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死霊王子と花の指輪  作者: くらげ
第四章 トリス先生たちの日常
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ロザリーの日常5

 試験の十日前、私はいつものようにトリス先生の家に訪れていた。


「……ろっく、子どもじゃないんだから、いつまでも意固地になっていたら駄目よ」


 女の人の心配そうな声だ。私はそっと中を覗ってみる。


「……アイリス」

 アイリスさんは、先生が村の入り口で野たれていたとき、先生を引き取って介抱してくれたハンスさんの奥さんだ。確かトリス先生よりか二つか三つ年上だったと思うが、先生にしては珍しく『アイリス』と呼び捨てにした。


 机に突っ伏していた先生がのそりと顔をあげる。

 アイリスさんは何事か先生の耳元でささやくと、先生の額にキスをする。


 先生はキスを嫌がっている様子も驚いている様子もない。


 えー!トリス先生の恋人!しかも人妻?年上?旦那さんは二人の不倫を知っているのだろうか?


 しかも、アイリスさんて、先生が以前に言っていた『金髪、緑の瞳』の条件に合う。


 呆然と立ち尽くす私にトリス先生とアイリスさんはやっと気づいたようで、二人とも驚きの表情を浮かべるが、アイリスさんは、すぐに我を取り戻して、堂々と玄関から出て行く。


 すれ違う時、アイリスさんがいたずらが見つかったみたいにちょろっと舌を出して呟く。

「ごめんね」

 ごめんねってなんなの?


 私は、どう反応していいのかわからず、いつもどおり台所に行く。


 先生も強張こわばった顔のまま台所に来て料理をし始めるが、途中、手を止めてため息をつく。

 何度目かのため息の後、手を完全に止めて、私のほうを見る。 


「どう誤解してもらってもかまわないが、ハンスさんとアイリスさんの迷惑になるようなことは言いふらさないで欲しい」


 誤解もなにも、今、見たのを他にどう解釈したらいいのだろう。

 というよりか、悪い噂を考えもなく(もしくは振り向いてもらえない腹いせに)ばら撒く女だと思われていたのか。


「頼む」


 頭を下げる先生に、私は頷くことしかできなかった。


 ☆


 先生とアイリスさんのキスを目撃して九日後、約束の日が明日に迫っていた。


 明日、私は完全に振られる。

 せめて、振られる理由が欲しい。九日前に見た“あれ”が理由なのだろうか?


 2年以上も料理を作りに先生のところに通っているのに、先生の過去を突っ込んで聞いたことはほとんどない。


 先生の過去のヒントは『シロツメクサの指輪』『アカツメクサの指輪』『実家は絵本があるほどの大金持ち』『紙もらくらく買える』『文字が読める』『算数もできる』『鍬を持ちなれていない』『薬草・ハーブについて詳しい』『死霊王子の伝説が嫌い』『料理ができない』『寝食を忘れて働く』『金髪に緑の目』・・・『アイリスさん』『エリエール』


 この村のようにシロツメクサの伝説がある町の高名な薬師の家系で、読み書き完璧、『エリエール』って言う恋人か婚約者がいたけれど、死霊王子みたいな恐ろしい形相の男に、恋人を殺され、シロツメクサの花が真っ赤に染まったとか?

 恋人を忘れないために、いつもアカツメクサの指輪を嵌めていて、今後、女性を好きにならないと心に誓っている?

 でも、恋人にそっくりな人、アイリスさんが現れて――


 繋がったかな?う~ん。無理やり繋げた感が満載。


 最初は二人分作らせても、ぜんぜん駄目だった料理が、一人分でもそれなりに味が調ってきている。

 先生がよっぽどの失敗をしない限り、明日、私は「合格」と言わなければならないだろう。

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