接吻、始まりました。
文化祭最終日。
夕暮れが学園を優しく包み始めた頃、グラウンドのスピーカーからアナウンスが流れた。
「諸君。闇の祭典、最後の儀式……花火の時間だ。今宵、我々は闇の空に光を刻む!全員、屋上またはグラウンドへ!」
生徒たちが一斉に動き出す。
黒いマントや仮面を外した者、興奮して叫ぶ者、友達と手を繋いで走る者。
校舎のあちこちから「闇万歳!」の声が上がる。
俺とエレナは、喧騒を避けて生徒会専用の屋上階段を上った。
エレナは黒いワンピースの裾を軽く持ち上げ、俺の手を握ったまま階段を登る。
彼女の指先が、少し汗ばんでいる。
俺も、胸がざわついていた。
文化祭が終われば……秋も終わり。
学園長の脅し。
まだ、エレナには詳しく言えていない。
でも、今は……この瞬間だけは、普通の恋人として、彼女と一緒にいたかった。
屋上のドアを開けると、涼しい夜風が吹き抜けた。
コンクリートの床に、簡易ベンチが二つ。
フェンス越しに、学園のグラウンドが見下ろせる。
生徒たちが集まり、スマホ……ないから、手を振ったり叫んだりして騒いでいる。
遠くで「花火まだかー!」という声。
エレナはフェンスに寄りかかり、夜空を見上げた。
「……綺麗……星が……たくさん」
俺は彼女の隣に立ち、同じ空を見た。
街の明かりが遠くに見える。
学園は山の中だから、空が広い。
エレナが俺の袖をそっと引く。
「……みお。ここ……二人きりだね」
「うん」
俺たちはベンチに並んで座った。
エレナは膝を寄せて、俺の肩に頭を預ける。
彼女の髪から、シャンプーの甘い香りがする。
俺は彼女の肩に手を回した。
エレナは小さく息を吐いて、
「……文化祭……楽しかった。みんなと……みおと……一緒にいられて……」
俺は頷いた。
「俺も。エレナのメイド姿……忘れられないよ」
エレナは顔を上げて、俺を睨む。
でも、すぐに頰を赤らめて目を逸らす。
「……もう……その話は……禁止……あんな……恥ずかしいこと……二度と言わない……」
「でも、可愛かったよ。
『おかえりなさい!ご主人様!にゃん!』って……」
エレナは俺の胸を軽く叩く。
「……っ!みおの……馬鹿……!もう……本当に……」
でも、彼女の声は笑っている。
俺は彼女の髪を撫でた。
エレナは目を閉じて、俺の手に頰を寄せる。
「……みおの……手……温かい……ずっと……こうしていたい……」
俺の胸が熱くなった。
エレナの普通は、まだ始まったばかりだ。
でも、彼女は少しずつ、俺の側で笑えるようになっている。
俺は彼女を抱き寄せて、囁いた。
「……俺も。エレナと一緒に……ずっと、いたい」
そのとき――
ドーン!
空に最初の花火が上がった。
赤い光が夜空を裂き、星のように散る。
生徒たちの歓声がグラウンドから響く。
次々に花火が打ち上がり、青、金、緑、紫。闇の空に、光の花が咲く。
エレナは俺の肩に頭を預けたまま、花火を見上げた。
「……綺麗……闇の中に……光が……咲いてる……」
俺は彼女の髪を撫でながら、頷いた。
「うん。綺麗だね」
花火は次々と上がる。
大輪の菊。
流れ星のような線。
ハート型。
生徒たちの「わー!」という声が、遠くから聞こえる。
エレナは俺の手を強く握った。
「……みお。わたし……幸せ……こんな気持ち……初めて……」
俺は彼女の肩を抱き寄せた。
「俺も……エレナと一緒にいられて……幸せだよ」
花火がクライマックスを迎える。
最後の大輪が、夜空に広がる。
赤と金が混ざり、ゆっくり散っていく。
その瞬間――
エレナが俺の顔を両手でつかんだ。
彼女の瞳が、俺をまっすぐ見つめる。
そして、ゆっくりと、唇を重ねてきた。
「……っ!」
柔らかい感触。
甘い息。
エレナの唇が、俺の唇に触れる。
一瞬、時間が止まった。
花火の光が、俺たちの影を照らす。
エレナは目を閉じて、俺にキスをする。
短い、でも熱いキス。
彼女は唇を離すと、俺の胸に顔を埋めた。
そのまま、ぎゅっと抱きついてくる。
「……みお……撫でて……」
甘い声。
俺は彼女の背中を抱きしめ、髪を優しく撫でた。
エレナは俺の胸で、幸せそうに息を吐く。
「……もっと……ずっと……こうしてて……」
俺は彼女を抱きしめながら、頷いた。
「うん。ずっと……こうしていよう」
花火の最後の光が消え、夜空に静けさが戻る。
グラウンドの生徒たちは、まだ騒いでいる。
でも、俺とエレナは、屋上で二人きり。
エレナの体温。
彼女の息遣い。
俺の胸に広がる、温かい何か。
これは……好きだ。
エレナのことが、好きだ。
俺は、彼女の髪に顔を埋めて、そっと呟いた。
「……エレナ。俺も……好きだよ」
エレナは俺の胸で、びくりと震えた。
彼女はゆっくり顔を上げ、俺を見た。
瞳が潤んでいる。
彼女は小さく微笑んで、
「……ありがとう……みお……わたしも……大好き……」
二人は、再び唇を重ねた。
花火の残光が、俺たちを優しく照らす。
夏の夜は、まだ終わらない。
でも、その瞬間を――
誰かが、ひそかに見ていた。
屋上のフェンスの影から。
マントをまとった影が、静かに息を潜め、俺たちを見つめている。
その瞳は、冷たく、鋭く。
そして、どこか……悲しげだった。
夜は深まる。
文化祭は終わった。
でも、俺たちの物語は、まだ続く。
闇の影が、ゆっくりと近づいている。
第二十四話です!ありがとうございました!
文化祭編終了です!キスしました!最後の影は誰?
もうすぐ一年生が終わってしまいます!
ここから、みおは生徒会メンバーを普通に戻そうとしますが、そう簡単にはいきません
みおを応援してください!




