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ラブホじゃねぇの?

「的場くん、これは分かるね?」

 俺は森近の手中にある物を、嘗め回すように見つめた。

 その『物体』と森近の顔を交互に見て、搾り出すように一言。

「本物か?」

 と言っても、俺にはわかる。

 銀色の体は玩具のような形状にもかかわらず、滑空銃身45口径のバレルがその安っぽさ全て吹き飛ばしている。

 こいつは本物の『拳銃』だ。

「勿論だ。ゼネラルモータース『FP―45』。それがこの銃の名称……らしい。ほら、手にとってみなよ」

 正式名称『Flare projector Caliber.45』。

 通称『リベレーター』。

 二次大戦中、レジスタンス運動を支援していたアメリカの手で作られた、最弱の兵器ヒトゴロシノドウグ

「外界なら銃刀法違反だな。これを……どこで?」

「言ったろ。この幻想卿は『忘れられたモノ』が流れ着くと。それは『物』だって例外ではないのさ」

「……それを偶然見つけたのか? 幻想卿の面積がいくらか知らんが、そんな偶然が……」

「無縁塚という所があってね。そこには、よく外界の物が流れ着いているんだ。大方、このPF-45の持ち主が死亡し、長い年月を掛けて、ここにたどり着いた、……ってとこかな?」

「…………なぜこれを俺に見せた?」

「あげるよ。幻想入り記念の餞別だと思ってくれ」

 森近からリベレーターを受け取る。

 意外と重い。

 参ったな、あげるといわれても使い方が分からん。

 俺は自衛官だが、ミリオタではない。


 銃口に注意しつつ、リベレーター本体をいじると、機関部の尻が後方にずれ、簡素な薬室が見えた。

 その薬室からは、僅かに光が差している。

 と、言うことは、装填はされていない様だ。

 更に、握杷(グリップ)の内部に、7発ほどに45口径弾を発見。

「使い方は分かるかい?」

「概ね、な。てか、よく名前しってたな。ガンマニアか?」

「がん……? よく分からないが、能力だよ。僕は物の用途と名称がわかるんだ。使用方法は別だけど」

「じゃあ、試射はまだなのか?」

「ししゃ?」

「試し撃ちだよ」

「あぁ、まだだ。物騒な物なのは分かっていたからね。自分が怪我をする可能性を考慮して、やってないよ」

「賢明だな。……ほらこれをやるよ」

 俺は雑納からレーション(炭火焼チャーシュ-丼)を一袋取り出すと、森近に手渡した。

「戦闘糧食二型? 食べ物かい?」

「ご名答。ばっちり名前当てたな。便利な能力だ」

「へぇ、これは興味深いっ! 大切にするよ!!」

「いや、食えよ! 一応賞味期限あるからな。あの乾パンみたいに腐らすんじゃないぞ」

 森近は、能面ながらどこか嬉しそうにレーションを弄っている。

 そんな彼を見ていると何となく、気が安らいだ。

 

……………

……………………


「……ちょっとテンション上がってたからもらっちまったが、どうしようか、これ」

 俺は誰に言うでもなく、ゲンさんの背中の上で呟いた。

 香林堂を後にして早十分。

 甲羅の上でバランスを取ることにもなれた。

 が、問題はこのリベレーターだ。

 ……この銃の構造は恐ろしく簡素な為、暴発や閉鎖不良などの故障はないだろう。撃針もちゃんと生きている様だ。

 が、問題は弾だ。

 恐ろしく昔に製造されたであろう、7発の内四発の45口径弾達は薬莢部に謎の黒染みができ、弾頭が所々錆付いている。ロット番号などくすんで読めやしない。

 この実包を見て、真っ先に頭に浮かんできた言葉は『廃弾』の二文字だ。 残り三発は普通に使えるっぽいが、弾頭の種類がバラバラ。

 ギルティングメタルで披甲されておらず、鉛がむき出しの『ソフトポイント』が一発。

 弾頭を窪ませ(マッシュルーミング)、目標物へのエネルギー伝達率を上げた『ホローポイント』が一発。

 もうひとつは、弾頭が白銀色の実包。……『シルバーチップ』ってやつか? 一応、ホローポイントの一種だが、高いだろうに……。

 まぁ、つまり、三発とも非常に殺傷力の高い弾だ。扱いには、細心の注意を払う必要がある。

「善路さま。そろそろ人里に到着します」

「え? あ、はい。意外と近かったですね」

「そうですか? まぁ、私としましては、伊吹 翠香に襲われるのが心配だったので、少し速度を上げてたので……」

「ははっ……。何か、申し訳ないです」

 おぉ、どうやらリベレーターは使わずにすみそうだ。

 俺は少しほっとして、辺りを見渡してみる。


 すると、前方、細かく言えば約300ミル程だろうか? その位置に館が見えてきた。

 だが、見えるのは館のみで、周囲に『里』と呼べるほどの集落はない。

 ……? はて?

「あの、ゲンさん。あの館がもしかして人里ですか?」

「…………」

「もし、ゲンさん?」

「………………………」

「ちょっと、ゲンさん!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 返答がない。

 何だ、どういうことだ?

 そうこうしている内に、その『館』の距離はみるみる縮まり、やがて完全に視認出来るようになる。

 ……それは、

「なんだありゃ!? 趣味悪っ!!」

  


 赤、と言うより真紅。

 屋根、壁、とにかく外観全てが目を覆いたくなるような、強烈な赤に彩られている。

 俺が闘牛なら発狂していただろう。

「何の建物だ?」 

 ……あの形状、ど派手な色、人知れず森にひっそりと建つ。それらの条件から推移すると・・・・・・・・・・・・・・・・・。



 ラブホテルですか? 分かりませぇん。



 なんだよ。「あれが幻想卿の幻想卿です」ってか? 

 やかましいわ。

 環境は違えど、やることはヤッてんだなぁ。

 などど、妙な感慨にふける的場 善路、26歳の秋。

 

 そうしている間にも、ゲンさんは、館(笑)……にどんどん近づいて行く。

 どんどん近づく。

 どんどん。

 どんどん。

 ドンドン。

 ど………………。

 



「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! ゲンさん、前見て! ラブホにぶつかる!!」

 やばい!!

 くっだらねぇこと考えてたら、もうラブホが眼前に迫っている。

 慌ててゲンさんを揺するが、何故か無視される。

「おい、ゲンさん!」

「…………ざとに……」

 何だ? 風圧でよく聞こえないが、彼は何かぶつくさと呟いている。

 転落しないように、ゲンさんの口に耳を当てると、



「あれがひとあれがひとざとだざとだあれがひとざとだあれがひあれがひとざとだとざあれがひとざとだとだあれがひとざとあれがひとざとだあれがひとざとだあれがひとざとだあれがひとざとだあれがひとざとあれがひとざとだ」


 何でバグってんの、この亀!?

 もう距離は10メートルもない。

 冷や汗で下着が濡れ、気持ち悪い。

 眼前には赤い壁。

 あれにこの速度でぶつかれば、俺たちは血をぶちまけて壁の塗料になっちまう!!

「クソったれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 もう破れかぶれだった。

 俺は右側方の甲羅を掴むと、反対側に全力で体重をかけた。

「ふょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 するとゲンさんは裏返った変な声を上げつつ体勢が崩れ、軌道は大きく左へ。

 そこには壁……ではなく、無駄に豪勢な枠を持つ窓が。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ひょおおおおおおおおおおお!!!!」

 一人と一匹の悲鳴が綺麗にシンクロし、俺たちに体は窓に吸い込まれて行く。

 そして、盛大にガラスの破片をばら撒きながらキリモミし、俺たちは中へ。

 俺は即座に受身を取るが衝撃を受け止められるはずもなく、無様に床に転がった。

 そして、すばやく身を起こし、何故か89を構えて辺りを見回し、一言。


「やべぇ!! ラブホに強襲しちまった!」


 と、外界では一生言うことはないであろう言葉を吐いた。

 要は俺は盛大にテンパっていた。

 


………………

……………………


IZAYOI__side


「ちょっ、何よ今の音!?」

 紅魔館のメイド長、十六夜咲夜は、何の前触れもなく耳に飛び込んできた騒音に顔をしかめた。


 右手に持った包丁と、切りかけの人参を一端捨て置いて、騒音が聞こえた方角を一瞥し、調理場から廊下に顔を出した。

 すると、怪訝な顔をした二人の妖精メイドが怪訝そうに眉をよせていた。

「あなたたち、あの音は何かしら?」

 咲夜がメイド達に声を掛けるが、彼女たちは眉をㇵの字に曲げて首を横に振った。

「それもそうよね。……持ち場に戻っていいわ」

 そういうとメイド達は咲夜に一礼し、小走りでその場を去って行った。

 様子を見に行ってもらいたかったが、彼女たちは家事を手伝ってくれる貴重な存在なので止めておいた。

 掃除、洗濯、炊事……。『お嬢様』が起きるまでやることはたくさんある。

「美鈴、また抜けられたのかしら? しょうがない門番ね」

 もっとも、何が起きたのかは想像がついている。

 八割が白黒の盗人の襲撃。二割が紅白の巫女モドキの強襲。

 食事の準備ができないのは痛いが、『奴ら』に暴れられては元も子もない。

「妖精メイドじゃ相手にならないだろうし、私が対処するしかない、か」

 咲夜は不機嫌そうに両手を洗うと、メイド服のポケットから懐中時計を取り出した。



……………

……………………


MATOBA,s side


「No way? What the fuck!(まじか? なんてこった!)」

 粉々に粉砕された窓を見て、何故か汚い英語が俺の口から飛び出した。

 そのまま数秒窓ガラスの破片を睨み付けると、弾かれた様に雑納に飛びつき、中から財布を取り出し、残金を確認する。

 出てきたのは樋口が一枚、野口が二枚。あと小銭がいくらか…。

 ……我ながら寂しい懐具合だ。独身の二十代男の財布に諭吉が一人もいないとは…。

 まぁ、演習前にスロットを打ち散らかしてきたからなぁ。

 それは兎も角、数点、対処しなければならない問題がいくつか出てきた。 

 まず、七千円ちょいでこのガラスが弁償できるのか? という、ものだが、……難しいだろう。

 俺の給料…いや、ボーナスが消えるかもしれない。

 ……まぁいい、保留。


 次、言い訳。

 『亀がバグって突っ込んじゃいましたぁ。ゴメンネ』

 …………保留。

 

 次、爾後の行動。

 ……以上の事を踏まえ、俺が取らなければいけない最前の行動。

 それは……。

「ゲンさん、起きてくれ! トンズラしますよ!!」

 いや、自分でもどうかと思う。

 公務員として、というか人間として問題ある行為だとは重々承知している。

 ただ、こんなところで無駄な時間をくってる暇もない。

 できれば暗くなる前に人里には着いておきたい。

 時刻は1730。あと一時間もすれば日はかなり落ちて来る。


 俺は懸命にゲンさんを起こそうと、甲羅を乱暴に揺するが、一向に目を覚まさない。呼吸はあるので生きてはいるのだろうが……。

「クソっ、やばいな」

 ガラスの割れる音はかなり響く。

 このラブホはかなりデカいが、故に作業員の数も多いんじゃないか?

 人が来る前に逃げたいんだがね。

 ゲンさんは軽く見積もって、200キロ以上は軽くある。抱えて走るのは不可能だ。

 ……どうする?

 俺は何気なく廊下へと通ずるであろうドアを睨みつけた。

 幸か不幸か、未だに人の気配は無い。

「仕方ない、水でもぶっかけてやろうか?」

 そう思い、俺は弾帯(ガンベルト)の後ろ側につけてある水筒に手を……


「動くな」


 掛けようとして、右の首筋に当たる冷たい鉄の感触と、直後方から聞こえる女の声に、心臓が大きく脈打つ。

 誰だ? いつからいた? つか、また女にやられてんの、俺?

 情けないことに、完全にパニックに陥った俺は、水筒を取ろうとした間の抜けた姿勢のまま、しどろもどろに口を開いた。

「す、すみません。あ、あの……このホテルの警備の方ですかね? えぇと、自分は怪しいものじゃ……」

「黙って。全力で怪しいのよ、あなた。……両手を下腹部の付近で重ねて。ゆっくりと立ちなさい」

「……はい」

「よろしい。じゃあ、この椅子に座りなさい」

「……うす」

 俺は言われるがままに、両手を組み、椅子に座る。

 すると――

「っ!! なんだこりゃ!?」

 俺の体は、『いつの間にか』ロープで椅子に縛りつけられていた。

 自分は本当に椅子に座っただけだ。

 後ろでナイフを俺に突きつけている女意外に、誰かが居た気配も無かったし、第一に、縛りつけられる過程を俺は『知覚していない』のだ。

「さて、貴方は何者かしら?」

 狼狽する俺を尻目に、眼前に一人の女性が現れる。

 言動や立ち振る舞いから察するに、彼女が俺の後ろを取った人物に違いないようだが……。

 しかし、この女、かなりの美女だ。メイド服もよく似合っている(ん?)。

 アルビノ様に白い肌と見事な銀髪。白人系の顔立ちながら、日本語を難なく操っていた。

 人形の様に細く華奢な右手にはやや小ぶりなスローイングナイフが握られている。

 本来なら、是非とも性的な意味でご一緒したい相手だあった。

 が――――

「いや、ホント申し訳ございません!! 自分は外の世界から来た、一介の自衛官で、けして怪しくなど……」

 残念ながら謝罪に必死で、色事にかまけている余裕は一切なかった。

 ぶっちゃけ、彼女の持っているナイフよりも、俺の処遇の方が怖かったりする。

 そんな俺の心中を知ってか知らずか、彼女は整った眉に少し皴を寄せると、警戒心に溢れた瞳で、俺を見下した。

「はぁ? 外来人ということかしら?」

 て言うか、何だ? また、初めっから説明しないといけないのか?

 めんどくせぇよ。

 端折ろ。

「ぁあ、そんな感じです。ホントに自分はここを通りかかっただけで……」

「……貴方外来人なのね? 空は飛べるの?」

「い、いえ……」

「……じゃあ、どうやって入ったのかしら? ここは三階よ?」

「どうって、亀に乗って……」

「はぁ? その亀ってのは何処に?」

「い、いやいやいや! 何処って、普通に窓の傍に転がって…………へ?」

 両手が使えない為、懸命に顎でゲンさんのいる場所を指すが、そこには割れたガラスの破片が散らばっているだけで、ゲンさんの姿は見当たらない。

「何もないじゃないの。血迷い言を……」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!? いや、ホントですって!!」

 どこ行ったんだ、あの亀!

 あの巨体だ。動けば分かるし、仮に窓から逃げようものなら、猶の事目立つ。

 目の前に女がいきなり現れるかと思ったら、今度はゲンさんが忽然と姿を消した。

 どうなってやがる!?


………………

………………………

Scarlet.R side_


「失礼します、お嬢様」

 その声を矢切に、二度、三度と体を揺さぶられる。

 この感覚をレミリア・スカーレットは若干煩わしく思いながら、右目だけを半眼に開き、簡素なチェストの上に乗っている時計に目を向けた。

 窓のカーテンから、オレンジの光が差していることから、恐らく今は夕刻。

 時計の針は5時40分を指している。

「おはよう咲夜。……ふぁ、何か、今日起こすの早くない?」 

 レミリアは、青みがかった細く豊かな黒髪を手串でやや乱暴に梳かしながら、自身の配下、十六夜咲夜にそう言った。

 すると咲夜は、懇切丁寧なお辞儀をしつつ、「おはようございます」と挨拶し、自身の主に口早に要件を伝えた。

「お嬢様、本紅魔館に賊……のような者が侵入いたしました。処遇の判断のほどをお願いいたします」

「うん? 『賊のようなモノ』? 貴方にしては歯切れが悪いのね。……この紅魔館に侵入する奴なんて限られてるでしょうに。『魔理沙』じゃないのよね?」

「はい。本人は外来人だと言っています」

「はぁ? 追い返しちゃいなさいよ、そんなの」

「いえ、私もそうしようと思ったのですが……」

 咲夜は少し言いよどんで、レミリアから視線を逸らした。

「どうしたの? その外来人はそんなに大事をやらかしたの? こちらの被害は?」

「……窓ガラス一枚が砕けただけです」

「……しょうもな。ガラス代だけ請求して、そいつは捨ててきなさい。それから、あのザル門番は一回ご飯抜きね」

 レミリアはそう言って、乱暴にシーツを頭まで被ると、「朝食が出来たら起こして~」と言って再び眠りにつこうとする。

 そんな主人を目にして、咲夜は心の中でため息をつく。

 そして、数秒逡巡の末、再びレミリアに声をかけた。

「お、お嬢様。その外来人が変わっておりまして……」

「……一応聞いておくけど、どんな風に?」

 可愛いらしく、鼻から上をシーツから出して問うレミリアに、咲夜は今度はきっぱりと言い放った。

「全部です」  

 

……………………………

………………………………………


Matob,s side_


「君たち、妖精って種族だよね? ここで働いてんの?」

「うん! そーだよー」

「そーだよー」

「……そうかい。一応、聞いとくけど何歳?」

「8才~」

「9才~」

「そ、そうか。偉いねぇ」

 俺は今、椅子に縛りつけられたまま、木製の台車に乗っけられて、二人の女の子たちに連行されている。

 彼女達の背中には、二対の羽が生えており、森近から聞いた『妖精』の特徴と一致した。

 で、案の定聞いて見れば合っていたようだ。


 妖精とは、自然環境の権化らしい。

 ちょっと意味が分からないが、妖精の性格は環境に左右され、劣悪な環境だと……なんか狂暴になるようだ。

 しかし、俺が乗る台車を押している二人の妖精達は、「人間じゃないとしても、こんな子供をラブホで働かせるのってどうよ?」と言う思いを無視して言ったお世辞に、とても嬉しそうに顔を綻ばせている。


 兎に角、ここが危険な場所ではないのは分かった。

 ま、当たり前か。ラブホだし。

「で、聞きたいんだが、俺はこれからどこに連れて行かれるのかな?」

 そんなことより、早く責任者にあって頭下げて、人里に行かないと。

 

 現状ははっきり言ってる宜しくない。

 まず、ゲンさんが消えた。これが一番のマイナス要素だ。

 飛行出来ないから速度が遅くなるとか言う以前に、俺はこの幻想卿の地理が分からない。

 この幻想卿は隔絶されており、GPS みたいなオシャレな機器は使えない。

 そして地図もない。仮にあったとしても、この世界の文明基準から、精度が怪しい。

 ……山の地図の判読はややこしいのだ。

 UTM 座標とか、前方交開法とか、ミル公式とか。

 あまりのややこしさに、新隊員教育課程程度では自衛隊では教えていない程だ。

 閑話休題。

 取り敢えず、ちゃんと頭を下げよう。

 そして、あわよくば人里にまでの経路を教えて貰おう。


「ふー、着いたよ、お兄さん!」

 俺が色々と考えている間に、どうやら運搬は終わったらしい。

 しかし、ここは……。

「すげぇな。豪華絢爛ってやつか?」

 目測十メートルはある天井には、きらびやかなシャンデリアがこれでもかと吊るされており、床は全て大理石。

 面積も広く、2個中隊規模の人員で盛大なパーティーができそうだ。

「妖精さん。ここは?」

「よく分からないけど、『えっけんのま』って言うんだって」

 謁見の間!?

 え、何それ? 王さまでも出て来んの?

「お兄さん、何したの? メイド長、怖い顔してたけど……」

 メイド長? あの、銀髪の女か?

「いやぁ、窓ガラスをね、割っちゃって……」

 少し気はずかしかったが、隠していても仕方ないので、俺は正直に言った。

 すると妖精達は、可愛らしく笑うと、俺の頭を撫でてきた。

「あははっ。それは、べんしょーだね!」

「……だよねー。お金あんまり持って無いのに……」

「えー、今いくらあるの?」

「7238円……、かな」


「「……え?」」


 それまで俺の頭を撫でていた、彼女達だっが、一瞬大きく目を丸くすると今度は、呆れた様に俺の肩を叩いて笑い出した。


「もー、お兄さん嘘つかないでよ!」

「え? いやぁ、嘘じゃないって」

「またまたぁ、だってそれだけあったら『このお屋敷が買えちゃうかもね』」


 ……からかわれてるなぁ、俺。

 何となく不憫な気持ちのまま、妖精達に小突かれていると、突如この広間に声が聞こえた。


「静に。当主が御目見えします。特にそこの侵入者は、無礼のないように」


 声の方向に目を移すと、三段程だ高い台上に、例の『メイド長』とやらが『いつの間にか』現れて、俺を見下していた。



  



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