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謁見、始まりました。

……ん?

柔らかい感触。

においを嗅ぐといつもより少し甘い感じがする。

抱き枕のなのはちゃんの匂いじゃない。

これは……花みたいな、シャンプーの香り?

俺は答えを知るためにゆっくり目を開けた。

天井が違う。

俺の寮室はもっと殺風景で白い壁に小さな窓だけ。

ここはカーテンが厚く閉められていて薄暗い。

壁には黒い布が垂れ下がり机の上に古い本と謎の燭台。

そして、ベッドのシーツは真っ黒。

……あれ?

俺は慌てて体を起こした。腕には枕を抱いていた。

やっぱり枕を抱くのが癖になってるな。と思いながら状況を整理する。

まずは体を見る。

制服は昨日のままだ。

変わったとこといえば、ちょっとネクタイが少し緩んでいるくらいだ。

まだ眠気が残っていてボーっとしてたら昨夜の記憶がぼんやりと蘇ってきた。

昨日の夜はエレナに部屋に来るように言われた。

そして、魔導書(ただのシェイクスピアの翻訳版)を一緒に読んだ。

確か、俺が「椎名」って呼んでそしたら彼女が少し照れながら「今夜だけは……」って言って。

その後、疲れて……そのまま寝落ちした?

「やば……」

ここ、エレナの部屋だ。

しかも、俺はエレナのベッドで寝てた。つまり、俺が抱いていた枕はエレナの、、、、。

俺はその事実に気づいた瞬間、眠気から完全に覚めてベッドから急いで飛び降りた。

そして枕をベッドに放り投げた。

俺はやってはいけないことをした気持ちになった。

すぐに周りを見回すとエレナの姿はない。ひとまず今刺される心配はなくなった。

代わりに机の上に黒い封筒が置いてあった。

封蝋までしてある。

置手紙まで厨二病全開だ。

俺はどんな内容が書いてあるか怖かったので目をつむって封を開けた。

覚悟を決めて目を開ける。

そこには、

――転校生よ

夜明けの光が訪れる前に我は、教室へと赴く。

貴様は我が聖域で深く眠りについていたゆえ、起こさぬよう静かに去った。

この部屋は我が血族の聖域。

他者に踏み入れることを許さぬ場所であるにもかかわらず貴様を招き入れたのは、闇の意志によるものだ。

今日の授業の後、我は生徒会の執務室に用がある。

貴様も来るがよい。

そこで、新たな儀式の準備を進める。

拒否は許さぬ。

――漆黒の瞳を持つ者、エレナ・クロウリー

わかってはいたが厨二病全開の文書だった。

俺はひとまず刺される心配はなくなった。

でも、どこか別の意味でホッとした。

怒っていたわけじゃない。

むしろ、起こさないように配慮してくれたんだ。

「……まあ、いいか」

とりあえず日課をやらなきゃ。

人の部屋でやるのはさすがに抵抗がある。しかも女子の部屋で、、。

でも、これを怠ると俺の正気が揺らぐ。

ここは厨二病の巣窟だ。

毎朝、自分に言い聞かせないと本当に染まる。

俺は深呼吸して部屋の隅に立った。さすがに洗面所に行くのはデリカシーがなさすぎると思ったので窓ガラスに向かってすることにした。

鏡ではないけど、きれいに手入れされた窓ガラスに映る自分の姿で十分だ。

一呼吸おいて口を開く。

「本城みおは、男だ。

名前は女の子っぽいけど俺は男だ。

ここは厨二病学園だけど、俺は普通だ。

今日も、正気を保つ」

声は小さくした。

万が一、誰かが廊下にいたらヤバい。

言い終えて、俺は少し肩の力を抜いた。

……よし。

今日もこれからも、俺は俺だ。

制服を整え、髪を直し、部屋を出る前に一瞬だけベッドを見た。

ベッドを一応きれいに戻したつもりだが少し乱れてる気がするし多分俺の匂いも少しは残ってるだろう。

エレナはこれをどう思うんだろう。

(……いや、考えない)

部屋から出て教室に向かう途中、廊下で何人かの知らない生徒とすれ違った。

みんな俺を見てひそひそ話す。

「あれが……新しき闇の使者か」

「エレナ様の部屋から出てきたぞ……」

「まさか、すでに血の契約を……?」

……勘弁してくれ。

俺は逃げるように教室に向かった。

教室を見るとすでに授業が始まっていた。

一時間目、国語。

先生が古文を解説している最中だ。

俺が教室の後ろの扉からこっそり席に滑り込むとエレナがちらりとこちらを見た。

目が合う。

彼女は一瞬だけ頰を赤らめてすぐにそっぽを向いた。

「……遅刻だぞ、転校生」

小声で言ってくる。

「ごめん。寝坊した」

「ふん……我が聖域で安らかに眠れたのは、光栄に思うがいい」

「……ありがとう、かな」

俺が苦笑すると、エレナはさらに顔を赤くして教科書に目を落とした。

授業中、エレナは時々俺の方をチラチラ見ている。

昨日までとは明らかに違う視線だ。

警戒じゃなくて……なんだろう。

興味?それとも、照れ?

そうしてエレナの視線を感じながら午前の授業が終わった。

昼休み。

いつものように食堂でエレナがトレイを持って近づいてきた。

「転校生。今日も我と共にするな」

「うん。……昨夜は、ありがとう」

俺が素直に言うと、エレナはトレイを置く手を止めた。

「……何を礼など。貴様が勝手に眠りについただけだ」

「でも、部屋に泊めてくれたじゃん。追い出さなかったし」

「……っ。黙れ。それは……我が血族の掟によるものだ。一度招き入れた闇の客は夜明けまで保護するという古の掟だ」

完全に言い訳だ。俺は小さく笑った。

「じゃあ、俺は今、闇の客なんだ」

「……そ、そういうことだ」

エレナはバレバレだが照れ隠しに味噌汁を勢いよく飲んだ。

少しむせていた。

昼休みが終わり午後の授業もなんの問題もなく終わる(いや、問題はいろいろあるが一回無視する)とエレナが勢いよく立ち上がった。

「転校生。生徒会の執務室に来い。約束だ」

手紙に書いてあったことか。

エレナはこれでも生徒会の書記だからな。どんな仕事をするのかも気になるし生徒会メンバーも気になってたからちょうどいい。

「わかった」と言うとエレナはついてくるように言った。

おとなしくついていく。

学園マップによると執務室は本館の三階らしい。

到着し、エレナが重厚な扉を開けると、中は思った通りだった。

壁に黒い布が貼られ、机の上に水晶玉みたいな置物。

棚には古びた革表紙の本が並び、部屋全体に薄いインセンスの香りが漂っていた。

そして、中央の大きな椅子に座っているのは――

長い銀髪をなびかせた、背の高い少女。

制服の上に深紅のマントを羽織り首元に黒いチョーカーが光っている。

瞳は紫色……いや、コンタクトだろうけど色がきれいすぎる。

顔立ちは抜群に整っていて長い睫毛と透き通るような白い肌。そして控えめな胸。

すべてが完璧と言えるだろ。

断言しよう。彼女は超絶美少女だ。

この16年間生きてきてここまでかわいい子はめったに見たことがない。

俺が、彼女に見惚れてると声が聞こえた。

「ほう……これが、エレナが言っていた光の残滓か」

彼女はゆっくり立ち上がり俺に近づいてくる。

歩き方が優雅すぎる。

まるで古い映画の貴族みたいだ。

俺の横でエレナが恭しく頭を下げた。

「会長。約束の者を連れて参りました」

会長と呼ばれた生徒はゆっくりと俺に近づいてきた。

「我が名はリリス・ヴェルディクト。この学園を統べる永遠の闇の女王にして、十三の血盟を束ねる絶対者。

貴様の本名は……本城みお、だったな」

「……はい。本城みおです。よろしく」

俺は謎のオーラに負けて素直に答えた。

リリスは俺の顔をじっと見つめた後、にやりと笑った。

その笑みはどこか狂気を孕んでいるように見えた。

「面白い。貴様の瞳にはまだ光が宿っている。だが、エレナが貴様を我が前に連れてきたということは……いずれ闇に堕ちる運命にあるということだな」

エレナが慌てて口を挟む。

「会長! この者は……まだ未熟ですが我が監視下に置くことで徐々に闇に染めていくつもりです!」

「ふふふ……監視下、か。ならば、ちょうどいい」

リリスは手を広げ、部屋の中央に置かれた大きな円卓を指差した。

そこには古い羊皮紙のような紙が広げられ謎の魔法陣が描かれている。

「今夜、我々は『血の盟約の儀式』を執り行う。この学園に新たなる影を加えるための、正式な加入儀式だ。転校生よ、お前も参加せよ」

「加入儀式って……俺、入る気ないんですけど」

「拒否は許されぬ。すでにエレナが貴様を『客』として招き入れた以上、血の掟は発動している。今夜、貴様は我が血盟の一員となるのだ」

エレナが俺の袖をそっと掴んだ。

「……転校生。これは……逃げられない儀式だ。でも、我が側にいる。怖がるな」

彼女の声は小さく震えていた。

本気で心配しているみたいだ。

俺は深いため息をついた。もうこれ以上拒否しても意味がないということに気づき諦めて答えた。

「……わかった。参加するよ。でも、何するんだ? 血を抜くとかはなしだよな?」

リリスが低く笑った。

「血は必要ない。我々が求めるのは、魂の共鳴だ。今夜、満月の下で、貴様は我々に『誓いの言葉』を述べる。それで、貴様は正式に闇の眷属となる」

……完全に本気だ。

この生徒会長、普通の部分が一切ない。

めちゃくちゃ可愛い顔して完全に厨二病の頂点に立ってる。

「じゃあ、今夜は……部屋で待機してればいいのか?」

エレナが頷いた。

「……ああ。儀式の準備は、我の部屋で行う。貴様は……今夜も、我の聖域に来るがいい」

リリスが満足げに頷いた。

「良かろう。では、夜の鐘が鳴る頃に集え。我が儀式の執行者を務める。この儀式が終われば、転校生……お前はもう、光の残党ではなくなる」

エレナはそれをみて目を輝かせていたが、俺は耐えられなくなり苦笑しながら部屋を出た。

エレナが後ろから慌ててついてくる。

「……転校生。会長は、本当に怖い人じゃない。ただ……誰よりも闇を愛しすぎてるだけだ」

「うん、分かった。でも、俺は俺のままでいるよ。」

エレナは言ってる意味が分からなそうだったが放っといた。


その夜、またエレナの部屋。

今度は儀式の準備だというのに机の上にはただの紅茶とクッキーが置いてある。

エレナ曰く「儀式前の浄化の供物」らしい。

俺たちは並んで座り、羊皮紙に書かれた「誓いの言葉」を眺めていた。

「……ここ、貴様が『我は闇に身を委ね、永遠の血盟に加わる』って言うところだ」

「ガチで言うの?」

「当然だ。本気で言わないと、会長に魂を抜かれるぞ」

「……怖いこと言うなよ」

エレナは少しだけ笑った。

「……冗談だ。だが……本気で言ってくれ。……もちろん私も、本気で聞く」

その言葉に、俺は少し胸が熱くなった。

「わかった。じゃあ、今夜は本気で言うよ」

エレナは目を伏せ静かにつぶやいた。

「貴様は必ず闇にしてやる。闇に堕ちるまで我が側で監視してやる」

月明かりがカーテンの隙間から差し込む。

闇の部屋で、俺たちは儀式の言葉を練習し続けた。

夜の鐘が鳴る頃、リリスが部屋の扉を開けて入ってきた。

深紅のマントを翻し手に古い燭台を持っている。

火はついていないが彼女の瞳が異様に輝いている。

「時は来た。執行者として、我がここに立つ。転校生よ。今宵、貴様の魂は闇に染まる」

エレナが俺の隣に立ち、そっと手を握ってきた。

「……大丈夫だ。我がいる」

俺は深呼吸して、羊皮紙に目を落とした。

なんか緊張してる自分がバカらしい。

でも、今だけはこいつらに付き合ってやるかと思いながら儀式が始まる。

第三話です!ありがとうございました!

他の生徒会メンバーや他の生徒たいとの交流はもう少し待ってください!

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