ!」

「……そうしろと仰るなら従いますが、あまり悠長なことも言ってられないのでは? あの悲鳴、ただ事とは思えませんが……」

「ぁぅ……。と、取り合えず私について来なさい!」

「……分かりました」

 二人は一緒に駆け出して行った。


「お、お嬢様、メイド長!!」

 しばらく廊下を走ると、一人の妖精メイドが、息もたえ絶えに走りよって来た。

「どうしたの? 説明しなさい」

 怯えている?

 レミリアの記憶が正しければ、この妖精メイドはあの霊夢と魔理沙の迎撃にも参加した、『妖精の中でも強いほう』の戦闘タイプだ。

 あの二人を相手に、半笑いで弾幕を放つくらいの精神力は持っているはずだが……。

「レ、レミリアお嬢様、申し訳ありません。大広間で妹様が……」

「『フラン』? あの子がどうしたの?」


「フ、フランドール様が、賊の人質に!!」




……………………


…………………………


 情緒不安定とは、やったかいな話だ。……と、姉であるレミリアは自身の妹、『フランドール・スカーレット』に対して思っている節があった。

 無論、フランドールは無二の血を分けた妹で、大切には思っているが、時々疎ましく思う時もある。

 自身がそうであるように、フランドールもまた吸血鬼だ。自分と同じ、力をもて余す種族だ。

 で、情緒不安定。

 扱いづらいことこの上ない。

 その能力、基本性能。……精神力は少々未熟にしろ、この幻想卿では屈指の実力者であることには変わりない。

 そんな彼女が……。

「いや、いやだぁ。お姉さま、助けて!!」

 泣き、喚き、あまつえさえ血を流しながらレミリアに助けを乞うている。

 ――そして、そんな哀れな妹の手をねじり上げ、冷徹な瞳で彼女を見下す男は―— 

「うるさいガキだな。黙ってろ。顎が吹き飛ぶぞ」

 レミリアを一度殺した男、的場 善路。

 この異様な光景に、レミリアは大いに混乱した。

「マトバ? え? フラン……? え? な、なんで?」

「お嬢様! お気を確かに!!」

 錯乱しかけてきたレミリアの意識に、咲夜の声が飛び込んでくる。

 だが、いつもすかしている彼女にしては、その声に余裕がなく、相応に緊張していることが伺える。

 そうだ。自分がしっかりしないと……。妹が助けを求めているのだから。

 レミリアは(かぶり)を振って、無理やり焦燥を振り払った。

「よう、スカーレット。なんてぇツラしてやがる。クソ漏らしたババァみてぇだったぜ?」

 善路(あくとう)の嘲笑。それを受けて、レミリアは初めて健全な感情ーー怒りを善路に向けた。

「黙れぇぇぇ!! ぶち殺すぞ人間! フランを放せ!!!!」

「いや、この子解放したら、おめー俺をぶち殺しに来るんだろ?」

「放さなくても殺してやるわ……」 

 善路の言葉にレミリアは、少し冷静になった。

 そうだ。自分は何を戸惑っているのだろうか? 解決方法は単純だ。殺せばいい。自分が持つ圧倒的な力でねじ伏せればいいだけなのだ。

 相手は『飛び道具』を持っているが、どうってことはない。自分が撃たれようが妹が撃たれようが、吸血鬼にとってただの物理攻撃が効果薄なのは明白だ。

 そう思い、善路に向かい飛び立とうとした。

 その時ーー

「スカーレット!! 妙な気を起こすな。妹を殺すぞ」

 善路の声が広間に響く。

「お前こそ学習してないわね。便利な『得物』を持ってるみたいだけど、私たちにはーー」

「あぁ、普通の実包なら効果は低そうだな。じゃ、疑問じゃないか? お前の妹が何故負傷しっぱなしだってことに」

 そこでレミリアは気付いた。

 フランの肩口から絶えず溢れ出している血液に。

「っ!? な、何で治癒できていないの!?」

 元来。吸血鬼は人間よりも遥かに高い回復能力をもつ。

 その吸血鬼に明確なダメージを与えられる方法は限られているはずだが……。

 再び混乱するレミリアに善路はとても嬉しそうに笑うと、右手に一発の実包を掲げて見せた。

 それは真鍮の薬莢と白銀色の弾頭を持つ弾丸。

「シルバーチップってんだ、この弾」

 善路の声に、レミリアは弾かれた様に顔を上げた。

「シルバーって、銀、てこと?」

「ご名答。コイツは銃弾っていってな。細かい原理は省くが、この頭の金属を亜音速で飛ばせる兵器だ。で、お前に放ったのはただの(フルメタルジャケット)だったが、今おれが持ってるのは銀の弾丸。この意味、分かるな?」

 銀。吸血鬼に対する有害な物質の一つだ。吸血鬼は強力な種族だが、それに反比例し、弱点も多い。

「おのれ、人間の分際で……」

 レミリアは強く歯噛みするとそう呟いた。

 人間にとって吸血鬼は天敵となりうるが、その逆も然り。吸血鬼の天敵も人間である。

 元来人間は、弱く個人能力に大きなバラつきのある不安定な種族だ。だが、その知能は吸血鬼と互角。そして、かなりしぶとい。

 何より、その殺しても殺しても湧いて出る繁殖能力。太古の昔から鬼と対等に渡り合う程高い攻撃性。不完全ゆえに完全を目指さんとする向上心。そして、どのような環境、状況にも動じない図太い適応能力を持つ。

『単純な個』として見れば確かに人間は弱いが、『暴を使える種』として見た人間は、鬼や吸血鬼と同じく強力な種族であった。

 特に『何でもあり』みたいな状況は人間の独壇場だ。

 目的の達成。それだけを念頭に行動する人間はかなり厄介だ。時に卑怯とも狡猾とも取れる、並みの妖怪では考え付かない手段を平気で用いる。

 今の善路の様に……。

「で? どうするよ、スカーレット」

「……っ! 畜生!!」

 レミリアはそう吐き捨てると、渋々道を開けた。



………………………………


……………………………………………………


 Sakuya,s side_


「もももも申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 件の騒動から二十分後。

 レミリアの部屋に一人の少女が呼び出された。彼女は(ホン) 美鈴(メイリン)。紅魔館の門番で妖怪だ。

 美鈴はスリットが腰まで入ったチャイナドレス風の衣装に身を纏っている。身長は百六十センチ半ばといったところか。女性にしては背が高いが、出るところは出ており、かなり上等なスタイルをしている。

 だが、

「い、いきなりだったんです。気が付いたら、あの変な外来人が妹様(フランドール)を連れて逃げていたので、何もできなくて……」

 一気にそうまくし立て、額を地面にこすり付けている。ようは土下座の姿勢だ。

「寝てたのよね?」

「え?」

 哀れな体勢の美鈴には特に反応せず、彼女の直属の上司である咲夜が淡白にそう言った。

「だから寝てたのよね? ん?」

「い、いえ……」

「じゃあ、侵入者に気付いていたのよね? なんで報告しなかったの?」

「うぅ、咲夜さん陰険……」

「……………あん?」

「ゴメンナサイ、ネテマシタ」

咲夜は大きくため息をつくと、部屋の中央のソファーに腰掛けているレミリアをそっと見やった。

 さっきから何かを考えているようだ。

 咲夜命じ、美鈴をこの部屋に連れてくるようにいったのはレミリアだ。

 しかし、美鈴を叱責するのかと思えばそうでもない。彼女の謝罪などどこ吹く風といったように、顎に指をあてがいずっと下を向いている。

「お嬢様、いかがなされました?」

「ん? ああ、少し気になることがあってね。美鈴」

「は、はいっ!!」

「マトバ……、例の外来人はどの方角に逃げていったのかしら?」

「え? えぇと、南南西かと……」

「ほう。やはりね」

 レミリアはどこか満足そうに呟いた。

「何かおもうところが?」

「えぇ。ところで咲夜貴方にしばらく暇を与えるわ」

「え?」

「と、言っても休暇の類ではないけど。少し頼み事があるのよ」

 レミリアはそう言って妖艶に笑った。



















 



 








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