突発的事態、始まりました。
生徒会室は、いつものように薄暗い照明の下で、書類の山とインクの匂いに満ちていた。
円卓の上には、文化祭の企画書が広がり、黒いペンで書き込まれたメモが乱雑に散らばっている。
「闇の迷宮カフェ」「封印の劇場」「古代の闇鍋屋台」どれも厨二病全開のネーミングで、普通の文化祭とは思えない。
リリス会長が円卓の中央に立ち、深紅のマントを翻して宣言した。
「諸君。文化祭の構想は、ほぼ煮詰まった。ここからは、各々に仕事を割り振る。書記二名、エレナとルナはプリントの印刷と生徒会新聞の続きを頼む。会計のアリスは予算の最終確認を。副会長セレスティアは、学園長への最終確認を。私は書類の整理と全体の調整だ」
セレスティアが鎖を鳴らしながら、優雅に頷く。
「承知したわ。光の残滓が混じる前に、闇の許可を確実に得ておく」
ルナが手を挙げて、興奮気味に言う。
「やったー!新聞の続き、めっちゃ楽しみ!『闇の文化祭特集号』、絶対面白くするよ~!」
エレナは少し疲れた顔で、俺を見た。
「……みお。一緒に……新聞の続き、手伝ってくれるか?」
俺は頷いた。
「うん。もちろん」
リリス会長が俺を見て、言った。
「みお。セレスティアと一緒に、学園長室まで行ってくれ。確認事項が多いから、一人では負担が大きい」
俺は少し驚いたが、頷いた。
「……わかりました」
セレスティアが立ち上がり、鎖を鳴らして俺に近づく。
「ふふふ……光の残滓よ。私と一緒に、学園の闇に触れるがいいわ」
エレナが少し不安そうに俺を見た。
俺は彼女に微笑んで、
「すぐ戻るよ」
と小声で言った。
エレナは小さく頷く。
セレスティアと二人で廊下を歩く。
彼女の鎖がカチャカチャ鳴る音が、静かな廊下に響く。
俺はセレスティアとあまり話したことがなかった。
ゴスロリの黒いドレスに鎖のアクセサリー。
いつもクールで、少し近寄りがたい雰囲気。
俺は何を話せばいいか分からず、黙っていた。
セレスティアが先に口を開いた。
「……みお。最近、エレナと随分仲良くなったようね」
俺は少し驚いて、彼女を見た。
「……うん。付き合ってるから」
セレスティアは小さく笑う。
「ふふふ……そう。エレナは、変わったわ。以前はもっと……闇に染まっていたのに。貴方の影響ね」
俺は少し照れた。
「……俺のせいかな。エレナが、普通に話したいって言ってくれたから……」
セレスティアは鎖を指で弄びながら、続ける。
「……いいことよ。闇だけじゃ、息が詰まるもの。貴方のような光がいるから……彼女は、笑えるようになった」
俺は少し嬉しくなった。
「……ありがとう」
セレスティアは俺を見て、微笑む。
「……礼はいいわ。ただ……貴方は、気をつけなさい。この学園は、闇が深い。光が強すぎると……消されることもある」
俺は少し背筋が寒くなった。
セレスティアの目は、真剣だ。
俺は頷いた。
「……分かった。気をつける」
学園長室に着いた。
重厚な扉を開けると、学園長が椅子に座っていた。
セレスティアが淡々と確認事項を話し始める。
「学園長。文化祭の企画書、最終版です。闇の迷宮カフェ、封印の劇場、古代の闇鍋屋台……すべて、許可をいただけますか?」
学園長は書類に目を通しながら、頷く。
「問題ない。ただし、予算は厳守すること。あと……生徒会新聞の進捗はどうだ?」
セレスティアが答える。
「順調です。エレナ、ルナ、みおが担当し、来週発行予定です。内容は……学園の日常を、できるだけ普通にまとめています」
学園長は少し眉を上げる。
「……普通に、か。それは……いい方向だな」
セレスティアは淡々と続ける。
「すべて、確認済みです。追加の指示は?」
学園長は書類を閉じ、微笑む。
「ない。よくやっている。後は……予定通り進めてくれ」
セレスティアは一礼して、俺を促す。
「では、失礼しますわ」
俺たちは学園長室を出た。
帰り道、セレスティアが俺に言った。
「……みお。学園長は……何か、隠しているようね」
俺は頷いた。
「……うん。なんか、変だよね」
セレスティアは鎖を鳴らして、笑う。
「ふふふ……闇は、いつも隠れているものよ。貴方も……気をつけなさい」
生徒会室に戻ると、他のメンバーはいなかった。
エレナの姿もない。
俺は少し悲しくなった。
セレスティアが肩をすくめる。
「……みんな、帰ったようね。私も失礼するわ」
彼女は去っていった。
俺は一人でカバンを肩にかけ、部屋に戻ろうとした。
廊下を歩いていると、後ろから声がした。
「……みお」
振り返ると、セレスティアだった。
彼女は少し顔色が悪い。
眼鏡の奥の目が、疲れている。
「……どうした?」
セレスティアは壁に手をついて、息を吐く。
「……少し……疲れただけ。大丈夫よ」
でも、次の瞬間、彼女の体がぐらりと傾いた。
俺は慌てて駆け寄り、支える。
「セレスティア!」
彼女は俺の腕の中で、目を閉じる。
すぐに目を開けたが、顔が青ざめている。
「……すまない。最近……よくあるの。疲労が溜まっているだけ……」
俺は心配になった。
「一人で帰らせるのは危ない。部屋まで送るよ」
セレスティアは慌てて首を振る。
「……い、いらないわ。自分で……」
「ダメだ。倒れたら大変だろ」
俺は押し通して、彼女の腕を支えた。
セレスティアは抵抗したが、力が入っていない。
彼女の部屋は、寮の三階。
廊下を歩きながら、彼女は小さく呟く。
「……ありがとう……みお」
セレスティアの部屋のドアが開いた瞬間、彼女は俺を中に引きずり込むようにして入った。
鍵をかけるのも忘れて、よろよろと部屋の奥へ進もうとする。
その足取りがあまりにもふらついていて、俺は思わず「大丈夫か?」と声をかけながら後を追った。
次の瞬間――
彼女の足が絨毯の端に引っかかった。
「っ……!」
小さな悲鳴とともに、体が前のめりに崩れる。
転んだ拍子に膝をついたセレスティアは、そのまま四つん這いのような姿勢で固まった。
そして、わずか一秒後。
……じわっ。
スカートの裾の下から、透明な液体がゆっくりと広がり始めた。
最初は小さな染みだったものが、みるみるうちに太ももを伝い、絨毯にぽたぽたと落ちていく。
かすかな水音と、ほのかに漂うアンモニアの匂い。
セレスティアの背中が、びくびくと震えた。
「……あ……」
小さな、子供のような声。
いつもは低く響くクールな声が、完全に上擦っている。
彼女は両手で絨毯を掴んだまま、顔を上げられずにいた。
肩が小刻みに上下し、首筋まで真っ赤に染まっている。
転んだ衝撃で、白い背中と腰のラインが露わになっていた。
「……う……うぅ……」
嗚咽が漏れる。
セレスティアは両手で顔を覆い、膝を折って女の子座りになった。
その拍子に、残っていた液体がさらに床に広がる。
じわじわと絨毯が暗く濡れていく。
彼女の指の間から、涙がぽろぽろと落ちた。
「……み、見ないで……こんな……こんなところ……見ないでぇ……っ」
声が完全に幼児っぽくなっていた。
普段の「ふふふ」といった高飛車な口調はどこにもない。
ただただ泣きじゃくる、怖がりな子供の声。
膝をぎゅっと抱え込んで、体を丸める。
濡れたスカートが太ももに張りつき、寒そうに震えている。
「……恥ずかしい……こんな……みっともないところ……誰にも……見られたくなかったのに……うぅ……うわぁぁん……!」
泣き声が大きくなった。
セレスティアは両手で顔を覆ったまま、肩を震わせて号泣し始めた。
まるで幼稚園児が転んで怪我をしたときのような、取り乱した泣き方。
俺は一瞬、呆然としてしまった。
いつも完璧で、冷たくて、近寄りがたい副会長が……こんな姿を見せるなんて。
「……セレスティア……」
俺が声をかけると、彼女はびくっと体を縮めた。
「……こ、来ないで……見ないで……お願い……今だけ……見ないで……っ」
涙声で懇願する。
俺は慌ててタオルを探した。
部屋の棚にあった大きめのバスタオルを手に取り、近づく。
「大丈夫、拭くから……とりあえず、服脱いで……」
セレスティアは顔を覆ったまま、こくこくと頷いた。
でも、手が震えてボタンが外せない。
俺はためらいながらも、
「見ないようにするから……」
と目を逸らしつつ、彼女の肩に手を置いた。
震える肩を支えながら、ゆっくりとブラウスを脱がせる。
スカートも下ろす。
下着も……濡れてしまっていたので、仕方なく外した。
全裸になったセレスティアは、両手で胸と下腹部を必死に隠し、膝を立てて丸くなる。
背中が震え、涙がぽたぽたと絨毯に落ちる。
「……うぅ……こんな……裸……見られて……もう……死にたい……」
子供のような言葉。
俺は目を逸らしたまま、タオルで彼女の太ももやお尻を拭く。
濡れた部分を優しく押さえるようにして、できるだけ早く拭き取った。
セレスティアは泣きじゃくりながら、
「……ごめんなさい……こんな……汚いところ……見せちゃって……私……いつもクールでいようと思ってたのに……
こんな……おもらしなんて……みっともなくて……恥ずかしくて……」
声が途切れ途切れになる。
俺はタオルを新しいものに替えながら、
「大丈夫だよ。誰だって疲れてるときはある。俺、誰にも言わないから。約束する」
セレスティアは顔を覆ったまま、首を振る。
「……信じられない……もう……顔見せられない……みおに……こんな姿……見られたなんて……一生……忘れられない……」
泣き声が少しずつ小さくなる。
ようやく涙が収まってきた頃、彼女はゆっくり手を下ろした。
目が真っ赤で、鼻をすすっている。
そして、俺の顔を見た瞬間――
「……っ!」
一気に顔が真っ赤になった。
さっきまでの幼児のような泣き顔が、急にいつものクールな副会長に戻ろうとして、でも完全に失敗している。
慌ててタオルを体に巻きつけ、声を上ずらせる。
「……み、みお!今のは……その……!これは……闇の試練による一時的な……肉体の弱さの顕現であって……!決して……本当の私ではない……!忘れなさい!今すぐこの部屋から出て、すべてを闇に葬りなさい!これは……命令よ!」
必死の言い訳。
声が裏返り、目が泳いでいる。
俺は思わず苦笑した。
「……うん。忘れるよ。でも……無理しないでね。体、大事にして」
セレスティアはタオルをぎゅっと握りしめ、俯いた。
「……ありがとう……本当に……ありがとう……」
彼女の声は、もう泣き声ではなく、小さな囁きだった。
俺は部屋を出て、ドアを静かに閉めた。
廊下で深呼吸する。
セレスティアの泣き顔と、子供みたいな声が、頭に残っている。
彼女も……本当は、すごく弱いところを抱えていたんだ。
俺は、もっと彼女たちのことを知りたいと思った。
そして、守りたいと思った。
二十話です!ありがとうございました!
セレスティアの弱さを見せれたと思います!
えー実は生徒会メンバーの中で一番弱いのはセレスティアです!
まあみおに裸を見られたのは大きいですよ、、
そして、なにかに気づいたみお。何かできるのでしょうか、、
20話まで読んでいただいてありがとうございます!まだまだ物語は続くのでよろしくお願いします!




