恋、始まりました。
一人きりの寮室は、夏の終わりを感じさせる静けさに包まれていた。
カーテンの隙間から差し込む朝日が、床の上に細い線を描いている。
俺はベッドに座ったまま、いつもの日課を始めた。
鏡の前に立ち、深呼吸を三回。
自分の姿をまっすぐ見つめて、声を出す。
「本城みおは、男だ。名前は女の子っぽいけど、俺は男だ。ここは厨二病学園だけど、俺は普通だ。今日も、正気を保つ」
声が少し震えた。
半年以上、この言葉を繰り返してきた。
でも、最近は……少し違う。
鏡の中の俺は、髪が伸びて、顔立ちが柔らかく見える。
この学園では、誰も俺を男だと思っていない。
エレナも、アリスも、ルナも、セレスティアも、リリス会長も。
そして、俺自身も……少しずつ、慣れてしまっている。
夏休みのプールの夜が、頭に浮かぶ。
水晶の光の下で、エレナが言った言葉。
「……みお。わたしは……みおのことが……好き……かもしれない」
彼女の手の温かさ。
星空の下で握った指。
あの瞬間、俺の胸は熱くなった。
好きとは、まだ言えない。
でも、エレナの笑顔を見ると、守りたいと思った。
アリスの震える肩も、忘れられない。
「大好き」と耳元で囁かれた声。
彼女の小さな体が、俺に抱きついた感触。
二人とも、俺を「女の子」として見てくれている。
それが、嬉しいような……苦しいような。
俺は鏡に向かって、新たに呟いた。
「……残りの半年は、女として過ごす」
決めた。
会長が卒業するまでに、生徒会には言う。
それまで、エレナとアリスに……普通の気持ちを、教えてあげたい。
俺は男だ。
でも、今は……この学園で、彼女たちの側にいたい。
フィギュアのためだけじゃない。
もう、そんなことのためだけじゃない。
俺は制服に着替えて、部屋を出た。
廊下は相変わらずうるさい。
「闇の朝の儀式開始!」「封印が解けたー!」という声があちこちから聞こえる。
俺は無視して、食堂へ向かった。
食堂に着くと、エレナがすでにいつもの席に座っていた。
彼女はトレイに納豆と味噌汁を乗せて、俺を待っていた。
俺が近づくと、エレナは小さな声で言った。
「……おはよう……みお」
声が、いつもより柔らかい。
俺は少し驚いて、隣に座った。
「おはよう、椎名」
エレナは頰を少し赤らめて、俯いた。
彼女の制服はいつも通り、黒いリボンとスカート。
でも、ネクタイの結び目が少し緩くて、髪を耳にかける仕草が、なんだかいつもより普通の女の子っぽい。
俺は思わず言った。
「……エレナ、なんか……普通っぽくなった?」
エレナは慌てて顔を上げた。
「……っ! 何を言う!これは……ただの……その……闇の姫として、変化球を……!いや、違う!普通に……普通にしてみただけだ!みおが……教えてくれたから……」
必死の言い訳。
頰が真っ赤で、目が泳いでいる。
俺は笑ってしまった。
「うん。似合ってるよ。可愛い」
エレナはさらに赤くなって、味噌汁を勢いよく飲んだ。
少しむせて、咳き込む。
俺は背中をさすってあげた。
彼女は照れくさそうに、俺を見た。
「……ありがとう……みお」
ご飯を食べながら、俺たちは他愛もない話をした。
夏休みの思い出。
プールの夜のこと。
エレナは時々、俺の顔を見ては目を逸らす。
俺も、彼女の横顔を見ながら、胸が熱くなる。
授業中も、俺は上の空だった。
エレナの後ろ姿を見ながら、プールの夜を思い出す。
「好き……かもしれない」
あの言葉が、頭の中で繰り返される。
エレナが振り向いて、俺と目が合う。
二人とも、すぐに視線を逸らした。
でも、その一瞬で、胸がドキドキした。
昼休み。
エレナが俺を誘った。
「……みお。屋上……行かないか?」
俺は頷いた。
屋上は静かで、夏の風が吹いている。
エレナはフェンスに寄りかかり、俺を見た。
「……みお。あの夜のこと……覚えてるか?」
「うん。忘れられるわけないよ」
エレナは深呼吸して、俺の目を見た。
瞳が真剣だ。
「……わたし……みおのことが……大好きです」
ストレートな言葉。
俺は息を飲んだ。
エレナは頰を赤らめて、続ける。
「……催眠のときも、本当だった。みおの優しさが……笑顔が……声が……全部、好き。女の子同士なのに……こんな気持ち、変かもしれないけど……わたし……みおと、付き合いたい」
俺は戸惑った。
胸が熱い。
頭が真っ白になる。
でも、考えるより先に、声が出た。
「……はい」
エレナの目が大きく見開く。
彼女は信じられないという顔で、俺を見た。
「……本当……?」
俺は頷いた。
「うん。俺も……エレナのこと、特別だと思う。付き合おう」
エレナの顔が、一気に明るくなった。
笑顔が、太陽みたいだ。
彼女は俺に抱きついてきた。
「……ありがとう……みお!」
俺は彼女を抱きしめ返した。
正式に、付き合うことになった。
エレナは俺から離れて、屋上から飛び出すように走り出した。
「教室に戻る!みお、早く来い!」
俺は笑って、彼女の後を追った。
その夜。
エレナと別れた後、俺は部屋に戻った。
机の上に、学園長からの手紙が置いてある。
封を開けると、短い文。
「学園長室にすぐに来い。」
俺は慌てて部屋を出て、学園長室へ向かった。
重厚な扉を開けると、学園長が椅子に座っていた。
いつもの穏やかな笑顔だが、目は冷たい。
「……期待外れだな、みお君」
俺は息を飲んだ。
「どういう……意味ですか?」
学園長はため息をつく。
「半年経ったというのに、一人も普通に戻っていない。特に生徒会の五人。彼女たちは、この学園の中心だ。君に頼んだのは、この学園の全生徒を普通に戻すことだったはずだ」
俺は言葉に詰まった。
「……まだ……時間は……」
学園長は手を挙げて、俺を制す。
「残りの半年で、生徒会の五人を普通に戻せ。それができなかったら……退学だ。もちろん、フィギュアもなし」
俺は衝撃を受けた。
退学。
フィギュアがない。
何より、エレナと付き合ったばかりなのに……。
学園長はあきれるように笑った。
「……応援はするよ。だが、君の覚悟が足りないようだな。せいぜいがんばれ、みお君」
俺は学園長室を出て、廊下を歩いた。
足が重い。
部屋に戻って、ベッドに倒れ込んだ。
天井を見つめながら、途方に暮れる。
エレナの笑顔。
アリスの「大好き」
生徒会の五人。
半年で、普通に戻す。
俺は……どうすればいい?
胸が苦しい。
でも、諦められない。
エレナと、もっと一緒にいたい。
アリスとも、ちゃんと話したい。
俺は枕を抱きしめて、決めた。
「……絶対に、普通に戻す。みんなを……そして、俺自身も」
夜は深まる。
俺の戦いは、始まったばかりだ。
第十六話です!ありがとうございました!
えーついにエレナが本気の告白をしました!
みおがえぐいことを平然としてやっちゃいました、、彼も心の中では葛藤が生まれてるので許してください!
そして、久しぶりの学園長!すごい要求ですね!
えーそして、十七話では約束通りルナのあのシーンを出すのでお楽しみに!
みおは半年でできるのでしょうか、、




