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死霊王子と花の指輪  作者: くらげ
第四章 トリス先生たちの日常
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トリス先生の日常5

 半年の期限が来た。

 明日に最終試験がある。


 アイリスが私の額にキスしたのをロザリーに目撃されてしまった。

 ロザリーはなにか大変な誤解をしているようだったが、説明しようとすれば、アイリスとの出会いから説明しないとといけない。


 見たことを言いふらしはしないと思うが、万が一、漏れてしまうと困る。

 私は噂が広まっても、この村を出て行けばすむが、ハンスとアイリスに迷惑をかけることだけは避けないといけない。結局口止めだけをして、詳しい説明は一切しなかった。


 明日出す料理には、無難なものしか出さないが、料理の良し悪しを決定するのは、ロザリー一人だ。

 公正を期するために、他の人にも審査員を頼もうかと思ったが・・・。

 緊張のあまり、ひどいもの作って、審査員の皆様を腹痛にするわけにはいかない。 

 あんなことがなければ、アイリスに頼んでも良かったんだが・・・。


 ロザリーはあれ以来何も言ってこないから、私のことを諦めてくれているかどうかもわからない。


 ――あなたは他の扉があることも知っている――


 他の扉は、バラの庭園に、呪いの狼に、エリエールに繋がっているかもしれない。


 ――あなたの幸福を祈っているわ――


 これ以上はないくらい、幸せだ。

 子どもたちに勉強を教えて、好きな薬作りを好きなだけできて・・・これ以上は必要ない。


 ――今のままがいい。


「なんにしても、明日だな」


 ☆


 今日は、料理にどれだけ、時間をかけてもいいように午後の授業は休講にしている。


 玉ねぎとニンジンのコンソメスープ、ジャガイモとブロッコリーのサラダ、そして焼き魚。

 ほかに、もう一品ぐらい追加したかったが、間違いなく作れるのがこれくらいだったのだ。

 手抜きと言わないで欲しい。玉ねぎはぽろぽろ涙出るのも我慢したし、ジャガイモはちゃんと皮を剥いて、小さな芽も丁寧に取った。ブロッコリーもちゃんとでてある。焼き魚も料理を習い始めの頃は、生焼けか焦がしすぎになっていたが、今日は綺麗な焦げ目になっている。魚の横には香草を添えている。


 ロザリーが一つ一つ食べていくのを緊張しながら見つめ、自分の分を食べ始める。

 塩加減などの好みがあるが、味はそんなにずれた味にはなっていないはずだ。

 食事は静かなほうがいいが、今日の張り詰めたような静かさは、できれば二度と味わいたくない。


 スプーンを置いた彼女が、スープ皿を見つめながら言う。

「少し、量が少ないけれど、料理を始めた頃より、数百倍マシ」


 彼女は顔を上げるとにっこり微笑んで、

「よくがんばったわね。合格よ」

 と言った。


「やった!」


 おいしくても、『まずい』と嘘をつくこともできたはずなのに、私の料理をちゃんと見てくれて、素直にめてくれたことが嬉しかった。

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