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闇の儀式、始まりました。

夜の鐘がもう一度鳴り響いた瞬間、部屋の空気が変わった。

まるで温度が三度くらい下がったみたいに肌がざわつく。

もちろん、ただの気のせいだ。

窓は閉まってるしエアコンなんて寮の部屋には存在しない。

エアコンなしで夏の暑さと冬の寒さを耐えることができるのかが一番の心配だ。

それでも、リリス・ヴェルディクトが部屋の中央に進み出ただけで空間が重くなった。

彼女は深紅のマントを大きく広げ、持っていた燭台を円卓の上に置いた。

火はついていないのに燭台の銀色が月光を反射して不気味に光る。

リリスはゆっくりと両手を広げ、低く響く声で宣言した。

「今宵、満月の下にて、血盟の儀式を執り行う。執行者、リリス・ヴェルディクト、ここに立つ。新しき影よーー本城みお。前に進め」

俺はエレナに手を引かれ、円卓の前に立たされた。

羊皮紙が広げられ中央に描かれた魔法陣が月光に照らされて薄く輝いている。

まあ……ただの黒インクで描かれた模様なんだけどな。

エレナが俺の隣に立ち、そっと袖を握り直した。

さっき練習したときよりも、指先が少し冷たい気がする。

「……大丈夫だ。ただ、言葉を述べるだけだ」

小声で囁いてくれる。

俺は頷いて深呼吸した。

リリスが羊皮紙を指でなぞりながら、儀式の言葉を始めた。

「我、永遠の闇の女王リリス・ヴェルディクトは、ここに証人となる。十三の血盟の名において、新しき眷属を迎え入れる。転校生よ。貴様の口から、誓いの言葉を述べよ」

俺は羊皮紙に目を落とした。

練習した通りの文が、そこに並んでいる。

「……我は……」

声が少し震えた。

バカみたいに緊張してる自分が情けない。

エレナがそっと俺の背中に手を置いた。

温かさが伝わってくる。

「……本気で、言え」

その一言で、俺は腹をくくった。

「我は闇に身を委ね、永遠の血盟に加わることをここに誓う。光の残滓を捨て、影の眷属として生きることを約束する。我が魂は、闇に捧げられる」

言葉を言い終えた瞬間、部屋が静まり返った。

リリスがゆっくりと頷いた。

「……良し。誓いは受け取った。今宵より、貴様は『影の眷属・みお』として血盟に名を連ねる」

……影の眷属・みお。

俺は思わず顔をしかめた。

「ちょっと待って。それ、正式名称なの?」

「当然だ。血盟の者は、皆、闇の名を持つ。エレナも、我も、この学園の生徒みなそうだ」

エレナが小さく頷いた。

「……そうだ。私の闇の名は、エレナ・クロウリー。だが、貴様は……私を椎名と呼ぶと言ったな」

リリスが鋭くエレナを見た。

「椎名……?エレナよ。貴様の本名を、こやつに明かしたのか?」

エレナは少し俯いて、でもはっきり答えた。

「はい……一回だけ、許しました、、。儀式の前に……少しだけ」

リリスは一瞬、目を細めた。

でも、すぐに低く笑った。

「ふふふ……面白い。光の残滓が、闇の姫の本名を知るなど。これは、血盟の掟に反する行為だが、今宵は特別だ。儀式は無事終わった。許すとしよう」

俺は内心でホッとした。

エレナの本名を呼ぶのを永遠に止めろと言われたら、どうしようかと思ったからだ。

リリスはマントを翻して、円卓の向こう側に立った。

「儀式はこれにて終了。転校生――いや、影の眷属・みお。これより、貴様は我々の仲間だ。だが、忘れるな。光が完全に消えぬ限り、貴様は監視の対象である」

「……監視ってまだ続くのか、、」

「当然だ。引き続きエレナが、貴様の監視役だ。闇の眷属・みおが闇に染まるまで、見届ける」

エレナが俺の方をちらりと見た。

その目はさっきまでより少し柔らかかった。

「任せろ。我が、貴様を闇に導く」

まるで頼りにしてくれたまえ。みたいな表情で言われてしまった。

「……頑張ってくれよ」

俺は苦笑しながら言った。

振り返ってみれば儀式は意外とあっさり終わった。

血を抜くとか、呪文を唱えて倒れるとか、そんな派手なことは一切なし。

ただ言葉を述べただけ。

でも、この学園ではこれが「本気」の儀式なんだろう。

リリスが燭台を手に取り部屋の扉に向かった。

「我はこれにて退室する。エレナ、後は任せた」

扉が閉まる音が響いて、部屋に静けさが戻った。

エレナが俺の袖を離した。

「……終わったな」

「うん。なんか……肩の荷が下りた気がする」

俺は羊皮紙を折り畳んで、エレナに返した。

「これ、返しとく」

エレナは受け取って、机の引き出しにしまった。

「……貴様、意外と堂々と誓ったな。本気で言ってるように聞こえた」

「練習したからな。それに……本気で言わなきゃ、会長に魂抜かれるって脅されたし」

エレナは小さく笑った。

「……会長は、そういう人だ。でも、悪い人じゃない」

「うん、分かってる」

俺は少し伸びをして、体を休ませた。

「……じゃあ、俺も寮に戻るよ。今日はもう、充分闇に染まった気分だ」

エレナが一瞬、嬉しそうな顔をした。

「……そうか。なら、気をつけて帰れ」

「うん。おやすみ、椎名」

試しに本名で言ってみた。

「……また、その名前を」

一瞬、刺されるかと思った。が、怒ってはいなかった。

むしろ、口元が少し緩んでいる気がする。

エレナの表情を最後にもう一度見てから俺は部屋を出て、自分の寮に戻った。

部屋に入ってドアを閉めた瞬間、どっと力が抜けた。

ベッドに倒れ込んで、天井を見上げる。

「……影の眷属・みお、か」

バカみたいだ。

でも、今日の儀式で一つだけ再認識したことがある。

この学園の生徒たちは、本当に本気で「闇」を信じている。

遊びじゃない。

彼らにとって、これは現実なんだ。

俺が普通でいることが、どれだけあいつらからみたら異質に見えるのだろうか。

それでも、俺は諦めない。

絶対に限定フィギュアをゲットするために!!!

俺は固く決心した後、ふと思い出したことがあった。

そして、机の棚から図書館から特別に借りさせてもらった名簿を取り出した。

分厚いファイル。

中身は生徒全員の名前、顔写真、簡単なプロフィールが載っている。

俺はページをめくり、リリス・ヴェルディクトを探した。

……いた。

写真は制服姿の普通のもの。

でも、あの長い銀髪はウィッグじゃなく、本物らしい。

生まれつきの色素欠乏か何かか。

下に見ていくと、、あった、本名欄。

「吉田 凛」……吉田凛。

思ったより普通だった。

えーっと、住所は都内。成績は学年トップクラス。生徒会長就任二年目。特記事項:特になし。

特になし、か。

しかし、この学園で「特になし」って書かれてるのは彼女だけだ。

つまり、学園長ですら彼女の本質を掴みきれていないってことだ。

俺は名簿を閉じて、机に置いた。

吉田凛。

リリス・ヴェルディクト。

どっちが本当の彼女なんだろう。

いや、まあどっちも本当だけど。

エレナ――黒崎椎名も、最初はただの厨二病だと思ってた。

でも、一緒にいると少しずつ違う部分が見えてくる。

照れたり、心配したり、する普通の女の子らしいところ。

リリスも、もしかしたら……。

いや、まだ早い。

まずは、エレナを――椎名を、もっと普通に近づける。

それが今の俺の目標だ。

俺は考え直したあと風呂に入りさっぱりして眠りについた。

翌朝。

いつもの日課を済ませて食堂に向かうとエレナがすでに席を確保していた。

「……遅いぞ、転校生」

「影の眷属・みお、だろ?」

俺がからかうと、エレナは少し顔を赤くした。

「……ふん。まだ、正式に認めていない。貴様は、まだ光の残り香が強すぎる」

「じゃあ、もっと監視してくれよ」

「当然だ。これからも、側にいる」

俺はトレイを置いて、向かいに座った。

今日も、いつものように始まる。

厨二病全開の学園生活。

でも、なにかが少しずつ変わってるのかもしれない。

俺は心の中で呟いた。

(この学園で正気を保つのは大変だ。でも、絶対諦めない)

霧島凛の本名を知った今、次の標的は……いや、まだエレナに集中だ。

ゆっくり焦らずいこう。

まだ3年間のうち3日しかたっていない。

けれど、少し心配になる。

学園生活3日で誰も治療してないのに残りの生徒を全員治せるのかと、、。

俺は一回すべて忘れ目の前でぶつぶつ言いながら飯を食ってるエレナを見つめた。

早いとこ、こいつを普通に戻してやる。そう心に刻んだ。

第四話ありがとうございました!

5話からはついに生徒会メンバーが出る予定なのでどうぞお楽しみに。

もちろんエレナとの交流もあります!

第五話もよろしくお願いします。

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