表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/24

観光

………………………

………………………………………

 

Matoba,s side_


「だからぁ、あれは銀の弾丸じゃないんだよ。名前こそシルバーチップなんて名称だし、弾頭は白銀色してるが、これはアルミニッケル合金で吸血鬼を殺す力はないって」

「ほんとうかしら? いまいち信用できないわ」

「いや、だから全部フランさんとの演技だったんだよ。第一な、いつまでたっても紅魔館に押し込めるなんて、ちょっと良心が痛まないわけ? 俺には無理だね」

 ……しつこい十六夜からの詰問をのらりくらりとかわす。

 まぁ、自分でもこのセリフは白々しいとは思うが……。

「もう、二人ともいい加減にしなよ」

 いつまでも相容れない俺と十六夜に、流石に辟易したのか、フランさんは幾分呆れた様子でため息をついた。

「……妹様、お言葉ですが、お嬢様も私目もあなた様のことを第一に考えております。私はともかく、あまりお嬢様を不安にーー」

「アー、キコエナーイ」

 フランさんは十六夜の言葉を強引に切ると、頭をふって、右耳を片手でふさいだ。

 

 ……十六夜が俺たちを追って来たのは、別にフランさんを連れ戻しに来たのは訳ではないようだ。

 理由は不明だが、俺を妖怪から助けたし、人里にまで案内してくれている。

 また、その事については「知らないわ。私はお嬢様の意向にそっているだけ」、とのこと。

 レミリア・スカーレットが紅魔館の主なら、彼女はマネージャーと言ったところか。……大変だな、中間管理職も。


 とにかく、彼女がいるのは、俺にとっても悪いことではない。

 正直、人里についてからのフランドールの対処については、若干考えあぐねていたところだ。

 適当に観光してもらって、あとは十六夜に押し返すか……。

 ……などと打算していると、

「あっ! 咲夜、ゼン君、なんか家がいっぱい見えてきたよ!! あれが人里かなぁ!?」

 頭上から、フランさんの嬉しそうな声が響いた。

 それにつられて俺も前方に目を向ける。

 

 するとそこにはいくつもの木造住宅がところ狭しとならんでいる……って、要はクソ田舎じゃねぇか!!

 とても平成の世とは思えない。

 例えるなら……そうだな……。

 学生のころ、修学旅行で行った京都の映画村がこんな感じだった。


「そうですわ、妹様。さて、そろそろ降下しましょう」

「はーい」

 そう言って、彼女らは高度を下げ始めた。

「えー、里の中まで行ってから降りようぜ。あと、数百メートルあるし」

「……あんたね、私と妹様はスカート穿いているのよ」

「は?」

「だからっ、人里のど真ん中で降りたら……見えちゃうじゃない………………下の人から」

「知らん、だりぃ」

 十六夜は無言で俺の後頭部をはたくと、高度を落とした。

 それに習って、フランさんと俺も地面に近づいて行く。

 ……まいったな。

 ダルいのは本当で、体がまだ重い。

 まだ、キノコの毒が効いているらしい。


「……お? ととと、ドゥブッ!?」

 何を勘違いしたのか、フランさんは俺を地上五メートルあたりの、微妙に高い位置から突然手を離した。

 その結果、俺は空中で軽くきりもみし、背中から地面にぶちあたった。

「あ、あれ? ゼン君、大丈夫?」

「……妹様、人間は壊れやすいので取り扱いにはご注意ください」

「え? えぇ!? ご注意もなにも、全然高くなかったよ! そっからそこまでだよ!?」

「いえ、我々人間にとって、今の高さはギリギリセーフくらいですよ。最悪、骨折しているかもしれません」

「うそぉ!? ちょ、ちょっと、ゼン君大丈夫!?」

 十六夜の話に、フランさんは目を丸くし、慌てて俺のほうに近寄ってきた。

 正直、ちょっとチビリそうだったが、無言で頷いておいた。


「しかし、ホントよく分からないとこだな、幻想卿(ここ)は」

 数分ほど寝っころがって回復した俺は、あらためて人里の入り口に向け歩きだした。

 日はかなり落ちており、となりを歩く十六夜とフランさんの顔も視認しずらくなっている。

「初めはね。私もここに着たばかりのころは、色々苦労したわ」

 そう言って十六夜は感慨深そうに顎に手をあてがった。

「お前も外来人だったのか。時止めはここに着てから備わった能力なのか?」

「……どうして私の能力を知っているのかしら?」

 あ、やべぇ。

 口が滑った。

「……俺も情報無しでここまで来これるほど、勇敢じゃないさ。それに、気になるだろ。かなり、強力な能力じゃないか」

 森近の名は伏せておいた。……『万が一』のためだ。

 しかし、十六夜の能力には本当に驚いた。

『時止め』。漫画やゲームじゃ、チープな能力だが……ほんとにいたとはね。

「あなたには関係ないでしょ」

「そうだな、すまなかった。ちなみに、フランさんはどんな能力を?」

「ん? 私はねー、『ありとあらゆるものを破壊する程度』の能力だよ」

「い、妹様。あまりご自分の能力を無闇に……」

「あ、あぁ。いや、俺が悪かった。すまん立ち入りすぎだったよ」

 ……当たり前だが、十六夜は相当警戒しているな。まぁ、『お互い様』だが。

 それは兎に角、今のところ森近の情報に相違はみられない。フランドールの能力も合っていた。

 あの男が俺に嘘の情報を教えたとは思っていないが、情報は生き物だ。経年変化する。

 実際のところ、俺自身が情報の真偽を確認し、取捨選択するしかない。

「やけに突っ込んで聞いてくるわね」

「能力にか?」

「もしかして欲しいのかしら?」

「んー、まぁ興味はある」

 十六夜からの問いに、そう答えたが、……まぁ、本心だ。

 いやほら、カッコいいじゃん、純粋に。

「『能力』とは言うけど、これは自己申告なのよ」

「そうなのか? なんか生まれ持ったスーパーパワー的なのじゃないのか?」

「そういう人もいるにはいるけど、殆どは後付よ」

「後付……って言うと?」

「そうね、例えばとある薬を摂取して不老不死になったり、魔術を学んで魔女になったり。……他にも、色んな外的要因が散見されるけど、方法は多種多様よ」

 ……不老不死まで出てきたか。

 ちょっと、気になるな。

「えーと、つまり頑張れば俺もなんらかの能力が付くことがあるのか?」

「否定はしないけど難しいわ。人間自体が幻想よりの生物ではないからね。何かの能力を欲するなら、人生を捨てるつもりで、能力の習得に励まなければいけない場合が多いわよ」 

「……そこまで熱心になる気はねーわ。ちょっと、がっかりだ」

「ん? 言っとくけど、一度能力を取得したら、幻想卿から出ることはできないわよ。本当なら、人里なんか寄らずに、さっさと帰ることをお勧めしたいのだけど」

「え? そんなに簡単にかえれるのかよ?」

「えぇ。博麗神社からね。あそこにいる巫女に頼めば一発よ」

「はぁ!?」

 嘘だろ。

 どうやって外の世界に帰るか知らなかったが……まさかあそこかよ。

 灯台下暗しってやつだ。

 いや、そう言えば森近も言ってたような……。

「一番重要なことは知らなかったようね」

「あぁ。……でもなぁ、あそこには近づきたくねぇんだよ」

「……博麗神社は知っている様だけど……。なんでよ? 霊夢に嫌われたのかしら」


「それ『も』ある」

 どこか悪戯っぽい笑顔を向けてきた十六夜だったが、俺の返答に笑みを凍りつかせた。

「何をやらかしたのかしら? ……彼女はぶっきらぼうなところはあるけど、根は温厚な子よ。 ……それに、『それも』って、どういうこと?」

 ……パンツ見たことは黙っておこう。

「いや、あそこでイブキ スイカと戦闘になってな……」

「………………はい?」

「いやまいったよ。それまでに妖怪と尻尾の生えた女に襲われるし。で、最後はお宅のご主人様だ。……なにかしらの能力があれば、これから先の対抗手段になると思ったんだがな。残念だ」

「いや、残念なのはあんたよ」

「どう言う意味だ!?」

「ねぇ、ちょっといいかなゼン君?」

 これまで俺達の会話を黙って聞いていたフランさんが、ものすごく気の毒そうな笑みを顔に張り付かせ、唐突に話しかけてきた。

「何スか、その顔は?」

「えーとね。ゼン君、この幻想卿に来てどのくらい?」

「……まぁ、五時間くらいですが、何か?」

 俺の言葉を聴いた二人は、とても深いため息をつくと、額に手を当てた。

 

「咲夜、これは『持ってる』ね……」

「そうですね。もう、私は何も言えません」

「ん? おい、何の話だ?」

 あからさまに怪訝そうな顔をする俺を捨て置いて、フランさんは何となく優しい笑みを俺に向けた。

「何でもないよ。ただ、ゼン君は持ってるよ、能力」

「え? どう言う意味っすか?」

 一瞬、鼓動が早まる。

 俺に、隠された謎の力が--

 

「ゼン君はね、『ありとあらゆる(モノ)をキレさせる』能力なんだよ」

「的場様、ちょっと気持ち悪いんで、こっち来ないでくれますか?」


 フランさんと、何故か慇懃無礼な態度の十六夜は、それだけ言うと俺からダッシュで逃げていった。

 無論、二人を追いかけようと俺も走るが、能力者と吸血鬼相手では追いつきそうになかった。

    
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ