本音、始まりました。
いつものように、昼休みの食堂で俺はエレナと向かい合って座っていた。
トレイに載せた日替わり定食――今日は鶏のから揚げと野菜炒め、味噌汁付き。
エレナはいつものように、自分のトレイを俺の隣に置き、箸を手にしながら宣言した。
「影の眷属・みお。今日も我が監視の下で食事をせよ。貴様の光が、わずかでも残っている限り、我は決して目を離さぬ」
「はいはい。いただきます、椎名」
「……っ!またその名を……」
エレナは箸を止めて、顔を少し赤らめて俺を睨んだ。
でも、その目は少し柔らかくて、初めて本名を呼んだときのような殺気は感じない。
むしろ、最近この表情が増えた気がする。
少し照れたような、でも嬉しいような、、そんな感じ。
俺はから揚げを口に運びながら、ふと思った。
エレナは慌てて視線を逸らし、味噌汁を啜った。
でも、頰がまだ赤い。
食堂の喧騒の中で、俺たちは静かに食事を進めていた。
エレナが時々俺の顔をちらちら見てるのに気づいたけど、指摘せずに黙っていた。
そんな平和な昼休みが、突然乱された。
「やっほー!エレナちゃん、みおちゃん!一緒に食べていい~?」
元気いっぱいの声が響いて、ルナ・シルヴァーナがトレイを持ってやってきた。
ショートカットの金髪を揺らして、骸骨リングをジャラジャラ鳴らしながら、許可してないのに笑顔で俺たちのテーブルに座る。
エレナは少し眉を寄せた。
「ルナ。貴様、何か企んでいるな。その顔、悪戯の予感がする」
「えー!そんなことないよ~!ただ、一緒に食べたかっただけだって!でも~見て見て、これ!」
ルナは笑いながら、ポケットから小さなコインを取り出した。
古びた銀色のコインで、表面に謎の紋章みたいなものが刻まれている。
ルナはそれを紐に通して、振り子のようにぶら下げた。
「これ、すごいんだよ!『闇の暗示のコイン』って言うの!生徒会の倉庫から見つけたんだ!これを揺らして見せると、相手が催眠状態になって、なんでも答えてくれるんだって!」
エレナがため息をつく。
「ふん。そんなおもちゃに、闇の姫たる我が引っかかるわけがないだろ」
ルナはにやりと笑って、コインをエレナの目の前でゆっくり揺らし始めた。
コインが左右に揺れ、光を反射してキラキラ光る。
「エレナちゃん、見て~。このコインを、じーっと見てて。ゆらゆら……ゆらゆら……心が、深い闇に溶けていくよ……」
エレナは最初、嘲るように見ていた。
でも、徐々に瞳がぼんやりしてきて、表情が緩む。
俺は思わず箸を止めた。
「……エレナ?」
エレナの目が、コインに釘付けになる。
体が少し前かがみになって、肩の力が抜ける。
ルナが低く囁く。
「エレナちゃん、今から貴方は、私の言葉に素直に答えるよ。まず、本名を、敬語で言ってごらん」
エレナの唇が、ゆっくり開く。
「……わたしの本名は……黒崎椎名……です……」
俺は目を丸くした。
エレナの声が、いつもの威圧的なものじゃなくて、丁寧で上品な敬語。
まるで別人だ。
俺は驚いて立ち上がりそうになった。
「え、エレナ!?おい、ルナ! 何したんだよ!」
ルナは笑いながら俺を制す。
「しーっ!催眠状態なんだよ!面白いよね~!じゃあ、次!エレナちゃん、今気になってる人、誰?その人のどこが気になってるのかも、教えて~!」
エレナの頰が、少し赤くなる。
彼女はぼんやりした目で、俺の方を見て、ゆっくり言った。
「……わたしが……気になっている人は……本城みお……です……彼女の……優しいところが……気になります……いつも……わたしを……守ってくれる……温かさが……忘れられません……みおの……笑顔が……胸を……熱くします……」
俺は完全に固まった。
エレナの言葉が、俺の耳に響く。
気になってる人……俺?
エレナの目が、ぼんやり俺を見つめている。
頰が赤くて、唇が少し震えている。
俺は胸が熱くなって、言葉が出ない。
「え……俺……?」
ルナが大笑いする。
「わー!エレナちゃん、みおちゃんのこと気になってるんだ~!超可愛い!どこが好き?もっと詳しく!」
エレナはさらに赤くなって、敬語で続ける。
「……みおの……優しい声が……好きです……わたしの……本当の名前を呼んでくれるとき……胸が……ドキドキします……彼女の……手が……触れると……体が……熱くなって……わたし……ずっとみおの……側に……いたいんです……」
俺は顔が熱くなった。
エレナの言葉が、直球すぎて、胸に刺さる。
エレナはいつも強気なのに、こんな気持ちを抱いてたのか。
だが、俺は、、彼女のことを、どう思ってる?
まだ、好きとは言えないけど……この熱さは、一体何だ?
その瞬間、エレナの目がぱちりと瞬き、意識が戻った。
彼女は自分の口にした言葉を思い出したのか、顔が真っ赤になって、立ち上がった。
「……っ!わ、わたし……何を……!ルナ! 貴様、何をした!」
エレナはルナに詰め寄る。
頰が耳まで赤くて、目が少し潤んでいる。
恥ずかしさが爆発したみたいだ。
ルナは笑いながら後ずさり。
「えへへ!催眠のコインだよ~!エレナちゃんの本音、聞けちゃった!みおちゃん、よかったね~!」
エレナはコインをルナから奪い取り、逆襲に転じた。
「……ふん!貴様に使ってやる!このコインで……貴様の本音を暴いてやる!」
ルナは慌てて逃げようとする。
「わー!待って、エレナちゃん!それはマジでヤバいよ!」
エレナはルナの腕を掴んで、逃がさない。
「逃げるな!ゆらゆら……ゆらゆら……心が深い闇に溶けていく……本名を、敬語で言え!」
ルナの目が、コインに釘付けになり、ぼんやりする。
ルナがゆっくり口を開く。
「……わたしの本名は……中条まな……です……」
俺は少し驚いた。
普通の名前だ。
エレナはさらに質問。
「追加で、一番の友達は誰だ?」
ルナの頰が赤くなり、ぼんやり答える。
「……一番の友達は……エレナ……です……エレナの……強くて優しいところが……好きです……いつも……一緒にいてくれて……嬉しいです……」
エレナの目が少し驚いたように見開く。
ルナの意識が戻り、顔が真っ赤になる。
「……っ!わ、わたし……もしかして……!エレナちゃん、ひどい!」
ルナはコインをエレナから奪い返し、逃げるように食堂を出ていった。
残された俺とエレナは無言でテーブルに向かい合った。
エレナの顔はまだ赤く、箸を持つ手が震えている。
俺は味噌汁を啜りながら、待った。
エレナがしびれを切らして、口を開く。
「あ、あれは催眠だ!本当の気持ちじゃない!貴様のことなど気にしてない!ただ監視対象だから側にいるだけだ!分かったな!」
必死の言い訳。
目が泳いで、頰が赤い。
俺は納得したふりをして、頷いた。
「うん。分かったよ。気にしない」
エレナはホッとしたように息を吐き、食事を再開した。
でも、時々俺をちらちら見る視線が、さっきよりも熱い。
その日の夜、俺は寮のベッドで天井を見つめていた。
エレナの言葉が、頭を回る。
催眠の本音。
エレナは俺のことを、気にしてる。
俺は男だ。エレナは女。
この学園では、俺は女だと思われてるけど……。
胸の奥が熱い。
これは……好き……なのか?
まだ、分からない。
でも、エレナの赤い頰と、震える声が、頭から離れなかった。
第十二話です!ありがとうございました!
催眠によって本当の気持ちをみおに聞かれたエレナ。彼女は催眠ではなく本当の気持ちをみおに伝えることができるのでしょうか?
そしてルナの本名がここで発覚しました!ルナもいい子なので温かく見守ってください!
第十三話ではみおの心情について深く触れていきたいと思います!
でも、みおはフィギュアの好きな男です!それは忘れないでください!
では十三話でお会いしましょう!




