学園の真実、始まりました。
学園長室は、いつもより重苦しい空気に包まれていた。
重厚な木製の扉の向こう側、広い部屋の中央に置かれた円卓には、学園長が座っていた。
彼の正面には、黒いスーツを着た中年男性と、黒いドレスをまとった三十代半ばの女性が並んで座っている。
男性は髪をオールバックにし、細いフレームの眼鏡の奥で冷たい目を光らせていた。
女性は長い黒髪を背中に流し、唇に薄い笑みを浮かべているが、その目は氷のように鋭い。
部屋の照明は控えめで、卓上のランプだけが三人の顔を照らし、壁に長い影を落としていた。
学園長は穏やかな笑みを保ちながらも、額に薄い汗が浮かんでいる。
彼の手はテーブルの上で軽く組み、指先がわずかに震えていた。
男性が口を開いた。
声は低く、抑揚がほとんどない。
「学園長。生徒会新聞の件は、順調に進んでいるようですね」
学園長はすぐに頷く。
「はい。すでに取材も始まっております。来週には第一号を発行する予定です」
女性が小さく笑った。
笑い声は鈴のように澄んでいるが、どこか冷たい。
「それは結構。しかし、それだけでは不十分ですわ。あの新聞は、ただの学園の告知板ではありません。生徒たちの『普通』を少しずつなくすための、触媒なのです」
学園長は頷きながら、視線を落とした。
「……承知しております。本城みお君には、すでに条件を提示しました。生徒会の五人を、今年中に普通に戻すこと。できなければ……彼は退学です」
男性が眼鏡を指で押し上げた。
「その条件は、私たちがあなたに指示したものです。しかし、学園長。あなたはまだ、甘い。本城みおは、予想以上に手強い。半年経っても、一人も変わっていない」
学園長は苦笑した。
「……確かに。彼は……予想外に強い意志を持っています。そして、あの五人……特にエレナとアリスは、彼に心を開き始めています」
女性が指を軽く鳴らした。
音が部屋に響く。
「時間はありませんわ。この学園は、もう役割を終えつつあります。生徒たちが『普通』に戻る前に……取り壊しの計画を、次の段階に進める必要があります」
学園長の顔色がわずかに変わった。
彼は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
「……取り壊し、ですか。やはり……そこまで」
男性が冷たく笑う。
「当然です。この学園は、外部から隔絶された閉鎖空間として、十数年前に作られました。初めから目的は……生徒たちに『闇』を植え付け、社会に送り出すこと。しかし、結果はご覧の通り。一部の生徒は適応しましたが、大半はただの厨二病患者です。もはや、価値はありません」
女性が優雅に髪をかき上げた。
「それに……本城みお君の存在が、計画の障害になりつつあります。彼は、予想外に生徒たちを『普通』に引き戻そうとしている。特に、あの五人。エレナ、ルナ、アリス、セレスティア、リリス。彼女たちが普通に戻れば、この学園の『実験』は失敗に終わる」
学園長は目を伏せた。
彼の手が、テーブルの上で強く握られる。
「……分かっています。しかし……彼女たちは、私の生徒です。取り壊しが決まれば……」
男性が冷たく遮る。
「感傷は不要です。学園長。あなたはこの学園の責任者として、私たちの指示に従う義務があります。忘れたわけではないでしょう?この学園の土地、建物、資金……すべて、私たちの財団が提供したものです。あなたは、ただの管理人です」
学園長は唇を噛んだ。
彼の額に、汗が一筋流れる。
「……承知しております。取り壊しの準備……次の段階に進めるよう、手配いたします」
女性が満足げに微笑んだ。
「賢明な判断ですわ。来月中に、取り壊しの最終計画を提出してください。生徒たちの『普通化』は、急がず……しかし、確実に失敗させてください。本城みお君には、プレッシャーをかけ続けてください。彼が諦めれば、生徒達も諦めるはずです」
学園長は小さく頷いた。
部屋に、重い沈黙が流れる。
三人はそれぞれの思惑を胸に、静かに座っていた。
そのとき、扉がノックされた。
学園長が顔を上げ、声を出す。
「……どうぞ」
扉が開き、美しい女性が入ってきた。
三十代後半くらい。
長い金髪を緩く巻き、黒いドレスを着ている。
顔立ちは整っていて、瞳は深い青。
彼女は部屋に入ると、静かに扉を閉めた。
「……遅くなりました」
学園長は立ち上がり、丁寧に頭を下げる。
「来てくださって、ありがとうございます。こちらのお二人は……」
女性は手を軽く上げて、制する。
「知っていますわ。財団の監査役ですもの」
彼女は円卓に近づき、三人を見下ろした。
視線が、学園長に止まる。
「学園長。取り壊しの準備は、順調ですか?」
学園長は緊張した声で答える。
「……はい。来月中に、計画を提出いたします」
女性は小さく頷いた。
「結構。ですが、一つ追加指示がありますわ。本城みお君の監視を、強化してください。彼が……エレナやアリスに近づきすぎているようです。特に、エレナとは……付き合い始めたとか」
学園長の顔が青ざめる。
「……それは……」
女性は冷たく微笑む。
「問題ありません。ただし、彼が五人を普通に戻そうとしている以上……邪魔は、排除する必要があります。方法は、あなたにお任せしますわ。ただし、目立たぬように」
学園長は言葉を失った。
男性と女性の監査役も、わずかに表情を硬くする。
女性はそれ以上何も言わず、踵を返した。
「……では、失礼しますわ」
扉が閉まる音が響く。
部屋に、重い沈黙が戻った。
学園長は椅子に座り直し、深く息を吐いた。
「……彼女は……本当に、容赦がない」
男性が眼鏡を押し上げる。
「当然です。彼女は財団の最高幹部の一人。私たちも、彼女には頭が上がりません」
女性監査役が小さく笑う。
「それにしても……本城みお君は、厄介ですわね。五人を普通に戻そうとしている。エレナとは、すでに恋人関係。このままでは、取り壊し前に、学園の『実験』が崩壊する可能性があります」
学園長は目を伏せた。
「……彼を……どうするのですか?」
男性が冷たく答える。
「まずは、プレッシャーをかける。退学の脅しは、すでに効いているはずです。それでも動かないなら……もっと、直接的な方法を考えましょう」
学園長は唇を噛んだ。
彼の手が、テーブルの上で震える。
「……分かりました。彼に……さらに、厳しく接します」
女性監査役が立ち上がる。
「それで結構ですわ。私たちは、次の段階の準備に取りかかります。学園長……期待しています」
二人が部屋を出ていく。
学園長は一人残され、円卓に突っ伏した。
彼の肩が、小さく震えていた。
「……すまない……みんな……私は……どうすれば……」
部屋のランプが、静かに揺れる。
外は、夜の闇。
学園の取り壊しは、確実に進もうとしていた。
第十八話です!
ついに明かされた学園の闇!まさかの展開ですね、、
ですが安心してほしいです!必ずスッキリさせるので!
えー第十九話ではみおとエレナの日常とアリスとルナを絡めて書けたらなと思います!
(第二十話は、記念でセレスティアのあのシーンを出すのでお楽しみに!会長は待っていてください!)




