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3/12

生活、始まりました。

朝の六時。

山奥の寮室に差し込む薄い光で俺は目を覚ました。

窓の外はまだ霧がかかっていて、まるでファンタジー世界の朝みたいだ。

いや、この学園がファンタジー世界そのものなんだけど…。

ベッドから起き上がりまず最初にやるのは毎朝の日課。

昨日一緒に寝た抱き枕のなのはちゃんを丁寧に丸めて枕カバーごとクローゼットの奥にしまう。

次に、洗面所に行き鏡の前に立つ。

寝癖がついた髪を整え、制服に着替えネクタイをきっちり締める。

そして最後に、これが一番重要だ。

俺は深呼吸をして鏡の中の自分に向かってはっきりと言った。

「本城みおは、男だ。名前は女の子っぽいけど俺は男だ。ここは厨二病学園だけど、俺は普通だ。今日も、正気を保つ」

声に出すことで自分を再確認する日課。

中学の頃から続けている。

あの頃は「俺は魔王の転生者だ!」とか言ってた時期もあったけど今は完全に卒業した。

だからこそ、この学園ではこれを毎日欠かさない。

一度でも油断したら闇に飲まれる気がする。

日課を終えて制服のポケットに名簿を忍ばせ部屋を出た。

寮の廊下は静かだ。

まだ早朝だからか?それとも他の生徒たちは寝ているのか?

その答えはすぐに分かった。

近くの部屋から低い呟き声が聞こえてくる。

「……我が血は、夜明けの闇を呼び覚ます……」

誰かが部屋の中で儀式でもやってるんだろう。

廊下を進むたびその声が多くなってくる。

俺は頭が痛くなったがなんとか耐え、無事に階段にたどり着いた。

急いで階段を下り、食堂に向かった。

食堂はまだこの学園の中では一息つけるところだ。

息を整え終わったらおばあちゃんのとこに行く。

朝食は昨日と同じおばあちゃんが作ってくれる。

今日のメニューは白飯と目玉焼き、味噌汁のシンプルセット。

THE日本人って感じだな。と思いながらトレイを持って隅の席に座ると、すぐに視線を感じた。

「ふふふ……早朝から闇の気配を纏っているな、転校生」

エレナだった。

黒いマントを羽織ったまま、トレイを持って俺の向かいに座ってくる。

朝からこのテンションかよ。

「……おはよう、エレナさん」

「むっ。朝の挨拶に我が名を呼ぶとは、貴様もなかなか肝が据わっているな」

彼女は満足げに頷き、トーストにバターを塗りながら続ける。

「昨夜、我は新たな魔導書のページを解読した。そこには『光に染まりし者』を闇に引き込む儀式が記されていた。……貴様がちょうどいい実験台だ」

「実験台って……俺、拒否権ないの?」

「ない」

即答された。

俺はため息をつきながら目玉焼きを口に運んだ。

正直、エレナのこの残念具合は昨日より増している気がする。

でも、こうやって毎回絡んでくるのは……嫌いじゃない。

いや、嫌いじゃないって認めたくないけど。


(エレナを含め全生徒の本気の厨二病をどうやって直すか)

昨夜からずっと考えていた。考えるだけですぐ頭が痛くなったが。

ネットがない。参考書もない。

学園長の言葉を頼りにするしかないけど、「普通に戻せ」って言われてもどうやって?

心理学の本でも読めればいいけどこの学園の図書室にそんなものは置いてなかった。

あるのは古い文学書と、なぜかオカルト関連の本ばっかりだ。

なんでそんな本があるのか疑問だがきっと例の卒業生が持ち込んだものだろう。

多分、生徒たちが「魔導書」って呼んでるやつだろうな。


「はああ」

深いため息をついてしまった。

ふと、エレナを見ると彼女は目玉焼きを食べ終わっており今度は味噌汁に手をつけようとしてるが様子が変だ。彼女は睨むように味噌汁を見つめている。

なにしてんだこいつと思い声をかけようとしたら

「……この汁には、微かに古の龍の涙が混じっている気がする」と一言。

「ただの味噌汁だよ」俺はとっさに答えた。

「否! 貴様には見えぬだけだ!」

熱弁を始めるエレナ。

俺は聞いてるふりをしながらエレナについて考える。

食べ方は普通に綺麗だったし、箸の持ち方も上品で、髪を耳にかける仕草とか普通に可愛いかった。

しかし、なんでこんなに本気なんだろう。

いくら文化といっても限度ってものがるはずだろ。

確か、きっかけは三年前、って言ってたよな

中学二年生の頃か。

俺もその頃はちょっと黒歴史があったけど、友達に笑われて自然に抜けた。

でも、エレナの場合は……この学園の環境が悪いんだろう。

外部情報が一切入らない。学園は中高一貫。

周りが全員同じ症状だから誰も「それおかしいよ」って言ってくれない。むしろ褒められる。

つまり、治すには――{外からの視点}を与え続けるしかない。

俺が普通でいること自体が彼女たちにとっての「治療」になるのかもしれない。

俺は熱弁してるエレナを遮り尋ねた。

「……エレナさん」

「なんだ」

「今日の授業、何時からだっけ?」

「ふん……七時半に始まる。だが、我らは七時から『朝の闇の祈り』を――」

「じゃあ、一緒に教室行こうか。飯も食べ終わったし」

俺が立ち上がると、エレナは一瞬ぽかんとした顔をした。

「……貴様、我と行動を共にするのか?」

「別にいいだろ。同じクラスだし」

「……ふ、ふふふ。面白い。ならば、特別に許してやろう。貴様の光をじっくりと闇に染めてやる」

結局、俺の誘いに乗ってきた。

教室までの道中、エレナは延々と「闇の血族の歴史」を語り続けた。

俺は適当に相槌を打ちながら内心で分析していた。

(彼女、話すのが好きなんだな。しかも、俺がちゃんと聞いてるって分かるとちょっと嬉しそう)

これはいけるかも。

教室に着くと、すでに何人かが来ていた。

ヴォルフガング・ナハト(田中直哉)が窓際で「封印の鍵を召喚する儀式」というものをやっているらしい。

あれはなにをしてるのかとエレナに尋ねたらそう答えてくれた。

意外とクラスメイトのこと理解してるんだな。というのが俺の率直な感想だった。

他人に興味なしの一匹オオカミみたいな感じかと思っていたので本当に意外だった。

クラス全体を見渡すと他の生徒たちも、それぞれの「朝のルーティン」をこなしている。

俺はなるべく脳にその光景を刻まないように目を細めて席まで歩いた。

自分の席に座り、エレナも隣の席に座った。

ん……隣?

「え、席変わった?」

「ふふふ。昨夜、我が『闇の意志』に従い席を移動させたのだ。貴様の傍で監視するのが最も効率的だと判断した」

おそらく先生に言って変えてもらえたのだろう。俺の意志関係なく勝手に移動された。

あとで、先生にきつく言っておこう。

HRになってチャイムが鳴った。

先生が教室に来る前に、クラスメイト達は「朝のルーティン」をやめ、席について話を聞いている。

エレナもチャイムが鳴ると同時に静かに俺の隣に座った。

やっぱり根は真面目で素直だな。

HRはなにも問題なく終わり授業が始まった。

一時間目は数学。

先生が黒板に数式を書き始めた瞬間、エレナが小声で呟いた。

「……この数式、古代の禁呪の配列に酷似している」

「ただの二次方程式だよ」

「否! 貴様には見えぬだけ――」

「じゃあ、解いてみてよ」

俺が教科書を差し出すと、エレナは少し戸惑った顔をした。

「……む。我に解けというのか?」

「うん。エレナさん、頭いいんでしょ? それとも解けないの?」

その言葉に、エレナの目が一瞬揺れた。

「我を侮辱するか……ふん。ならば、見せてやろう。我が叡智を!」

彼女はペンを取り、めちゃくちゃ速く問題を解き始めた。

しかも、正解。

「……ほら、解けたぞ」

「すごいじゃん。普通に頭いいんだな」

俺が素直に褒めると、エレナは顔を赤くしてそっぽを向いた。

「ば、馬鹿にするな! これは……闇の叡智だ!」

でも、口元が少し緩んでいる。

(少しずつ、普通の会話に引き戻せばいいのかも)

昼休み。

またエレナが俺の席に顔を向けてきた。

「転校生。今日の昼餉も、我と共にするのが良かろう」

「いいけど……エレナさん、俺がいなかったときは、いつも一人で食べてたの?」

「我は、孤独を友とする者だからな」

「でも、昨日は俺のところに来たじゃん」

「……っ! それは、貴様を監視するためだ!」

慌てて言い訳するエレナが、なんだか可愛い。

俺は内心で決めた。

(まずは、友達になる。普通の友達として側にいる。それで、少しずつ「闇の血族」以外の自分を見せていく)

そして、放課後。

エレナが突然言った。

「転校生。今夜、我の部屋に来い」

「は?」

「新たな魔導書の解読を手伝え。……貴様の視点が意外と役に立つかもしれない」

断る理由もない。

というか、断ったらもっと面倒なことになりそう。

「わかった。行くよ」

エレナは少し喜んで照れ隠しのように目を逸らした。

「……ふん。ならば、八時に来い。遅れるなよ」

その夜、約束の時間に俺はエレナの部屋のドアをノックした。

中から「入れ」と低い声。

部屋に入ると予想通り暗い。

カーテンを閉め切って卓上ランプだけ。

机の上には分厚い本が置いてある。

……ただの古い文学全集だけど。

エレナは真剣な顔でページをめくっていた。

「ここだ。この一節に、隠された呪文があるはず……」

俺は隣に座って、一緒に本を見た。

「……これ、ただの詩だよね。シェイクスピアの翻訳版じゃん」

「黙れ! 貴様の俗眼では分からぬだけだ!」

彼女の声は真剣そのものだった。

俺はその声を聞いて、刺される覚悟を持って言った。

「エレナさん……じゃなくて、椎名さん」

その瞬間、エレナの体が硬直した。

「……な、何だと?」

「本名で呼ぶと怒るって知ってる。でも、俺は本当の名前で呼びたい。

だって、エレナ・クロウリーって名前、かっこいいけど……黒崎椎名の方がもっと似合ってると思う」

静寂が落ちた。

エレナは、震える声で言った。

「き……貴様……我の本名を……」

「怒るなら怒っていいよ。でも、俺はこれからも椎名って呼びたいつもり」

彼女は俯いて長い沈黙の後、ぽつりと呟いた。

「我の本名……許可なく…勝手に呼ぶな。……だが、今夜だけは……許してやる」

「明日もその名を口にしたら、容赦なく貴様を殺す」

その言葉が、俺にとっての小さな勝利だった。

やっと初めの一歩を踏み始めた気がする

エレナを――いや、椎名を普通の世界に戻すのは簡単じゃない。もちろんこの学園の他の生徒もだが、、。

だけど、今日、少しだけ近づけた気がする。

俺は心の中でつぶやいた。

夜は更けていく。

闇の血族の部屋で、俺はエレナの熱弁を聞きながらただの古い本を一緒に読んでいた。

第二話読んでいただきありがとうございました!

第三話も早くかければいいなと思ってるのでお待ちください!

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