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8/11

秘密、始まりました。

学園に来てから初めての体育の日がやってきた。

今週は「闇の祭典」と呼ばれる体育祭の練習で、全学年が合同で授業を受ける。

つまり、三年生のリリス会長、二年生のセレスティア副会長、アリス会計、一年生の別のクラスのルナ書記も一緒にいるということ。

先週まで運動場と体育館は「点検中」で使えなかったが、今週からようやく開放されたらしい。

学園長の生徒を納得させる説明では「闇の結界が完全に安定したため」だったが、実際は老朽化したトラックと体育館の床の修繕工事らしい。

生徒たちは「結界の再構築完了!」とか大げさに騒いでいたけど、俺はただ「やっと使えるようになった」とだけ思った。

実際、この学園で運動するところはあまりないから最近運動不足に陥っていた。

朝のHRで担任が黒板に「闇の祭典練習」と大きく書いて言った。

「今日は全学年合同で体育祭の予行演習を行う。着替えて運動場に集合。遅刻した者は……魂を抜かれると思え」

またリリス口調。

(先生、やっぱりさすがです)

クラス中が「おお……」「魂抜きはマジか……」とざわついたが、俺はただため息をついた。

エレナが即座に立ち上がり、俺の腕を掴んだ。

「影の眷属・みお。更衣室へ行くぞ。女子更衣室はあっちだ」

「……え?」

「当然だ。貴様は女の子だろう?早く、一緒に着替えるぞ。監視役として、貴様の行動を逐一見張る義務があるからな!」

エレナの目は本気だった。

この学園の全員が、俺を女だと思っている。

転校初日から「可愛い転校生ちゃん」扱いだし、名前が本城みおだから当然か。

でも、俺は男だ。

小さいけど、ちゃんとついてる。

まだ誰にも言えてない。

言ったら……想像しただけで背筋が凍る。

「いや、ちょっと待って! 俺は……」

「何を言っている?早く来い!」

エレナが俺の腕を強く引っ張る。

周りの女子たちが「エレナ様、転校生ちゃん連れてくの?」「闇の姫の監視役、羨ましい~」「一緒に着替えるなんてロマンチック……」と囃し立てる。

クラス中の視線が一気に集中した。

「待って、エレナ! 俺は……用事が!」

「用事など後でいい!今は着替えだ!」

エレナの力が強すぎる。

俺は必死で足を踏ん張ったが、彼女は容赦なく引っ張る。

廊下に出て、女子更衣室の方向へ。

プレートが見えた瞬間、心臓が止まりそうになった。

「待って! 本当に待って!……俺、トイレ! トイレ行かなきゃ!」

「トイレなら更衣室の近くにある!一緒に……」

「いや、急いでる! 超急いでる!」

なんとか必死に言い訳を並べた。

そして、俺は全力でエレナの腕を振りほどいた。

エレナの指が一瞬緩んだ隙に、反対方向へダッシュ。

「待て、みお!」という声が背中に響く。

廊下を全力疾走。

心臓が喉まで上がってくる。

後ろからエレナの足音が追いかけてくる。

「影の眷属・みお! 逃げるなど許さん!」

「ごめん! 本当にごめん!」

角を曲がり、階段を駆け下りる。

息が切れる。

視界の端にトイレのマークが見えた。

個室で着替えればいい、そう思い、慌てて飛び込み、個室に入り、鍵をかけた。

「……はあ……はあ……危なく捕まるとこだった……」

制服を脱ぎ、体操服に袖を通そうとした瞬間、隣の個室からがさがさ、という音が聞こえた。

誰かいるのか?

俺は思わず息を潜めた。

布ずれの音。

小さな呟き。

「……ふふ……モカちゃん、今日も一緒にいてくれるよね……」

女の子の声。

甘い、子供っぽい声。

聞き覚えがあるような……。

好奇心が勝って、俺は恐る恐る仕切りを見上げた。

便器に上って上から覗ける高さだ。

ゆっくり体を伸ばし、覗き込む。

そこにいたのは――アリス・シャドウだった。

生徒会会計。

黒髪ポニーテール、眼鏡の冷たい少女。

今、彼女は上半身裸で、ブラジャーを外したところだった。

白い肌。

控えめだが形のいい胸。

思わずみいってしまった。

じゃなくてここは女子トイレだった。慌てすぎて全く気付かなかった。

俺はとんでもないことをしてしまった。

バレたら本当にやばい。

だけど、彼女から目を離すことができなかった。

よくみると、彼女の手には、小さなピンクのクマのぬいぐるみ。

首に赤いリボン、目がボタンで、手足がふわふわ。

アリスはそれをぎゅっと抱きしめ、頰をすり寄せていた。

「……モカちゃん……ふわふわ……今日もアリスを守ってくれるよね……モカちゃんがいないと……怖いんだもん……」

声が甘ったるい。

前みたいな冷たい口調じゃない。

完全に幼児退行したような、甘え声。

彼女はぬいぐるみの頭を撫でながら、個室にある鏡に向かって微笑む。

頰を赤らめて、ぬいぐるみにキスをする。

そして、体をくねらせながら、ぬいぐるみを胸に押しつける。

「……みんなには絶対内緒だよ……アリスが……こんなの持ってるなんて……バレたら、闇の帳簿を司る資格がないって……笑われちゃう……でも、モカちゃんがいないと……夜、寝れないんだもん……怖い夢見ちゃうんだもん……」

アリスはぬいぐるみを優しく揺らしながら、小さく歌うような声で呟いた。

「……モカちゃん、モカちゃん、ふわふわモカちゃん……アリスをぎゅーってして……今日も明日も一緒にいてね……」

彼女はぬいぐるみを胸に抱いたまま、ゆっくり体を揺らす。

まるで赤ちゃんをあやす母親のように。

眼鏡の奥の瞳が、優しく潤んでいる。

「……モカちゃん…大好き…アリス、モカちゃんがいれば……何でもがんばれるよ……」

俺は息を飲んだ。

覗き見てる自分が最低だと思ったけど、動けなかった。

アリスはぬいぐるみを体操着のズボンのポケットの内側にそっとしまい、隠すようにした。

「……今日も、ちゃんと隠さなきゃ……誰も知らない……アリスの秘密……モカちゃん、約束だよ……」

彼女は小さく息を吐き着替えを再開した。

体操服を着ながら、時々ぬいぐるみを取り出し頭を撫でる仕草をする。

俺は慌てて視線を逸らした。

心臓の鼓動がうるさい。

彼女の秘密を、勝手に見てしまった。

しかも、こんな……可愛くて、愛らしい部分を。

(……アリスも、ただの女の子なんだ)

厨二病の仮面の下に、ぬいぐるみを抱きしめて甘える一面を抱えている。

この学園の誰もが、そうなのかもしれない。

俺は静かに体操服を着替え終え、個室から出ようとした。

でも、足がうまく動かない。

「……誰か、いるの?」

アリスの声がした。

少し緊張した声。

俺は息を止めた。

「……誰も、いないはずだけど……モカちゃん、怖かったよね……ごめんね……」

ぬいぐるみを撫でる音。

俺はようやく息をついた。

心臓の鼓動ががまだうるさい。

(アリスの秘密……誰にも言えない。絶対に、守らないと)

俺は静かに個室を出た。

廊下は誰もいない。

急いで隣の男子トイレに入って顔を洗い、運動場に向かった。

エレナがすでに待っていた。

顔が少し赤い。

「……どこに行ってたんだ、影の眷属・みお!更衣室で待ってたのに!貴様、なぜ逃げた!?」

「ごめん。本当に……用事」

エレナは疑わしげに私を見たが、それ以上追及しなかった。

運動場では全学年が集まっていた。

リリス会長が中央の台に立ち、深紅のマントを翻す。

「闇の祭典、開幕の儀!我々は光の残滓を打ち砕き、永遠の影をこの大地に刻む!今日の練習は『闇の疾走』から始める!――リレー形式で、光の残党を追い詰めるぞ!」

生徒たちが一斉に「闇万歳!」と叫ぶ。

俺はただ、呆然と見つめていた。

チーム分けで、俺はエレナと同じチーム。

アリスは別のチームだったが、時々こちらを見てくる。

まさか……気づかれた?

バトンを渡す練習中、エレナが私の耳元で囁いた。

「……貴様、さっきから様子がおかしいぞ。何かあったのか?」

「いや……何でもない」

俺は曖昧に笑って答えた。

練習は本格的に始まった。

まずはウォーミングアップのランニング。

全学年が一周するトラックを走る。

リリス会長が先頭を切って走り、深紅のマントが風に翻る。

セレスティアは鎖を鳴らしながら優雅に走り、ルナは「わーい! 闇の疾走だー!」と叫びながら飛び跳ねるように走る。

アリスは静かに、でも確実にペースを保って走っていた。

私はエレナと並んで走る。

彼女が時々、私の腕を軽く叩いてくる。

「貴様、もっと速く走れ!闇の疾走に遅れるなど、許さん!」

「わかったよ……」

二周目は、リレーのバトン練習。

俺はエレナからバトンを受け取り、次の人に渡す。

アリスが隣のレーンを走っている。

彼女の視線が、ちらりとこちらに向いた気がした。

(……やっぱり、気づかれた?)

練習の合間に、水飲み場で休憩。

エレナが私の隣に座り、ペットボトルを差し出す。

「……飲め。貴様の光が弱まっているようだ」

「ありがとう……」

私は水を飲みながら、アリスの姿を探した。

彼女は少し離れたところで、静かに座っていた。

手が腰あたりにあり、ぬいぐるみを隠すように押さえている。……あれは、モカちゃんか。

私は目を逸らした。

練習は午後まで続いた。

「闇の疾走」(リレー)、「闇の障壁突破」(障害物競走)、「影の力比べ」(綱引き)。

全員が本気で厨二病を全開にしながら、意外と真剣に競技をこなす。

俺は練習しながら、思う。

(この学園の生徒たちは、みんな仮面をかぶってる。アリスも、エレナも。俺が普通でいることで……少しずつ、仮面を外せるきっかけになるかもしれない)

ただの願望だが、いまは信じるしかなかった。

夕方近くに練習が終わった。

エレナが私の肩を叩く。

「……今日はよくやったな、影の眷属・みお。だが、気を抜くな。我は明日も引き続き監視を続けるぞ」

「うん。よろしく」

私はアリスの方を見た。

彼女は静かに校舎に戻っていく。

腰を押さえた手が、少し震えていた。

私は心の中で呟いた。

(アリスの秘密……モカちゃん、か。可愛いな……)

アリスの秘密がわかってなんとも言えない気持ちになった一日だった。

第七話です!ありがとうございました!

生徒会会計アリスに焦点を当てました!

第八話では、第六話で書いた舞踏会が行われるのでお楽しみに!

体育祭本番はもう少々お待ちください!

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