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幻想への抵抗

………………………

…………….………………


Scarlet side


「咲夜、何あれ?」

「分かりません。まぁ、どこぞの兵隊ではないでしょうか?」 

「そう言う

答えを求めてるんじゃなくて……。もっとこう、あれよ……」

「どれでしょう?」

「……フィーリングよ」

「意味が分かりません」

 レミリアは、謁見の間から顔だけだして、問題の男を盗み見ていた。

 何てことはない。

 そこはかとなく薄汚く、用途不明の装飾品を身に付けているが、妖精メイド達に弄られている姿からは「情けない男」程度の感想しか出てこなかった。

「えー、何か起きて損した気分よ。あいつ食べていいかしら?」

「ダメですよ。床が汚れますし、片付けるのが大変なんです」

「わかってるわよ。そんな本気で怒らないでよ」

 物騒な会話だが、両人とも覇気がない。

 一応、冗談ではあるようだった。

 

……………………………

…………………………………………


Mtoba,s side

 銀髪のメイドの告知からほどなくして、台上の左奥からかすかな足音が聞こえてきた。

 いよいよご登場か……。

 さて、温厚な人物ならありがたいが、どうなることやら。

 緊張で俺の心臓が脈打つ音が、異様に大きく聞こえる。

 徐々に足音が大きくなり、この広間全体に響く様になるころには、額に薄らと汗をかいていた。

 やがて、パンプスが見え、細く白い足と、スカートの裾が見える。

 どうやらこのラブホの所有者は女性らしく、身長は低く、小柄な…………ん?


 取り敢えず、その人物は女性だった。

『彼女』は白く美しい肌に、豊かで青みがかった黒髪を持ち、白人系の整いすぎて人形の様な造形をした顔に能面を張り付かせながら、ゆっくりと歩いている。

銀髪のメイドは、彼女が目の前を通過すると、深々と一礼し、台上中央にある無駄に装飾された椅子を少し引くと、『彼女』は流麗な動作で椅子に腰かけた。

 そして、『彼女』は能面を崩さぬまま、何か言おうと口を開きかけ……

「Hey drooly shrimp.who you guys,anywey?」

 俺が先に声を上げてしまった。

 英語でいいよな、外人っぽいし。いやしかし驚いた、俺の眼前に座ったのは、まだ年端もいかぬ少女だった。

「Please. To call a P. We,re in deep shit!!」

 何故彼女がここに出て来たのか知らんが、取り敢えず親御さんを呼んでもらわないと……。

…………………………

……………………………………

Izayoi,s seid


「Hey drooly shrimp.who you guy,s anywey?(おい、よだれモンのチビちゃん。あんた誰よ?)」

 懐かしい言語が耳に入り、その内容を理解した瞬間、咲夜はずっこけそうになった。

 目の前の外来人が喋った言葉は、咲夜が昔慣れ親しんだ英語の様だが、すさまじく偏ったスラングで構成されていた。

 ありてい言えば、下品すぎる。

 一体どんな育ちをすれば、まだ外見は幼いレミリアに対し『よだれモンのチビちゃん』などと言うフレーズがうかんでくるのか……。

「Please.To call a P.We,er in deep shit!!(マジ頼む。親呼んで。俺やらかしたんだ!!)」

 この男に口を開かしてはいけない! 

 紅魔館メイド長として、この屋敷の全権を握る咲夜の本能がそう叫んだ。

 しかし、主人であるレミリアを捨て置いて、この場を仕切るのも気が引ける……そんな考えがよぎった。本当は早々に外来人の口を封じるべきだったのだろうが、僅かな逡巡があだとなり、レミリアは顔を僅かに綻ばせ、咲夜に耳うちしてきた。

「あら、英語……、懐かしいわね。中々教養のある外来人じゃない。でも、いまいちよく分からない単語があるわ。……どこの方言かしら?」

「え……ええと、その。彼はお嬢様は何者なのか知りたがっているようです。あと、両親はいませんか? ……と」

「ふーん。まぁいいわ。How do you do.I,m Remilia Scarlet. Parents do not.This is tha lord of this House.(ごきげんよう。私はレミリア スカーレット。親はいないわ。私がこの館の主よ)」

 外面モードに突入したレミリアの声は、幼くも涼風の様に淫靡な色を持っていた。英語もネイティブのそれで、非常に聞き心地がよい。

 それに比べて……。

「Oh my bad my bad! Fuck me. Bad wheter you were a maneger of this love hotels.what tha hell!!(あぁ、すまねぇ、すまねぇ! 野暮な事聞いちまった。しかし、あんたがこのラブホの経営者なのか。マジかよ!!)」

 咲夜はこの男をブッ殺してやろうかと、真剣に考え始めた。


………………………………

………………………………………


Matob ,s side


 俺の英語はネイティブではない。

 その事自体は理解している。F言葉が乱発されているのも理解している。

 だが、俺の英語の教師代わりである、アメリカ陸軍のエドワード兵長は嬉々として、これらの言葉を教えてくれたものだ……。

 まぁ、エドワードが言うには、これらのスラングは親しみを込めたものであって、けして否定的な意味合いはないらしいが……。信じているぞ、エドワード。

 とは言え、あの『レミリア スカーレット』とか言う子は、今のところ友好的だが、問題はあのメイド長さんだ。

 今にも俺を射殺さんばかりの眼力でにらんでおり、……怖い。

 しかし、彼女らの力関係はあのスカーレットって女の子にあるわけだろ? では、メイドは無視してスカーレットと話すか……。

 胃の辺りがキリキリと痛むが、それを無視して声を上げる。

「Hey.That love hote……(で、あのラブホテ……)」

「その薄汚い口を閉じろっ!」

 一瞬の出来事だった。

 謁見の間を震わせるほどの甲高い怒声に混ざり、一本のナイフが俺の頬をかすめる。

 あまりにも唐突な出来事に、俺はただポカンと、メイド長……怒声とナイフを投げた人物を見詰める。

 ラブホ側の立場であるはずの妖精メイドは、二人して脅え、肩を抱き合い、主人であるはずの、スカーレット嬢までも口を半開きにして、メイド長を見ていた。

「……何のつもりだ、テメェ」

 自分の頬から一筋の血が滴り落ち、初めて敵意を向けられたことに気付いた俺は、縛られていることも忘れて、彼女を威嚇する。

「ちょっ、ちょっと待ちなさい、あなた達。えーと、ほら妖精メイドの二人は下がっていいわ。……それと、彼の縄をほどいてあげて」

「「は、はい」」

 少し話題から置いてきぼりにされかかっていた、スカーレットが声を上げる。

 て言うか、日本語喋れんのかよ!

 二人の妖精メイドは、ぎこちなく震える手で、俺の縄をほどいてくれた。

「ありがとう、ケガは無いか?」 

 二人は、コクコクと首を縦に動かすと、足早にこの場から立ち去ってしまった。

 さて、無関係な子達もいなくなった事だし……。

 喧嘩でも買うか。

「おい、メイド長さん。いきなりナイフ何か投げたりしてよぉ。何のつもりだ? 頭大丈夫か!?」

「はぁ? 自分の主と、その館を侮辱され、黙っている奴は従者失格よ」

「ふざけんな、身に覚えがねーわ!」

「そっちこそふざけないで。『涎もんのチビちゃん』? 『ラブホホテル』? ……お里が知れるわね」


「…………………………………」








            え?








 …………俺、そんなこと言ったか?

 涎もんのチビちゃん? ……え? 『drooly shrimp』ってやつ? あれば、可愛いお嬢さん的なニュアンスだってエドワードが、…………。

……ん?

 て言うか、ここって、

「ラブホじゃねぇの!!!!!?」

 俺の心からの叫びに、件のメイド長は、顔を真っ赤にして叫んだ。

「だから、違うって言ってるでしょうが!!!!」

 ……これは、あかん。

 怒らせた要因は俺にあった。

「……ええと、すまん。……そんなつもりは」

 しどろもどろになって何とか弁明しようとする俺に、意外なところから追い討ちがかかった。


「『らぶほ』ってなんなの、咲夜?」


 これは、あかん!!

 それまで黙っていた、このラブ……訂正、この館の主、レミリア・スカーレット嬢がいらんタイミングで、いらん質問を投げ掛けて来やがった!

 その大きな瞳をぱちくりさせ、純粋な疑問として、メイド長さんに聞いている。

 この事態に俺は更に顔を青くし、メイド長さんは更に顔を真っ赤に染める。

「そ、それは……その、お、お嬢様は知らなくても大丈夫ですわ」

「そ、そうだ。こう言う知識は知らなくてもな、何故かいつのまにか知ってるもんだ」

「あなたは黙ってなさい!!」

 むぅ。

 一応、メイド長さんの援護のつもりで、言ったのだが、彼女には気に入らなかったようだ。

「ねぇ、咲夜。ご託はいいわ、はやく教えなさい」

 あの子がいくつかは知らん。 

「し、しかし……」

 だが、このままではまた、博麗のときみたいに『エロ兵士』的な大変不名誉な称号を授かるんじゃないか?

 「命令よ、主の命がきけないの?」

 よし、ここは適当に誤魔化すんだ。それしかないだろ? 窓ガラスだって割ってるんだ。これ以上の印象悪化はヤバいぞ。

「お、お嬢様。……う~……」

 あ、でもメイド長さんは、俺に喋るなって……

「『う~』とか、パクってんじゃないわよ! キャラに似合わないことやってないで、はやく!!」 

 まぁ、いいや。いっせーのーでっ!




「男と女が×××を×××せて××××し×××ことですよ!」

  


 わぉ。

 こんなセリフ、俺が言うはずない。

 いったのは、レミリア・スカーレット嬢に散々糾弾されていたメイド長さんだ。

 いや、なんか……ありがとう。

「……なっ、何ですって? 咲夜、あ、貴女正気?」

 これまで、エラソーにメイド長さんにあれこれいっていたスカーレット嬢だが、『らぶほ』の意味が分かると、俺が見ていて気の毒なほど頬を紅潮させる。

「わ、悪いのはお嬢様ですよ! 私は言いたくなかったんです。……遠回しに何とか話を反らそうと……」

「だからって、言い方ってのがあるでしょう?! ××××って、……~~っ!!」

 その後彼女達は、自分の口から、しょうもない下ネタを呟いては顔を赤くし、なにやら身もだえている。

 ……これはこれで……、いいよ!!

 お兄さん、ちょっと前屈みになりそうだよ!!

「少しお待ちください、お嬢様。元々、このような原因を作ったのは、あの男です! 私達が言い争う必要性はありません!」

 あ、そこ気付いちゃう?

「そ、それもそうね……。ちょっと、あなた、名前は?!」

「あ、的場 善路です」

 俺は極力、申し訳なさそうに後頭部をかきながら自己紹介した。 

 すると、スカーレットは椅子から立ち上がり、俺の前まで歩いて来るやいなや、ビスクドールも真っ青なほど綺麗な顔を朱に染め、怒鳴り始める。

「ちょっと、あんた、よくもヒトん家を……ららららららららぶ……ぶ、……」

「あぁ、ラブホ?」

「やかましい! とにかく、よくも下品なものだと決めつけてくれたわね!! いい? 私は、串刺し(ヴラド)公の末裔で……」

 怒ってるのはわかるが、身長さが60センチはあるせいで全く怖くないし、言ってることがワケわからん。 

 そして、そんな彼女を見ていると一つ、違和感を感じた。

 それは彼女の背中に生えている翼だ。

 コウモリを模したものだろうか? 

 スカーレットの、言動や行動に合わせてピクピク動いている。

 俺は、特に深く考ず、『悪かった』を連呼しながら彼女の翼に手をかけた。

 その行動に特に意味があった訳じゃない。

 ただ、ふと、森近に聞いた話を思い出したんだ。





 真っ赤な屋敷に住む、凶悪な吸血鬼のハナシを……。













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