恐怖の湯、始まりました。
十話なのでサービス回です!
朝の教室で、俺はいつものように窓際の席に座っていた。
体育祭から数日経って、ようやく日常が戻ってきた……と思っていた矢先だった。
エレナが勢いよく俺の机に両手をついて、顔を近づけてきた。
「影の眷属・みお!今宵、我々生徒会は学園内の『闇の湯』へ向かう。貴様も同行せよ!」
「……は?」
俺は一瞬、言葉を失った。
「闇の湯……って、温泉?」
「然り。学園の地下深くに存在する、永遠の闇に守られた秘湯だ。今宵は生徒会だけの貸切。貴様の光を、湯の闇で浄化する儀式を行う」
エレナの目は本気だった。
頰が少し赤いのは、興奮してるのか、それとも……。
「いや、俺は……パスでいいよ。疲れてるし」
「拒否は許されぬ!監視役として、貴様を一瞬たりとも離さぬ!」
エレナが俺の腕を掴む。
前も感じたが本当に力強い。
周りのクラスメイトが「おお……」「転校生ちゃん、生徒会と温泉?」「羨ましい……」とざわつく。
俺は必死で抵抗した。
「待って! 俺、男だから!温泉とか無理!」
エレナは一瞬、ぽかんとした顔をした。
「……男?貴様……女の子ではないのか?」
「いや、男だよ!最初から言ってるじゃん!名前がみおでもって……」
エレナは俺を上から下までじっくり見つめ、首を傾げた。
「……ふん。光の残滓が強すぎて、闇の瞳では見えぬだけだ。いずれにせよ、貴様は我が監視対象。来るがいい」
「いやいやいや!」
結局、無駄だった。
強制的に生徒会室に連れてかれた。
そこで、リリス会長の「拒否は闇の掟に反する」という一言で最終決定。
セレスティアが「光の残滓を湯で浄化するのは、闇の儀式に必要」と笑い、ルナが「やったー! 温泉だー!」と飛び跳ね、アリスが「……当然だ」と淡々と頷く。
俺は完全に逃げ場を失った。
夕方、学園の地下に続く隠し通路を下りていく。
石畳の階段を降りると、蒸気が立ち上る大きな扉。
扉を開けると、そこは本当に豪華な温泉施設だった。
天井が高く、黒い岩肌を模した壁に、赤と金の装飾。
温泉の入り口の前に行くと中央に巨大な露天風呂が見える。
湯気が立ち上り、月光のような照明が水面を照らしている。
周りには岩風呂、檜風呂、ジェットバス、寝湯、サウナ、休憩スペース。
さらに温泉の隣にはマッサージルーム。
屋上には涼しめる広場もあるみたいだ。
地下なのに凄すぎる。
俺はあっけにとられた。
しかも、すべて貸切で、もちろん無料。
学園の財力、恐るべし。
「さあ、早速、行くぞ」
エレナが俺の手を引く。
俺は必死で抵抗した。
「いや、俺は……風呂入らない!外で待ってる!」
「何を言う!
儀式だぞ!」
「儀式とか知らない!俺、男だから!女湯絶対無理!」
アリスが淡々と口を挟む。
「……貴様は女だ。どこに問題がある?」
「いや、本当に問題しかないよ!」
結局、俺は強引に脱衣所まで連れて行かれた。
女子脱衣所。
タオルと浴衣が用意されている。
俺は最後の抵抗として、
「俺、外で待ってる!マッサージフロアとか屋上とかで時間潰す!」と宣言して、脱衣所から逃げ出した。
エレナの「待て!」という声が背中に響くが、無視。
廊下を走ってたら、マッサージフロアへ着いた。
そこは個室マッサージルームが並ぶエリア。
ちょうどよかったのでマッサージをすることにした。
アロマの香りが漂い、静かなBGM。
俺は空いている部屋に入り、ベッドに横になった。
「……ふう。なんとか逃げ切った」
マッサージ師(学園の用務員さんらしい)が来て、肩を揉んでくれた。
指圧が強めで、凝りがほぐれる。
そのまま一時間ほど満喫。
次は屋上へ。
屋上は小さな露天風呂と休憩スペースがあった。
地下にある綺麗な鉱石が輝き、湯気が立ち上る。
俺はベンチに座って、鉱石を見た。
少し冷たい風が心地いい。
遠くから湯の音と、時々聞こえる生徒会員たちの笑い声。
「とても満足した」
もう十分楽しんだので、風呂の入り口前にあるソファへ。
ここでみんなが出てくるのを待つことにした。
ソファに座って、ぼーっと天井を見上げる。
三十分ほど経った頃、女湯の扉が勢いよく開いた。
「……ひっ……!」
泣きそうな顔で飛び出してきたのは、アリスだった。
タオル一枚。
黒髪が濡れて肌に張りつき、眼鏡を外した顔が幼く見える。
頰は真っ赤で、瞳は涙で潤んでいる。
彼女は俺を見つけると、迷わず胸に飛び込んできた。
「みお……!」
アリスの体が震えている。
タオル一枚の体が、俺に密着する。
柔らかい感触。
濡れた髪の香り。
温かい肌。
俺は一瞬、頭が真っ白になった。
「……アリス!? どうした!?」
アリスは俺の胸に顔を埋めて、震える声で言った。
「……怖い……誰かが……仮面つけて……笑って……」
彼女の体が小刻みに震え、息が荒い。
俺はアリスを抱きしめながら、女湯の入り口を見た。
ゆっくりと扉が開く。
そこから出てきたのは、、殺人鬼の仮面をつけたリリス会長だった。
白いホッケーマスクのような仮面。
タオルの上から深紅のマントを羽織ったまま、ゆっくり歩いてくる。
仮面の下から、低い笑い声。
「ふふふ……アリスよ。闇の儀式は、まだ終わっていないぞ……」
アリスが俺の胸でびくりと震えた。
彼女の顔が青ざめ、瞳が恐怖で揺れる。
唇が震え、歯を食いしばる。
「……いや……やめて……」
アリスの声が小さくなる。
体が脱力し、俺の胸に体重を預ける。
「……あ……」
小さな声。
アリスの体がさらに震え、温かいものが俺の制服に広がった。
「……漏ら……しちゃった……」
アリスが泣きそうな声で呟く。
彼女の頰に涙が伝う。
瞳が恐怖と恥ずかしさでいっぱいに見えた。
俺は慌てて彼女を抱き上げた。
「大丈夫! 俺がいるから!気にしないで!」
リリス会長が仮面を外す。
いつもの美しい顔が現れる。
彼女は苦笑しながら近づいてきた。
「……すまぬ、アリス。少し、驚かせすぎたか。仮面遊びは、闇の湯の伝統的な余興だったのだが……確かに、アリスは今回が初参加だったか」
アリスは俺の胸で震えながら、顔を上げた。
「……会長……ひどい……怖かった……モカちゃん……持ってきてなくて……」
アリスの声が途切れ途切れ。
リリスは優しくアリスを抱き上げ、背中を撫でる。
「悪かった。私の悪戯が過ぎた。戻ろう、アリス。湯で体を温めて、落ち着こう」
アリスは小さく頷き、リリスに抱えられて女湯に戻っていった。
彼女の震える肩と、涙で濡れた頰が、俺の胸に焼きついた。
俺は呆然とその場に残された。
幸いアリスの漏らしたものは俺の制服がすべて吸収したから床には垂れてなかった。
「……何だったんだ、今の」
ソファに座り直すと、エレナが出てきた。
タオル姿で髪を拭きながら。
「……みお。アリスが……どうした?」
「会長が仮面つけて出てきて……アリスが怖がって……その、漏らしちゃって……」
エレナはため息をついた。
「……会長の『闇の仮面遊び』か。またやったのだな。アリスはああいうのが苦手なのに……会長は時々、悪戯が過ぎる」
俺はアリスの泣き顔を思い出し、胸が痛くなった。
「……アリス、大丈夫かな」
エレナが俺の隣に座る。
タオル姿の彼女の肩が、濡れて光っている。
「……大丈夫だ。会長がちゃんと謝罪してる。それより……貴様、風呂に入らなかったのか?」
「うん。外で待ってた」
エレナは少し残念そうに頷いた。
「……そうか。次は……一緒に、入りたいな」
俺は一瞬、言葉に詰まった。
「……え?」
エレナは顔を赤らめて、視線を逸らす。
「……何でもない。忘れろ」
でも、彼女の耳が真っ赤だ。
俺は胸の奥が熱くなるのを感じた。
その後、セレスティアとルナも出てきた。
セレスティアは鎖を鳴らしながら、にやりと笑う。
「ふふふ……アリスは会長に連れ戻されたわね。仮面遊び、今年も成功ね」
ルナが飛び跳ねる。
「アリスちゃん、びっくりしてたね~!でも、会長の仮面、かっこよかったよ!」
俺はため息をついた。
「……みんな、悪戯が過ぎるよ」
エレナが俺の袖を軽く引く。
「……貴様は、優しいな。アリスのこと、心配して……」
俺は頷いた。
「うん。アリス、怖がってたから」
エレナは少し俯いて、呟いた。
「……貴様は……本当に、優しすぎる」
その夜、寮に戻ってから制服を洗ってるときも、アリスの泣き顔と、あの姿が頭から離れなかった。
第十話ありがとうございました!
いよいよ生徒会5人のうち2人がみおの前で漏らしちゃいましたね、、
果たして、あと3人は我慢できるのでしょうか??
十話ではアリスの弱さを存分に見せれたと思います!
十一話では、アリス視点で話を書きたいと思うので、アリスがどんなことを思ってるのか書けたらなと思ってます!
お楽しみに!




