嫉妬、始まりました。
朝の寮室は、いつもより静かだった。
カーテンの隙間から差し込む薄い朝日が、床の上に細長い線を描いている。
俺はベッドに座ったまま、膝を抱えて天井を見つめていた。
エレナと付き合い始めてから、三週間が経った。
彼女は少しずつ、闇の仮面を外し始めている。
昨日も、屋上で手を繋いで、
「……みお。今日も……好き」
と小さな声で言ってくれた。
その笑顔を見ると、胸が熱くなる。
でも、同時に……罪悪感が湧いてくる。
俺は男だ。
エレナは俺を女の子だと思っている。
このまま、嘘をつき続けるのは……正しくない。
俺は鏡の前に立ち、深呼吸を三回した。
いつもの日課。
でも、今日は少し違う。
鏡の中の俺を見つめて、声を出す。
「本城みおは、男だ。名前は女の子っぽいけど、俺は男だ。ここは厨二病学園だけど、俺は普通だ。今日も、正気を保つ」
声が、少し震えた。
半年以上、この言葉を繰り返してきた。
でも、最近は……胸が痛い。
エレナの笑顔。
アリスの涙。
ルナの弱さ。
セレスティアの仮面。
リリス会長の冷たい視線。
みんな、俺を「女の子」として見てくれている。
それが、嬉しいような……苦しいような。
俺は鏡に向かって、もう一度呟いた。
「……残りの時間で、みんなを普通に戻す」
決意を新たにした。
学園長の脅し。
残された時間は少ない。
まずは、アリスからだ。
彼女は一番、まともな気がする。
モカちゃんを抱きしめて泣いていた姿。
あのときの彼女は、ただの女の子だった。
アリスなら……一番最初に、普通に戻せるかもしれない。
俺は制服に着替えて、部屋を出た。
廊下はいつものようにうるさい。
「闇の朝の儀式開始!」「封印の鍵が開いたぞ!」
そんな声が飛び交う中、俺は食堂へ向かった。
エレナはまだ来ていない。
トレイに味噌汁と納豆を取って、いつもの席に座る。
周りを見回すと、アリスが隅の席で一人でご飯を食べていた。
彼女は眼鏡をかけ、髪をポニーテールにまとめ、いつものクールな表情。
でも、俺を見つけると、一瞬だけ視線が合った。
すぐに逸らされる。
俺は立ち上がって、彼女の席に近づこうとした。
「……アリス」
声をかけた瞬間、後ろから元気な声が響いた。
「みおちゃーん!おはよー!」
ルナだった。
彼女はトレイを持って、俺の腕に飛びついてくる。
骸骨リングがジャラジャラ鳴る。
「ねえねえ!見て見て!新しいもの見つけたの!これ、『闇の封印ブレスレット』だって!これつけると、闇の力が三倍になるんだって!みおちゃんもつけようよ~!」
ルナは俺の腕を引っ張って、ブレスレットを差し出す。
黒い革に銀の鎖がついた、派手なブレスレット。
俺は苦笑しながら、
「……今はいいよ。ちょっと、アリスに用が……」
ルナは目を輝かせる。
「えー!アリスちゃん?じゃあ、一緒に行こう!アリスちゃんにも見せたい!アリスちゃーん!新しいものだよ~!」
ルナは俺の手を引っ張って、アリスの席へ向かう。
アリスはトレイを片手に立ち上がり、俺たちを見た。
彼女の瞳が、わずかに揺れる。
俺は声をかけようとした。
「アリス……」
でも、ルナが先に割り込む。
「アリスちゃん!見て見て!このブレスレット、超カッコいいでしょ!闇の力を呼び覚ますんだって!アリスちゃんにつけてあげよっか?」
アリスは少し困った顔で、
「……ルナ……今は……いい……私……忙しいから……」
ルナはめげずに、
「えー!ちょっとだけ!ほら、腕出して~!」
アリスは俺をちらりと見て、すぐに目を逸らす。
彼女はトレイを持って、立ち上がった。
「……ごめん……私……用事があるから……」
アリスは急ぎ足で食堂を出て行った。
俺は追いかけようとしたけど、ルナが腕を引っ張る。
「アリスちゃん、忙しそうだね~!じゃあ、みおちゃん!一緒にブレスレットつけようよ!」
俺はため息をついた。
アリスを見逃してしまった。
ルナの勢いに押されて、俺はブレスレットを手に取る。
黒い革の感触が、冷たい。
俺は心の中で呟いた。
(アリス……でも、俺は……諦めない)
ルナは俺の腕にブレスレットを巻きつけながら、興奮して喋り続ける。
「ほら!これでみおちゃんも闇の力三倍!次はエレナちゃんにもつけようよ~!」
俺は苦笑しながら、
「エレナは……まだ来てないよ」
ルナは目を輝かせる。
「じゃあ、待ってる間に私と一緒に練習しよう!闇のポーズ!」
ルナが両手を広げてポーズを取る。
俺は仕方なく真似する。
ルナは大喜びで、
「そうそう!みおちゃん、上手い!これで次の闇の儀式もバッチリだよ~!」
そんなとき、エレナが食堂に入ってきた。
彼女は俺とルナの姿を見て、少し立ち止まる。
エレナの瞳が、わずかに揺れる。
俺とルナが楽しそうにポーズを取っている。
ルナが俺の腕を引っ張って笑っている。
エレナはトレイを持って、俺たちのテーブルに近づく。
でも、表情が少し曇っている。
彼女は席に座ると、静かに言った。
「……おはよう……みお」
俺は慌ててルナから離れて、エレナの隣に座る。
「おはよう、エレナ。ルナが……ブレスレット見せてきて……」
エレナはトレイに視線を落として、
「……そう……ルナと……楽しそうだったな」
声が、少し低めだ。
俺は気づいた。
エレナは……嫉妬している。
彼女の指が、トレイを強く握っている。
頰が少し膨らんでいる。
俺は慌てて、
「いや、ルナが勝手に……俺はエレナのこと待ってたよ」
エレナは俺をちらりと見て、
「……ふん。貴様は……誰とでも仲良くするから……監視が……大変だ……」
言い訳のような言葉。
でも、目が少し潤んでいる。
ルナは気づかずに、
「エレナちゃんもつけようよ~!これで闇の力三倍!」
エレナは冷たく、
「……いらない。私は……闇の姫だから……十分だ」
ルナは「えー!」と膨れる。
俺はエレナの手をそっと握った。
彼女はびくりと震えて、俺を見た。
俺は小さく微笑んで、
「俺は、エレナと一緒にいるのが一番楽しいよ」
エレナの頰が、赤くなった。
彼女は俯いて、
「……馬鹿……そんなこと……言うな……」
でも、手を離さない。
ルナは「わー!ラブラブ~!」と騒ぐ。
エレナはルナを睨むけど、口元が緩んでいる。
俺は胸が温かくなった。
エレナの嫉妬も……可愛い。
彼女は俺のことを、本気で好きでいてくれる。
俺は……彼女を、守りたいと思った。
食堂の喧騒の中で、俺は決意を新たにした。
第二十五話です!ありがとうございました!
最初はやっぱりアリスです!
んーなんでアリスはみおのことを避けてるんでしょうか、、?
エレナの嫉妬もかわいいです!
次回お楽しみに!




