泣くのは子供のお仕事です
相変わらずへっぽこまっしぐら。
「ソウビ」
ふと、かけられた声に随分な時間ぼうっとしていた事に気がつく。
「ふぇっ?あ、くーちゃん・・・。ごめんなさい」
傍で心配そうに眉を寄せていた人物に謝ると「どこか痛いのかな?」と私の額にきれいな指を伸ばしてきた。
「な、なんでもないの!くーちゃんはリルの蕾もう集まったの?」
くーちゃんは過保護だなぁもうと思いつつ、そのふれあいをうれしく思ってしまう。
「ええ、ですがソウビがさっきからずっと悲しそうな顔をしているからね」
何かを思い出したのかな?
うぅ、くーちゃん鋭すぎるよ
くーちゃんと出会って3年。何でもお見通しなくーちゃんに個々でなんでもないって言って信用されるわけがなく、
私はため息をつきつつ本当の事を言った。
「なんでもないの・・・ただ、ここに来てもう3年になるんだなぁ・・・って」
くーちゃんはその言葉に痛ましそうに顔をしかめて私の頭に手のひらを乗っけてくれる。
その気遣いに私はもう、子供じゃないんだからと昔の口癖を繰り返した。
私の日常は本当に隣町に行くような気軽さで、二度と戻れない所まで彷徨うことになった。
「ここ・・・どこぉ」
ただ横断歩道を歩いていただけなのに、気がつけば知らない場所で知らない森の中。
空を覆うように木の葉が茂り、太陽の光なんてほとんど見えない。
あんなに暑かった周りは逆に寒いくらいだった。
こんなときは
私は必死に考えた。そして、お母さんが何かあったらこれを使いなさいと渡してくれた携帯電話を思い出す。
「お母さんきっと迎えに来てくれるもん・・・だから泣かないもん」
本当は泣きたかった。あんまり頭のよくない私でも、今がヘンなのはわかる。
私迷子になんてなってないんだから。
白いボタンを押すとおうちに帰れる、うん、大丈夫。
けど---
「なんでかからないの」
電話はなんどかけてもつながる音がしなくて、すごく困った。
10回、20回。
何度やってもやっても結果は変わらなくて。
変な声の鳥の鳴き声も聞こえるし、周囲はだんだん暗くなっちゃうし。
「う・・・ふぇ、」
我慢してたんだもん、でも駄目だった。
「ないちゃ、だめ、っだもんっ」
だめ、なんだもん。
「だめっ、う、ひ・・・っぐ、ぅぅ」
ふぇえええええん。
どうしたらいいか判らなかった。ただ怖くて寂しくて。
声をありったけ張り上げて泣いていた。
そんな私を拾ってくれたのが、おばーちゃんだった。
「さっきからぎゃーぎゃー変な声が聞こえると思えば・・・捨て子か」
「ふぇっ!?」
ドスの聞いたおばーちゃんの怖い声に私は泣くことをやめてびっくりしてみる事しかできなかった。
振り向けば魔法使いのおばーさんそのものの外見のひとが立っていた。
まがったかぎ鼻、ぎらりとした目。
ちがうのはしゃんと伸びた腰と抱えられた野菜カゴくらいだろう。
今にして思えばすごい幸運だったんだと思う、おばーちゃんに出会えて。
だって私はこの世界の事どころか生きる事すら難しいほどに無知で、おばーちゃんはこの国の誰よりもきっともの知りで。そして何よりおばーちゃんは厳しいけれど優しく、そしてお人よしだった。
「ついて来な嬢ちゃん。こんな餓鬼がアタシの庭で餓死でもしてくれたら片付けが大変だからね」
あれから3年。子供の私の要領を得ない話をきいてくれて、尚且つ明らかにお邪魔虫の私にいろいろな知識を授けてくれたおばーちゃんを私は一生忘れない。