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地獄、始まりました。

チャイムが鳴った。

教室中に響く、普通の電子音のチャイムだ。でも、この学園ではそれすら異様に聞こえる。周りの生徒たちが一斉に息を潜めまるで「儀式の始まり」を待つような空気になった。

エレナは、俺の言葉に顔を真っ赤にしていたがチャイムを聞くや否やぴたりと動きを止めた。彼女は一瞬だけ俺を睨みつけるとふんと鼻を鳴らして自分の席に戻っていった。マントのような黒い布を翻し優雅に(本人はそう思ってるんだろう)椅子に座る。

……素直だな。

俺は内心で苦笑した。厨二病全開なのにチャイムには従うのか。意外とルール守るタイプなのかもしれない。

今日は転校二日目。昨日はあの後、学園長室で詳しい説明を受け、学園の全生徒の名簿をもらい、寮に荷物を置いて終わった。実際にクラスに入るのは今日が初めてだ。席はすでに窓際の後ろから二番目に用意されていた。学園長が「目立たない場所がいいだろう」と配慮してくれたらしい。

HRが始まる。担任の先生が入ってきた。四十代くらいの男性で、普通のスーツ姿。疲れた顔をしているが、目だけは鋭い。

「おはようございます。今日は転校生の本城みお君を紹介しましょう。本城君、簡単に挨拶を」

先生に促され、俺は立ち上がった。クラス中の視線が集中する。昨日から噂が広がっていたのか、みんなの目が好奇心と、なんか黒いオーラみたいなもので輝いている。

「本城みおです。よろしくお願いします」

短く言って座ろうとするとクラス中からざわめきが起きた。

「まだ光に染まっているな、、」「闇の試練が必要か……」

……はいはい。朝の様子を見ただけで少し慣れてしまった自分が怖い。

先生はため息をつきながら、黒板に何かを書き始めた。

「では、今日の連絡事項を。本城君は昨日到着したばかりなので授業には徐々に慣れてくれ。質問があれば遠慮なく」

先生は普通だ。この学園で先生だけがまともだと思うと気が遠くなる。

HRが終わり一時間目の授業が始まった。科目は現代文。先生が教科書を開かせるとクラスが静かになった……と思ったら、すぐに異変が起きた。

「ふん……この文章には、古代の呪文が隠されているな」

隣の席の男子生徒が突然独り言を言い始めた。いや、独り言にしては声が大きすぎる。

彼の自称名は名簿によると「ヴォルフガング・ナハト」らしい。本名は「田中直哉」。うん、普通だな。

彼は教科書を睨みつけ、ペンを握りしめて何かを書き始める。すると周りの生徒たちも同調し始めた。

「確かに……この一文、封印の鍵だ」「我が血族の叡智が解読を求めている」

エレナも遠くの席から教科書を睨みながら指で謎のジェスチャーをしている。

先生は無視して授業を進める。慣れているんだろう。時々、生徒が立ち上がって「封印が解かれた!!」と叫んでも淡々と「座りなさい」と言うだけだ。

俺は呆然としながらノートを取っていた。

――これを、全員治すのか。

不可能に決まってる。半分でも無理だ。

だが、フィギュアが……あの限定セットが。フィギュアのことを諦めきれない自分が情けなかったがやめることはできなかった。

昼休みになるまで授業はそんな調子で進んだ。休み時間になると生徒たちはグループを作って「魔導書」の話や「闇の同盟」の相談を始める。

俺は昨日教えてもらった食堂に行くことにした。

食堂のおばあちゃんに日替わり定食をつくってもらいそれを持って席に着く。

ちなみに、お金はかからない。この学園では入学金さえ払えば学園内のすべての施設が無料で使える。

俺は入学金を収めてないが訳アリなので同じように免除してくれた。

一人でこの学園について考えて飯を食べてると、聞き覚えのある声が聞こえた。

「ふふふ……転校生よ。昼餉の時間に一人とは寂しいな」

エレナが、また現れた。トレイに食堂の食事を載せて俺の机の前に立っている。黒いマントは脱いでいるが瞳は相変わらず「漆黒」モードだ。

周りの生徒たちが、興味津々でこちらを見ている。

「……別に、一人は慣れてるけど」

俺が答えると、エレナはにやりと笑った。

「ならば、我が血族の名にかけて貴様に同行を許そう。闇の波動を分け与えてやる」

彼女は勝手に俺の向かいの席に座り、トレイを置いた。

強引だな。

でも、見た目は本当に可愛い。食事を食べながら時々髪をかき上げる仕草とか、普通にアイドル級だ。なのに、口を開くと――。

「このパンは、古代の穀物から作られたものか……ふむ、魔力が薄いな」

……残念すぎる。

俺は内心でため息をつきながら、決めた。

――最初の更生者は、こいつにしよう。

理由は単純だ。まず、一番最初に絡んできた。次に、見た目がいいのにこの残念さは、治ったら相当な美少女になるはずだ。クラスでの影響力もありそう。エレナを中心に「闇の血族」みたいなグループができてるっぽいし、こいつが普通に戻れば、周りも動揺するかもしれない。

それに――正直ちょっと気になる。なんでこんなに本気で厨二病なんだろうか。

名簿を見た限り、彼女の本名は黒崎椎名。普通の名前だ。むしろ、かわいい名前だ。

しかし、本名で呼ぶのは禁止。激怒するって学園長が言ってた。

どうやって彼女を普通にさせるか。

必死に考えたが結局はまずは、会話からだ。

「……エレナさん」

俺が名前を呼ぶと、彼女はぴくりと反応した。

「ふん……我が名を呼ぶとは恐れ知らずだな。だが、許してやろう」

「この学園、いつからこんな感じなんだ?」

唐突に聞くと、エレナは少し目を細めた。

「ほう……貴様も、闇の歴史に興味があるのか。この学園は、古より闇の結界に守られた聖域だ。十数年前、新たなる覚醒者が現れ真の力を解き放った。それ以来、我らは本当の姿を取り戻した」

……つまり、アニメ持ち込んだ卒業生のせいか。

俺は頷きながら、さらりと聞いた。

「エレナさんはいつから闇の血族なんだ?」

その瞬間、エレナの手が止まった。彼女は少し遠い目をして呟いた。

「……我は、生まれたときからこの血を引いている。だが、真に覚醒したのは三年前だ。あのとき、禁断の魔導書を手に入れ――」

三年前。中学時代か。

俺も中学時代は少し厨二病だった。アニメの見すぎでノートに設定を書いたりした。でも、すぐに恥ずかしくなってやめた。友達にからかわれたのもあるけど。

エレナは、何かきっかけがあったのかもしれない。

「その魔導書って、どんなの?」

俺が聞くと、エレナは急に警戒した。

「ふ、まだ未熟者の貴様に教えるわけにはいかぬ!」

でも、目は少し輝いている。話したいんだろうな。

その後はなにもなく、昼休みが終わり午後の授業が始まった。エレナは教室に戻り席に戻ったが時々こちらを見てくる。興味を持ったらしい。

放課後。俺は寮に戻る前に図書室に寄った。学園の図書室は巨大で本が山ほどある。でも、マンガは一切ない。外部情報遮断のためだ。

俺は名簿を広げエレナのページを見た。本名:黒崎椎名。住所は遠方の都市。成績は優秀。生徒会書記。

「へー生徒会書記だったのか。初めて知った。あんなやつに務まるのか?」

ん?いや待てよ。この厨二病しかいない学園の生徒会だろ。

考えたくもないが生徒会長は一体どんなやつなんだろうか、、、、

それを考えたとたん意識が飛びそうになった。

何とか持ち直した。

いや、一回忘れよう。まずはエレナに集中しなければ。

本名を呼ばない範囲で、厨二病を突き崩す方法を考えないと。

その夜、寮の自室で俺はベッドに寝転がった。一人用の部屋でよかった。相部屋だったら耐えられなかったかも。

窓から見えるのは、山と星空だけ。ネットがないのは辛いけど、フィギュアのためだ。

エレナの顔を思い出す。可愛いのに、あの台詞。

本当に、、治せるのだろうか。

考えるだけで頭痛が痛くなる。

でも、やるしかない。

明日から、本腰を入れる。

その日の夜は、家から持ってきた「魔法少女リリカル☆なのは」の、なのはちゃんの抱き枕を抱いて眠った。これがないと寝れない体になってしまった。

知らない人から見たら女の子が男みたいなことをしてると思うだろうが、俺は男だ。ちゃんと好きなものは好きなのだ。

俺は最初に、エレナ・クロウリーを普通にしてやる。そう固く決意した。


第一話よんでいただいてありがとうございました!

第二話もすぐに投稿できるように頑張ります!


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