舞踏会、始まりました。
朝の食堂はいつも通りだった。
エレナがトレイを持って隣に座り、いつものように宣言する。
「影の眷属・みお。今日も我が監視の下で過ごすがいい。貴様の光の残滓が、わずかでも残っている限り、我は決して目を離さぬ」
「はいはい。おはよう、椎名」
「……っ! またその名を……」
彼女は顔を赤らめて睨むけど、目が少し笑っている気がする。
少なくとも初めて名前を呼んだ時よりはだが、、
最近、この表情が増えた気がする。
俺は味噌汁を啜りながら、ふと気づいた。
エレナの視線が、いつもより長い。
俺の顔を、じっと見つめている。
「……どうした? 何か顔についてる?」
「な、何でもない!貴様の光がうっとうしいだけだ!」
慌てて視線を逸らすエレナ。
頰が赤い。
(やっぱり、喋んなければ可愛いな)
俺は改めて感じた。
午前の授業が終わった頃、エレナが俺の袖をそっと引いた。
「……影の眷属・みお。放課後、少し時間を作れ」
「ん? 何か用?」
「……生徒会の……用だ。詳しくは、生徒会室で」
彼女の声が、少し震えていた。いつもより声が低い。
俺は頷いたけど、なんとなく胸騒ぎがした。
放課後、エレナに連れられて生徒会室へ。
重厚な扉を開けると、いつもの円卓にリリス会長が座っていた。
深紅のマントを翻し、紫の瞳が俺を射抜く。
「ようこそ、影の眷属・みお。今宵、我々は『永遠の夜の舞踏会』を執り行う。各クラス代表と生徒会による闇の舞を競う儀式だ」
……舞踏会?
俺は完全に固まった。
「え、舞踏会?そんなの、聞いてないんだけど……」
リリスがにやりと笑う。
「当然だ。貴様は新入りゆえ、詳細は伏せられていた。だが、今宵、貴様も参加する。ペアは……エレナだ」
エレナが隣で、顔を真っ赤にして俯いた。
「……我が、担当する。監視役として……貴様の動きを、逐一見張る必要があるからな」
声が上ずってる。
いつも自信満々のエレナが、こんなに恥ずかしそうにしているのはトイレの時以来だ。
俺は思わず聞き返した。
「ペアって……俺とエレナで、踊るってこと?」
「そうだ。血の誓いのワルツを披露する。貴様は影の眷属として、エレナと共に踊れ」
リリスが満足げに頷く。
横で聞いていたセレスティアが鎖を鳴らしながら、にやりと笑う。
「楽しみだわ。光の残滓が闇の舞に染まる瞬間を、見届けましょう」
そのとき、奥の棚から書類を抱えたアリス・シャドウが現れた。
黒髪ポニーテール、眼鏡の奥の瞳は冷たく光る。
いつもの無口でクールなアリスだ。
「……準備は、整っている。ドレスとタキシードは、すでにこちらへ」
淡々と報告しながら、俺の方をちらりと見た。
大丈夫……気づいてない。
あの女子トイレのことは、完全に気づいてない様子だった。
俺は思わず胸がざわついた。
あのときの甘い声が、頭に蘇る。
「……モカちゃん……ふわふわ……アリスを守ってくれるよね……」
あの、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて頰をすり寄せるアリス。
「……みんなには絶対内緒だよ……モカちゃんがいないと……怖いんだもん……」
俺は慌てて視線を逸らした。
アリスは相変わらずクールに書類を整理している。
「……影の眷属・みお。貴様の衣装は、こちらだ」
彼女が黒いタキシードを差し出してくる。
俺は受け取りながら、小声で言った。
「ありがとう、アリス」
アリスは一瞬、俺をじっと見た。
俺は何も言わず首を横に振った。
アリスは怪訝そうに眉を寄せたが、それ以上は何も言わなかった。
エレナが俺の袖を引っ張る。
「……行くぞ。準備の時間だ」
俺はアリスに軽く会釈して、生徒会室を出た。
廊下を歩きながら、エレナが小声で言った。
「……貴様、さっきから様子がおかしいな。アリスに、何かされたのか?」
「いや、本当に何でもないって」
エレナは疑わしげに俺を見たが、追及はしなかった。
その後は各々部屋に戻り、時間になるまで課題を進めた
夜七時。
大講堂に着くと、すでに生徒たちが集まっていた。
全員が黒や深紅のドレスやタキシードを着て、厨二病全開。
マント、ローブ、仮面、鎖……。
まるで中世の仮面舞踏会を厨二病で再現したみたいだ。
エレナが俺を待っていた。
彼女は黒いレースのドレスを着て、長い髪をアップにしている。
首元に黒いチョーカー、指に銀のリング。肩が少し露わで、白い肌が月光のように光る。
「……遅いぞ、影の眷属・みお」
「ごめん。着替えに時間かかった」
俺は渡された黒いタキシードを着ていた。
アリスが用意してくれたものだ。
サイズはちょうどよく、襟元に小さな闇の紋章がついている。
エレナが俺の前に立ち、目を逸らしながら手を差し出した。
「……手を、貸せ。ペアとして……入場する」
俺は彼女の手を取った。
細くて、やわらかくて温かい。
でも、少し震えている。
「エレナ……もしかして緊張してる?」
「……黙れ。これは……儀式だ。緊張など……せぬ」
でも、頰が赤い。耳まで赤くなってる。
俺は小さく笑った。
「可愛いな」
「……っ! 何を言う!からかうな!」
彼女は顔を背けたけど手は離さない。
俺たちは手を繋いだまま大講堂の中央へ。
しばらくすると音楽が流れ始めた。
重厚なワルツ。
リリス会長の声が響く。
「永遠の夜の舞踏会、開幕!闇の血を引く者たちよ、影の舞を始めよ!」
生徒たちが一斉に動き出す。
俺とエレナは、ゆっくりとステップを踏んだ。
俺はダンスなんてほとんどやったことない。
最初の一歩で、案の定足を踏んでしまった。
「……っ! ごめん!」
エレナが小さく息を吐いた。
「……いい。私が、リードする」
彼女は俺の腰に手を回し、優しく体を寄せた。
俺は自然とリードされる側になった。
エレナの指が俺の背中に回り、軽く押す。
俺はそれに従って体を動かす。
「……こうだ。足を、こう……」
エレナの声が、耳元で囁く。
息がかかる。甘い香りがする。
俺は素直に彼女のリードに従った。
いつもは俺がエレナを引っ張ってる気がしてたけど、今は完全に逆。
彼女が優しく導いてくれる。
俺はただ、彼女の手に身を任せる。
「……エレナ、めっちゃうまいな」
「……当然だ。闇の姫たる私が……下手なわけが……ない」
でも、声が震えている。彼女の頰が熱い。
俺も胸が熱くなってきた。
曲が進むにつれ、俺たちの距離が少しずつ近づく。
エレナの瞳が俺を見上げる。
いつもは威圧的な漆黒の瞳が、今は少し潤んでいる。
「……貴様が……こんなに近くにいて……光が、とても眩しい……」
「俺は、椎名の闇が、心地いいよ」
エレナの頰が、さらに赤くなった。
彼女は目を逸らしながら、でも俺の手を強く握り返した。
「……馬鹿……そんなこと、言うな……」
ワルツのメロディーがクライマックスへ。
俺たちはゆっくり回る。
周りの生徒たちが厨二病全開で踊っている中、俺とエレナだけが、静かな世界にいるみたいだった。
曲が終わると、エレナが俺の胸に額を寄せた。
一瞬だけ。
「……ありがとう……影の眷属・みお」
小さな声。
でも、はっきり聞こえた。
俺は彼女の背中をそっと撫でた。
「俺の方こそ。楽しかったよ、椎名」
エレナは顔を上げず、ただ頷いた。
その後も、舞踏会は続いた。
他のクラスが次々と踊りを披露する。
リリス会長とセレスティアのペアは、完全にプロ級の闇の舞。
ルナは一人で「月下の狂狼の舞」を披露して、会場を沸かせた。
俺とエレナは隅で休憩。
エレナが俺の隣に座り、ドレスの裾を直す。
「……貴様……、うまく踊れて、よかったな」
「うん。椎名がリードしてくれたおかげだよ」
エレナは俯いて、指をもじもじさせた。
「わ……私は……貴様と踊れて……嬉しかった……」
声が小さくて、ほとんど聞こえなかった。
でも、確かに聞こえた。
俺は彼女の横顔を見た。
赤い頰。
少し潤んだ瞳。
いつも強気な闇の姫が、今はただの……恥ずかしがり屋の女の子だ。
「……俺もだよ」
俺が呟くと、エレナがびくりと肩を震わせた。
そして、彼女は俺の袖を、そっと握った。
なかなか離さない。
これはまだ、好きとは言えない。
でも、俺は、何か……違う感情が胸の奥で芽生えていた。
この学園で、正気を保つのは本当に大変だ。まだ一か月も経ってないが生徒全員を普通にするのはもう半分諦めかけてる。
でも、エレナのこんな顔を見られるなら……少しだけ、あきらめずに頑張ってもいいかもしれない。
いつか、黒崎椎名としてのこんな顔を見るために、、
あ、もちろん最優先は限定フィギュア獲得のためだが。
夜は深まっていく。
闇の舞踏会の中で、俺とエレナの距離は、確実に近づいていた。
第八話です!読んでいただきありがとうございました!
舞踏会によりエレナといい感じになってきたみお!一体これから2人はどうなるのでしょうか!
第九話では、体育祭で生徒会会計アリスとの関係が深まるのでお楽しみに!
そして、こんな拙い未熟な文章をここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!
期待に応えれるような作品を作れるよう頑張りますので応援よろしくお願いします!
では九話で会いましょう!!




