もう顔を見ることもないと思うので、これだけは言わせてください
「フランナ!お前との婚約を破棄する!」
学園広間に響きわたるブライド王子の声。
興奮した彼の口から四方八方に唾が飛び散る。彼の周りにいた学園の生徒は、急いで彼の近くから離れていた。
「……それはまたずいぶんと急なお話ですわね。私、何か逆鱗に触れるようなことをしましたか?」
「お前の仕草が気に食わんのだ!――お前、暑くて汗をかくのか知らんが、よく顔をハンカチで押さえるだだろう?なんてみっともない!淑女たる者汗などかくな!」
ブライド王子の世界では、淑女であれば汗をかかないらしい。淑女は人間を卒業した者に与えられる称号のようだ。ブライド王子自身は少し歩くだけでダラダラ汗まみれになるのに。紳士は汗をかいてもよいのでしょうか。
――というか、汗まみれになるのは良いですけれど、その体であらゆる物をベトベト触っていく癖、止めた方が良いですよ?
「ハンカチで顔を押さえるのが無理だとおっしゃるのであれば、婚約破棄を受け入れます」
「ふん!お前のせいだからな!存分に反省しろ!」
「ところでブライド様、私からも一言よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「ブライド様――しゃべるときに唾が飛び散りすぎですよ?」
「なっ!何を言う!?」
私は懐からハンカチを取り出し、顔にあてる。顔には先ほどから会話している時に飛び散って来た、唾がどこかしこに付着していたのだ。
周りの生徒が、私の発言と仕草でクスクスと笑い始める。
「よく私の顔にも散ってくるので、このように定期的にハンカチで拭き取らせていただいているのです――残っていて心地よい物ではございませんので、このように念入りに」
「お、お前!俺を愚弄するつもりか!そんな事はない!」
ブライド王子がそう叫んだ瞬間、彼の口からひときわ大きな唾の塊が飛び出す。私も、ブライド王子も、会場にいる全ての生徒も、その唾に釘付けになる。泡を含んだその唾は、綺麗な放物線を描いて、私たちを遠巻きに見ていた女子生徒の髪に到着した。
「キャァ!」
女子生徒の叫び声。彼女は急いで髪の毛をハンカチで何度も拭き取る。
ブライド王子は顔を真っ赤に腫れ上がらせて、下を向いていた。そんな彼に、私は一言声をかける。
「では失礼いたします。ブライド様に良縁がある事をお祈りしておりますわ――私も顔をハンカチで拭く事がないよう、次の相手は唾を飛ばさない方にいたしますわ。」
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