ホサツサレルカチクハ ウンメイヲノロウカ?
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Matoba's side_
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 鉄帽うぜぇ!」
俺は今まで頭に乗っかっていた鉄帽を取り、雑納の中から戦闘帽を取出し被った。
やっべ。首がめっちゃ軽い。
そして、邪魔な鉄帽を背嚢の中にぶっこむ。
装具もぶっこむ。
弾帯もぶっこむ。
防弾チョッキもぶっこ……。ぶっ…………こめない!
無理だ、キャパが足りねぇ!
小銃も若干邪魔だが、まぁこれはしょうがない。
まぁ、『俺の小銃』は今から使いに行くけどね。
なんつってぇ! うへへ。
これから俺が何をするかと言うと、『ナニ』をしに行くに決まってんだろ!
だって、いきなり大金が懐に入って来たんだぞ。
見ず知らずの地で、いきなり命を狙われることになったんだぞ。
いや、だからね。多少ははね。羽目を外してもいいと思うんだよ、うん。
さぁて、伊丹駐屯地に行ったら飛田新地、海田駐屯地なら流川、山口駐屯地に行った時は少し遠出して下関。
どれもこれも素晴らしかった……。
まぁたまに、ガンタンクとかリックドムみたいなのに当たることもあるがそれも一興。
ハズレがあるから、当りの存在感が映えるのだ(哲学)。
よし、準備は整った。
俺は居酒屋に来る前に、十六夜に脅迫された街路まで足を進める。
そこは、もう二十一時を過ぎたというのにきらびやかな提灯やとっても扇情的な服装をしたおねーさんが路上に立ち、あちこちに笑顔を振りまいている。
客足はぼちぼちといったところだが、俺には好都合だ。
んー、しかし案内所とかないのか?
まぁいいや。金と時間はあるし。外れたら、次行くってことで。
では。
小隊第二突撃支援射撃榴弾瞬発装薬三方位角4600一発射角0800最大射角指名装填待てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
分隊は今から三秒後二時間突撃にぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!
安全装置よし(ゴム)弾込めよし(金)着剣よし(×××)連発よし(持久力)準備よし前へ!!!!!!
やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!
「ども、ここ今大丈夫?」
俺は適当なおねーさんに声をかける。
すると彼女は端正な顔に引き攣った笑みを浮かべ、一歩後方に下がった。
「え、えぇ。大丈夫です。……随分とまぁ、前衛的な服装ですねぇ」
……まぁ、そうくるよなぁ。
「俺外来人なんだよ。この服は……あー、外で流行ってるんだ」
「まぁ、外の方……ですか!? よくご無事で」
「……? あぁ、うん。しかし、おねーさん可愛い着物だね。しかも膝上の丈ってヤバイわ」
「ふふっ、ありがとうございます。さぁ、どうぞお入りください」
「どうもどうも」
……『よくご無事で』だと?
竜二さんも同じこと言ってたな。
一体どういう意味だ?
そんな事を考えながらおねーさんに案内され、店の中に入ると待合室に通される。
そのころには些細な疑問などすっかり海馬の片隅に追いやられてしまっていた。
「お客様、御指名は?」
「いや、始めてなもんで。空いてる娘でいいよ」
「はい、かしこまりました。では、爪を見せて下さい」
「ほい」
俺は簡素な木造の椅子に腰かけると大人しく爪を見せた。
「はい、結構です。では、えーと……十分前後お待ちください」
「分かった」
そう言うと、彼女は俺に一礼して店の奥に消えていった。
取り敢えず、クソ重い背嚢を下ろし、座り直す。
あとは待つだけだな。
当りかハズレだが、キャッチのおねーさんであのレベルだ。
これは期待できる。
俺は期待に胸を膨らませながら、タバコに火をつけた。
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Matoba's side_ Restart
遅い。
遅すぎる。
俺は再びタバコに火を付ける。
目の前の灰皿にはもう五つのも吸殻が転がっている。
現在、2205時。
この風俗店に入って、店員に言われた『十分』前後が経過してから久しい。
というか、あと五分で一時間が経過する。
客も俺しかおらず、音源は俺の呼吸音以外なく、シンと静まり返った待合室は不用意に俺の神経を逆撫でする。
「……すみませーん。ちょっといいですか?」
声をあげる。
だが、感なし。応答なし。気配もなし。
「おい、なんだってんだ?」
不機嫌にそうはいうものの、……なんというか、形容できない不安が俺を包む。
憤りは不安へ。
不安は焦燥へと変化するにつれ、判断力は低下する。
必要なのはそうなる前に、現状を打破する勇気だ。
と、いうことで、俺は店の奥に入る事にした。
「し、失礼しまぁす」
若干尻込み気味なのは勘弁してもらいたい。
本来こういう店で好き勝手すると、後で手痛い目に合うからな。
俺は意を決して、店の奥へと通ずる扉のノブに手をかけた。
すると――――
「のあっ!? なんだ?」
ノブは白く鈍色に発光し、俺の視界を一瞬奪った。
反射的に硬直するが、自身の身体に異常は無い。
発光も収まり、元の静寂が体を包む。
「何だこれ? ビビらせやがって、腹立つなぁ」
安堵し、ノブを握った手が急激に弛緩する。
そして、意図せず扉は開かれ、
『それは』何の予兆も無く俺の目に飛び込んできた。
「………………………………………っ!?」
死体だ。
たくさんの死体。
扉の先数メートルから奥の十字路にかけて、多くの肉塊が散らばっている。
壁と廊下には糞尿が、血が、有象無象の肉片が………。
一歩、二歩とたららを踏むように後退し、思い出した様に背嚢を掴み、出口に走る。
無理だ。これは俺には手に負えない。
何が起こっている!?
あの一時間足らずで、あんなにも人が。
何も聞こえなかったぞ、悲鳴すらも!!
反射的にリベレーターを右手に持ち、俺は出口まで走った。
だが――――
「…………!!」
聞こえた。かすかに聞こえた。
あの扉の向こうから、人の、女性の悲鳴が。
俺は慌てて、右足を踏ん張り、扉を振り返る。
「いや、助けてっ!! 誰か、誰かぁ!!」
間違いない、襲われている。
今度ははっきりと、明確に俺の耳に入ってくる。
そう知覚したとき、不意に扉の向こうの遺体と目があった。
俺は彼女を知っている。
『ふふっ、ありがとうございます』
彼女の着物を褒めた時の、あの笑顔。
見惚れるぐらいに可愛らしかった。
だが今は――――
「オラ顔出せクソ芋、ブッ殺してやる!!」
俺は叫んだ。
……恐怖と言う名の本能は、今だに赤警報を発している。
俺の土俵ではない。退避すべきだ、と。
確かにこんな状況、B級のサイコ映画でしか見た事なかった。
怖いよ。レミリアとの戦闘よりずっと。
……だが、今回は。
今回ばかりは、恐怖は怒りに押し切られた。
俺はリベレーターを半身に構え、突貫する。
各部屋のクリアリングもそこそこに。
今は精度より速度だ。
そして、十字路にさしかかった、その時。
右の通路より人影が現れた。
「っ!! 動くな!!」
銃口を指向し、警告。
「な、何だお前は!?」
『奴』は怯み、俺を見据える。
「お前がこれをやったのか?」
俺と対峙する『奴』の体は真っ赤だった。顔はマスクを被っており見えないが、着物には所々、肉片がこびりついているのも見て取れる。
「だったらどうする?」
『奴』はそう吐き捨て、俺に突っ込もうと体勢を取った。
……動いたな?
ぶっ殺そう。
仕方ない。
警告射撃はリベレーターの発射機構上できない。
弾も少ない。
何より、『奴』にかける慈悲など無い。
『奴』の左足が前に出る――――より先に、俺は引き金を引いた。
それと同時に、『奴』の体は数メートル吹っ飛び、地面に転がった死体の上に折り重なる。
45口径のホローポイントを胸部に。
この実包は、並みの防弾チョッキの上から内臓を破裂させ、生身なら人体に修復不可能な損傷を与える。
……普通の人間なら即死だろう。普通の人間なら、な。
俺は素早く次弾を装填すると、45ACP弾を『奴』の頭部に向け、無警告で叩き込んだ。
「……きゅ………げ、ぇ………」
声にならない奴の悲鳴。
やはり生きてやがった。妖怪だったらしい。
俺は『奴』の側頭部がしっかり弾け飛んだ事を確認する。
「次はあの悲鳴を上げた女性だ……。頼むから死んでるなよ」
装具から救急品の止血帯といくつかの薬品を取出し、踵を返した。