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フミさんと衝撃発言

某医薬品会社の開発研究員をしている春元フミは研究に没頭し始めると2・3日は軽く会社にお泊・徹夜コースを平気でしてしまうような人物であった。


「春元さんって1人暮らしなの?」


普段から自身のことについては多くを語らないフミは以前そんなことを尋ねられたことがあった。

その時の彼女の答えは「NO」だった。


「家族と住んでますよ」

「あ、そうなんだ。でも会社に泊まり詰めで親御さんとか心配しない?」

「さぁ?」


そこで会話は終了。彼女は再び研究に没頭し始めた。

それ以後、フミの社内での評価は「仕事はできるが面白味のない奴」と言ったところである。


そんな彼女だからこそ、世間の流行なるものにも全くと言っていいほど関心を持たないのも無理は無い。


例え、研究所の一角にあるテレビでワールドカップの中継が放送していようが。

例え、フミ以外の研究員がそのテレビの前で試合にクギ付けになっていようが。

例え、テレビ画面で試合の後半3分前に逆転ゴールが劇的に決まっていようが。


フミはお構いなしに研究に没頭する。


「主任、レポートが書けたのでチェックをお願いします」

「あー・・・・・お、今日のインタビューはタツミか!」


フミの言葉に曖昧に頷きながら(きっと聞こえてはいないのであろう)主任はテレビ画面に夢中である。

画面では主任が言ったタツミ選手が嬉しそうにインタビューに答えている。


「そりゃーそうでしょう。今日の試合が勝てたのもタツミあってこそですよ!」

「確かに、最後の逆転ゴールは良かったなぁ」


予選とはいえ世界への第一歩を決めた興奮は冷めることなく研究員達は口々にタツミ選手を褒め称えている。


『タツミ選手、最後にこの喜びは誰に一番伝えたいですか?』

『え・・・・・そうですね・・・・・』


女性レポーターの質問に尋ねられたタツミ選手は困惑したように言葉を濁す。


「うわぁーベタな質問しましたね、このレポーター」

「えーでも女性としては気になりますよ!ここで恋人とか言われたらショックですよ!!」

「タツミって女に人気あるもんなぁ・・・抱かれたい男ナンバー1だっけ?」

「違いますよ。抱かれたい男ナンバー5。でもスポーツ選手では1番ですよ」

「よく知ってるねぇ~」

「ファンですから!!」

「でもこういう時は『応援してくれたファンの皆に』とかでしょ?」


などとタツミ選手の回答を先読みする面々の会話を聞き流しつつ、フミはパソコンと向かい合っていた。

時刻は5時27分。就業時間まであと3分だ。

どうやら今日は会社に泊まることなく定時に帰るらしい彼女はパソコンの電源を落とし始めている。


『ここは応援してくれた皆にと言いたいのですが、今日は妻に』


タツミ選手のその発言にレポーターも、テレビで見ていた研究員達も呆気に取られている。

それはそうだろう。

既婚者ならば当然の発言だが、今までそんな噂など一つもなかった今をときめく若手サッカー選手が恋人を一足飛びしての妻発言だ。

しかしそんな周囲の反応などお構いなしにタツミ選手は言葉を続ける。


『偶然にも今日は妻との結婚記念日ですし、いつも合宿や海外遠征で一緒に居られない分、この喜びを分かち合いたいです』

『そ、そうですか・・・・・素敵な結婚記念日になりましたね』

『ええ。妻にいいプレゼントを持って帰ることができてホッとしています』


これで明日の見出しはサッカーの結果にしろ、衝撃発言にしろ、一面はタツミ選手で決まりだろう。


「いやぁぁっ!!タツミが結婚してたなんて~~~っ!!」

「驚いたな」

「ホントに。今までそんな噂なかったですよね?」

「きっとデタラメですよ!でっち上げですよっ!!」


次々に声が上がる中、終業を告げるサイレンが響き渡った。

と同時に帰り支度を済ませたフミが席を立つ。


「お先に失礼します」


テレビの前に集まる同僚達に挨拶をするなり、足早に研究所を去ろうとした。


「あれ?春元さん今日はもうアガリ?」


同僚の一声は単なる興味本位だった。

仕事一筋のフミが定時に帰るなど滅多に無いので好奇心が働いたのだ。


「はい。今日はご馳走を作らないといけないので」

「ご馳走?」

「ええ、だって・・・・・・」


言葉少なめに彼女はテレビを指差した。画面ではちょうどレポーターがインタビューの終わりを告げている最中だった。


「春元タツミ選手、今日はお疲れ様でした。次に・・・・・・・」


インタビューが終わると画面では先程の試合のリプレイが流れ始めたが、さっきまでテレビに釘付けだった一同はその視線を同僚へと向けていた。


「結婚記念日と同時に試合の勝利祝もしないといけないので」


「では」と研究所を出て行ったフミに残された研究者一同はまるで狐に化かされたかのように呆然と彼女を見送った後、揃って驚きの声を上げるのだった。




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