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死霊王子と花の指輪  作者: くらげ
第五章 エリエールの回顧録
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求婚

 話を飛ばします。私は王子様が17の時にすでに物語は始まっていたのではないかと思っています。

 王子様が、17歳の時、結婚話が持ち上がりました。相手は隣国の姫で当時11歳でした。



「国のためなら……とは思うんだけれどねぇ」

 王子様は大きく息をつきました。


「自分の好み言わないから、こんなことになるんです。他にも美しいお姫様がたくさんいらしたのに……」

 私は、王子様のため息に続いて思わずため息を吐いてしまいました。

「で、本当にあのかわいらしいお姫様と結婚するんですか?」

 王子様は顔をしかめ「今すぐじゃない」と反論しました。


「変態」

 私が、そう言うと王子様はますます渋い顔をしました。

「本当は、姫が十二の冬に結婚する予定だったらしいんだが、この忙しいのに、さすがに十二の女の子の遊び相手なんてやってられないし……」


 この頃には王様から王子様の政務の引継ぎが始まっており、王子様は慣れない業務を覚えるため忙しい日々を送っておられました。


「まあ、女の人のお尻を追いかけているより、新しい草を見つけるほうが好きですものね。小さな女の子を相手している暇があったら、研究室で新しいお薬を開発したいのでしょうけれど。面倒くさがらずにちゃんと気にかけてくださいね」


「姫の前でそんな口の聞き方をするなよ」

「王子様の前以外ではちゃんと猫の皮を被っています」

「本当に言葉遣いに気をつけてさえいれば、シャム猫並みの気品があるんだから。暴言娘」


 まあ、王子様も私もろくにシャム猫とやらを見たことはなかったのですが、元は商人だった財務大臣が私のことをよくそう評しておられました。

「シャムロック様、財務大臣の三男とのお話うまく断ってくださいよ」


 この頃の財務大臣は以前いぜん私が茶をこぼした経産大臣でした。

 私がお茶をこぼして以来、私の顔をばっちり覚えられて、王子様の部屋を訪れるたびに、他の侍女が側にいようが、必ず私を指名して、お茶を頼んできました。

 おかげで、あの方にお茶をお運びする時は、いつも緊張していましたね。


「わかったよ。あの人は無理強いする人じゃないから」

 無理強いするような方だったら、話が来た時点で王子様が即座に断っていたことでしょう。

 財務大臣様も私がぽろりと自分の過去をしゃべったから、私の将来を気にかけて下さったのだと思います。



 すみません。話が逸れてしまいました。


王子様はお姫様と結婚するまで、毎年春に会うことを約束されました。

 お姫様は春になると数日、王子様の城に滞在し、王子様に馬で連れ出されては、この国の美しい春を楽しんでおられました。


 お姫様が十四、王子様が二十の秋、本来の滞在時期とは違う時期にお姫様が王子様の城に一人の少年を連れて現れました。


 なんでも、お姫様が森で迷って狼に襲われかけたところを村の少年に助けられたそうです。

 私は安堵し、王子様はお姫様をちらちら気にしながら、少年にいくつかの薬を作って渡しました。


 今では、あんなことになるとわかっていればお姫様はあの時、狼に食べられてしまえばよかったと思っていますが。



 お姫様と少年が慌しく帰るのを見送って、私はニヤニヤしながら王子様に話しかけました。


「お姫様、お綺麗になられましたね」

 半年前までは、美しさより可愛らしさが勝っておりましたが、その頃にはわずかながら逆転しておりました。

 王子様はぼんやりしたまま「うん」と短く答えます。心ここにあらずといった感じです。


「襟ぐりの大きなドレスがお似合いになってきましたね」

「どこを見てるんだ。まあ、綺麗になったとは思うけれど」


 わたしは、王子様と同じようにぼーっとお姫様を眺めていた少年のことをちらりと思い出しました。

 姫様よりか一つか二つ上の少年……。

 屋敷を抜け出して森に行けるほど馬を乗り回せようが基本は深窓のご令嬢ですから、余計な心配はないと思いますが、念のため釘は刺しておかなければなりません。


「ご主人様も気になさっていたくせに。ぼんやりしていたら、他の殿方に盗られてしまいますよ」


 王子様は、お姫様しか目に入っていなかったようで、自分が手当てした少年のことをすっかり忘れられているようです。


「結婚決まっているのに、そんなことあるわけないだろう」

「危機感の足りないこと。さっさとご結婚なさったらよろしいのに」

 私もそんなことは絶対ありえないと思っていましたから、くすくす笑いながらそう言いました。


「でも、求婚の言葉がなぁ」

「それこそ、結婚が決まっているのにいまさらのような気がしますが……。確かに求婚の言葉がないよりか、あるほうがよろしいですわね。わかりました。練習しましょう。私を姫様だと思って、告白してくださいな。ぼろぼろに振って差し上げますわ」

 王子様のだから、「私と結婚したら毎日まいにち草の話をしてあげるよ」などと言いかねません。


「振るのか?」

「どんな答えにも即時対応できるようにするためですわ」


 その後は王子様の求婚の言葉を一緒に考えるのに忙しく、私の心の中からも、あの少年のことは消えうせてしまいました。


 求婚の練習は本当に猛特訓で――。


 まあ、私も王子様もよくあんな恥ずかしい言葉を連発したなと思いますよ。


「具体例を聞きたい」ですって?絶対言いません!



 皮肉なことにその頃から、王様の体調は急激に悪化し、15に姫様が訪れられた時はゆっくりお話をできるような状況にはございませんでした。

 お姫様を部屋にひとり残すわけにはいかず、王子様は自分のいない間のお姫様の相手を私に任せられました。


 ☆


「王子様は、いつも忙しくてらっしゃるのね」

 お姫様は、ほぅとため息を吐かれました。

「きっとご結婚されれば、毎日、馬でいろんなところにお連れくださいますよ」

 結局その日も、お姫様が寝てしまった頃にお仕事を終えられて戻ってこられた王子様に、明日こそ、ちゃんと告白しなさいと叱責しました。明日の午後にはお姫様は帰ってしまわれます。


 翌日の早朝から、王子様はお姫様を連れて森の湖へ出かけられました。


「なんとか、求婚した」

 晴れやかな王子様の顔を見れば、とりあえず告白は成功したようです。

「なんておっしゃったんですか?」

「来年の春……庭のバラが一番美しく咲き誇る時期にあなたを迎えに行きますって」


 まあ、王子様にしては頑張って甘い告白をしたと思っておきましょう。

 ですが、今は四月。来年の春バラなんて待っていたら、一年以上後あとになります。


「バラなんて年がら年中咲いています!せめて、秋バラの時期にされれば良かったのに!」

 私は一気に怒鳴って、深呼吸し気を落ち着けた後、肝心なことを聞きました。


「返事は?」

 王子様のことです。

『返事は来年でいいよ』とか言って、とりあえず告白しただけで満足している可能性もあります。

 私がじろりと睨むと王子様は、しどろもどろに答えます。

「キスを受けてくれたから大丈夫」

 なんだか、頼りない返事ですが、大丈夫だというなら良しとしましょう。

 まあ、そのキスも後からよくよく聞いてみたら、指先にちょこっとだけだったそうですけれど……。


 その時までは、恋について考えることがありませんでしたが、私は、本当に幸せそうな王子様を見て、王子様とお姫様が少しうらやましくなりました。

 王子様が、ご結婚されたら、自分の恋も考えてみようかと思えるほどに……。


 でも―

 その時には、お姫様の裏切りは始まっていたのかもしれません。

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