特別な夜、始まりました。
プールサイドの空気が、夕暮れの柔らかい色に染まり始めた。
水晶の照明が水面に反射して、青白い光が揺れている。
みんなが濡れた髪を拭きながら、ビーチチェアや浮き輪を囲んで座っていた。
俺はラッシュガードのまま、膝を抱えて座っている。
エレナは隣で、タオルを肩にかけながら、俺の顔をちらちら見ている。
アリスは少し離れたところで、膝を抱えてモカちゃんのことを思い出しているような表情。
セレスティアは鎖を鳴らしながら優雅に飲み物を飲んでいる。
リリス会長はビーチチェアに深く腰掛けて、静かに微笑んでいる。
ルナだけが、元気いっぱいに立ち上がった。
「ねえねえ! まだまだ遊び足りないよ~!
せっかくの貸切プールなんだから、もっと楽しいことしようよ!」
ルナが両手を広げて、みんなを見回す。
金髪のショートカットが水滴を飛ばし、フリル付きのスク水が揺れる。
「じゃじゃーん! 『闇の水晶ナイトゲーム』!みんなで夜のプールで、チーム対抗ゲームするの!勝ったチームは、負けたチームに一つだけお願いをするルール!どう? 面白そうでしょ!」
エレナが眉を上げる。
「……ふん。闇の儀式としてなら、悪くないな。だが、ルナ。貴様の提案はいつも無茶苦茶だぞ」
ルナは笑いながら手を振る。
「大丈夫大丈夫!最初は簡単なゲームから!まずは『闇の浮き輪リレー』!流れるプールで、浮き輪に乗って一周するの!
二人一組で、バトンタッチしながら!ペアは……じゃーん!エレナちゃんとみおちゃん!アリスちゃんと私!会長とセレスティアさん!」
俺は一瞬固まった。
「え、俺とエレナ?」
エレナの頰が少し赤くなる。
「……仕方ないな。監視役として、しっかり見守らせてもらうぞ」
ルナが浮き輪を三つ持ってきて、みんなに渡す。
流れるプールはゆっくり回る川みたいで、ライトアップされて幻想的だ。
俺とエレナは同じ浮き輪に乗り、エレナが前、俺が後ろ。
彼女の背中がすぐ近くて、濡れた髪から滴る水が俺の胸に落ちる。
甘いシャンプーの香りがする。
「スタート!」
ルナの合図で、みんなが浮き輪を漕ぎ始める。
エレナが一生懸命に手で水をかく。
俺も一緒に漕ぐけど、エレナの背中が視界を占めて、ちょっと集中できない。
「……みお、もっと漕げ!我々が負けるわけにはいかぬ!」
「わ、わかった!」
浮き輪がゆっくり進む。
アリスとルナのペアは、ルナが元気に漕いで、アリスが小さく手伝っている。
アリスの表情が、少し笑ってる。
会長とセレスティアは、優雅に漕いでいるのに、なぜか速い。
俺たちはなんとか一周して、ゴール。
結果は、会長チームの圧勝。
ルナが「うわー! 負けたー!」と叫ぶ。
「じゃあ、勝ったチームは、負けたチームにお願いを一つ!会長チーム、何かお願いする?」
リリス会長が優雅に微笑む。
「ふむ……では、負けたチームは全員で、闇の水晶プールに『闇の叫び』を捧げよ。一斉に『闇万歳!』と叫ぶのだ」
ルナが「えー!」と文句を言うけど、エレナは真剣に頷く。
「……仕方ない。闇の儀式だ。やるぞ」
みんなでプールサイドに並んで、一斉に叫ぶ。
「闇万歳!」
声が水晶の壁に反響して、響き渡る。
俺もつられて叫んだ。
なんだか、馬鹿馬鹿しいけど……楽しい。
エレナが俺を見て、小さく笑った。
「……貴様、意外と様になってるな」
「まあ……うん」
次のゲームは『闇の宝探し』。
プールの中に沈められた小さな宝箱を探す。
宝箱の中には、みんなの名前が入った紙が入っていて、見つけた人がその人に願い事を一つ言えるルール。
みんなで潜って探す。
俺はエレナと一緒に潜った。
水中で彼女の髪が揺れて、きれいだ。
エレナが宝箱を見つけて、俺に手招きする。
一緒に浮上して、箱を開ける。
中には「みお」の紙。
エレナが俺を見て、照れながら言った。
「……みお。願い事……一つ、聞いてくれ」
俺は頷いた。
「うん。何?」
エレナは少し俯いて、囁く。
「……今夜……一緒に、星を見ながら……話したい」
俺の胸が熱くなった。
「……うん。わかった」
続いて、ルナが見つけたのは「アリス」。
ルナは笑いながらアリスに抱きつく。
「アリスちゃん! 願い事は……これからも、一緒に遊ぼうね!」
アリスは少し照れながら、頷いた。
「……うん」
セレスティアが見つけたのは「ルナ」。
セレスティアは鎖を鳴らしながら言う。
「ふふふ……願い事は、貴様の騒がしさを少し抑えてもらうことだわ」
ルナが「えー!」と叫ぶ。
リリスが見つけたのは「エレナ」。
リリスは優しく微笑む。
「エレナ。願い事は、これからも、人として、強くあれ」
エレナは少し照れて、頷いた。
「……はい、会長」
ゲームが終わって、みんなでプールサイドに座った。
夜のプールは、水晶の光がより幻想的だ。
みんなとは少し離れた場所で、エレナが俺の隣に座り、膝を抱える。
「……みお。今日は……楽しかったな」
俺は頷いた。
「うん。みんなと一緒で、楽しかった」
エレナは少し俯いて、指をいじりながら言った。
「……あの……そのだな……みお」
「ん?」
「……普通のことを……教えてほしい」
俺は少し驚いた。
「普通のこと?」
エレナは頰を赤らめて、続ける。
「……我は……ずっと、闇の姫として生きてきた。普通の女の子が……どうやって、友達と話すのか……どうやって、好きな人に……気持ちを伝えるのか……知らないんだ……」
彼女の声が震える。
俺は胸が熱くなった。
「……エレナ」
エレナは俺を見上げた。
瞳が潤んでいる。
「……教えてほしい……みお。普通の……女の子として……どうしたらいいのか……」
俺は彼女の手を取った。
冷たい手が、俺の温かさで温まる。
「……うん。俺が……ゼロから教えてあげる」
エレナの頰が、さらに赤くなった。
彼女は小さく微笑んだ。
「……ありがとう……みお」
その後、みんなが少しずつ散らばり始めた。
ルナは流れるプールで浮き輪に乗りながら歌い、アリスは浅いところで足をぱちゃぱちゃさせている。
セレスティアはジェットバスで鎖を鳴らしながらリラックス。
リリス会長はビーチチェアで本を読んでいる。
エレナは俺の手を引いて、プールの端にある小さな階段を上った。
「……こっちに来い。星が見える場所がある」
階段を上ると、そこはプールの屋上部分。
ガラスドームの天井越しに、夜空が見える。
水晶の光が抑えられ、星がきれいに輝いている。
エレナは俺を連れて、ドームの端にあるベンチに座った。
二人は肩を寄せ合うように座る。
エレナの濡れた髪から滴る水が、俺の肩に落ちる。
彼女は膝を抱えて、星を見上げた。
「……みお。普通の女の子は……こんなとき、何を話すんだ?」
俺は少し考えて、答えた。
「そうだな……好きなこととか、嫌いなこととか……将来の夢とか……あとは、今日楽しかったこととか」
エレナは頷いて、俺を見た。
「……では……わたしから。今日、一番楽しかったのは……みおと一緒に浮き輪に乗ったことだ。貴様の胸が……すぐ後ろにあって……安心した」
俺の胸が熱くなった。
「……俺も。エレナと一緒に浮き輪に乗ったとき、楽しかった。エレナの笑顔が見れて……嬉しかった」
エレナは頰を赤らめて、目を逸らす。
「……馬鹿……そんなこと……言うな……」
でも、彼女の手が、俺の手をそっと握る。
指が絡む。
俺は彼女の手を握り返した。
「……エレナ。普通の女の子は、好きな人に……こうやって、手を繋ぐんだよ」
エレナはびくりと肩を震わせた。
でも、離さない。
「……そう……なのか……」
俺は星を見上げながら、言った。
「うん。そして……気持ちを、素直に伝える」
エレナは俺を見上げた。
瞳が潤んでいる。
「……みお。わたしは……みお……のことが……」
言葉を途中で切る。
エレナは深呼吸して、続ける。
「……好き……かもしれない」
俺の心臓が、大きく跳ねた。
エレナの頰が、真っ赤になる。
俺は彼女の手を強く握った。
「……俺も……エレナのこと……特別だと思ってる」
エレナは目を閉じて、俺の肩に頭を預けた。
静かな夜。
水晶の光と星の光が、俺たちを包む。
エレナの普通は、まだ始まったばかりだ。
俺は、彼女に、もっと教えてあげたいと思った。
この学園で、正気を保つのは大変だ。
だけど俺は、彼女の側にいたい。
水面が静かに揺れる。
夏の夜は、まだ長い。
第十五話です!ありがとうございました!
ついに!!エレナがみおに気持ちを伝えました!そして、普通について興味がでてきました!
これで、やっとみおの目標一歩前進です!
次の話は、エレナとの日常がメインになります!お楽しみに!
追記(十七話では、ついにルナが、、、、しちゃいます!)




