熱戦、始まりました。
朝の寮室で、俺はベッドに寝たまま体育祭のことを考えていた。
今日が本番だ。
「闇の祭典」――厨二病全開の名前だけど、要は学園体育祭。
全学年合同で、クラス奇数・偶数でチーム分け。
俺は奇数チームで、どうやら二年生のアリス・シャドウと同じチームになるらしい。
ちなみに、リリスもセレスティアもルナも偶数クラスだ。
だから、今回は敵になる。
だけど、練習のときのことを思い出すと、胸が少しざわつく。
あの女子トイレの事故。
アリスの甘い声と、ぬいぐるみを抱きしめる姿。
あの秘密を、俺だけが知ってる。絶対に守り抜く。
でも、今日一緒に競技すると思うと、なんとなく意識してしまう。
それから、もう一つの記憶が浮かぶ。
昨日の舞踏会。エレナの黒いドレス。赤くなった頰。
俺のリードを優しく導いてくれた手。
「……貴様と踊れて……嬉しかった……」
あの小さな声が、まだ耳に残ってる。
胸の奥が、じんわり熱くなる。
これは好きという気持ちではない、、と思う。
でも、あんな顔を見せられると……何か、特別なものが芽生えかけてる気がする。
俺は洗面所に行き、顔を冷たい水で洗った。
そして、アリスの秘密を知ってしまった原因を思い出した。
「……またあんな目にあいたくない」
エレナに引っ張られて女子更衣室に連行されたら終わりだ。
だから、いまのうちに体操服に着替えておくことにした。
男子用の紺のジャージ。
上着の袖をまくり、ズボンの裾を少し折って調整。
鏡で確認すると、やっぱり女の子っぽく見えるけど……仕方ない。
この学園では、これが俺なのだ。
朝食の時間。
食堂に向かうと、エレナがすでにいつもの席に座っていた。
トレイにご飯に味噌汁と納豆、それに焼き魚。
彼女は俺を見た瞬間、目を丸くした。
「……影の眷属・みお。なぜ、もう体操服なのだ?」
「え? あー……早めに着替えたかっただけ。更衣室混むじゃん?」
俺は適当にごまかして隣に座った。
エレナは怪訝そうに俺を上から下まで見つめる。
「……ふん。まあ、いい。今日は、我が監視の下で闇の祭典に臨むがいい」
「うん。よろしく」
エレナは少し頰を膨らませたけど、それ以上追及しなかった。
俺は内心でホッとした。
これで更衣室回避成功だ。
食べ終わって教室へ。
担任が黒板の前に立って、激励の言葉を述べる。
「今日の闇の祭典で、我々奇数チームは偶数チームを打ち砕く。魂を込めて、影の力を示せ!……まあ、楽しんでこい」
クラス中が「闇万歳!」と叫ぶ中、俺は静かに頷いた。
更衣室へ行く生徒たちを見送り、俺はすでに体操服を着てるのでそのまま運動場へ。
グラウンドはすでに人で溢れていた。
奇数チームと偶数チームに分かれ、テントが二つ。
俺は奇数チームのテントへ。
そこに、二年生のアリス・シャドウがいた。
黒髪ポニーテール、眼鏡。
体操服姿でもクールな雰囲気は変わらない。
彼女はテントの隅でノートに何かを書き込んでいた。
俺が入ると、視線を上げた。
「……影の眷属・みお。同じチームだな」
「うん。よろしく、アリス」
アリスは眼鏡を押し上げ、淡々と答える。
「……当然だ。闇の祭典で、勝利を収める。貴様の光は……邪魔にならぬよう、努めよ」
俺は少し笑った。
「がんばるよ。アリスも、がんばって」
アリスは一瞬、俺をじっと見た。
「……ふん。貴様に言われずとも」
声は冷たいけど、どこか柔らかく聞こえた。
俺は彼女の隣に座った。
「アリスって、すごく真面目だよね。帳簿とか、いつもちゃんとやってるし」
「……当然だ。闇の帳簿を司る者として、完璧を期す」
アリスはノートを閉じ、俺を見た。
「……貴様は……変わっているな。光の残滓のはずなのに……闇に染まろうとしない」
「俺は俺だから。アリスも……本当は、優しいよね」
アリスは一瞬、目を逸らした。
「……何を言っている。私は闇の者だ。優しさなど……不要」
でも、頰が少し赤い。
俺はこの前の「モカちゃん」の声を思い出し、胸が温かくなった。
「……うん。でも、俺はアリスのそういうところ好きだよ。」
アリスはびくりと肩を震わせ、眼鏡を押し上げた。
「……ふ、ふざけるな。貴様の光が……幻想を引き起こしてるだけだ」
会話はそこで終わったけど、アリスの視線が少し柔らかくなった気がした。
そして、体育祭本番が始まった。
一つ目の競技:「闇の障壁突破」、普通の障害物競走。
ネットくぐり、平均台渡り、玉入れ。の三つが障害となる。
そこで、俺たちのチームは、エレナが大活躍。
ネットをくぐるとき、マントのように体操服の裾を翻して華麗に突破。
平均台ではバランスを崩さず、優雅に渡る。
最後は玉入れで、正確無比に玉を投げてチームを勝利に導いた。
「さすがエレナ様!」
観客席(生徒たち)が沸く。
エレナは俺を見て、胸を張った。
「……当然だ。貴様も、次はちゃんとやれ」
二つ目の競技:「影の力比べ」、普通の綱引き。
奇数チーム vs 偶数チーム。
各チーム8人ずつ出して、勝負する。
奇数チームではアリスが指揮官となった。
彼女は静かに綱を握り、眼鏡の奥で集中。
「引け……闇の力で……」
アリスの声は小さいけど、力強い。
アリス含め全員が一斉に引く。
アリスの足が地面に食い込み、綱がゆっくり動く。
最後はアリスが一気に力を込め、奇数チームを勝利に導いた。
「……ふん。これが、闇の帳簿を司る者の力だ」
アリスが淡々と呟く。
俺は彼女に近づいて、親指を立てた。
「アリス、すごかったよ」
「……当然だ」
彼女は少し頰を赤らめて、視線を逸らした。
午前の競技が終わり、昼休み。
食堂に向かうと、エレナがすでに席を取っていた。
俺が座ると、彼女がトレイを差し出す。
「貴様の分も取っておいた。食べろ」
「ありがとう」
食べながら、午前のことを振り返る。
「エレナの活躍、すごかったね。チーム勝てたの、エレナのおかげだよ」
「……ふん。当然だ。だが、貴様も悪くなかったぞ」
エレナの頰が少し赤い。
そこに、アリスがトレイを持って近づいてきた。
「……ここ、いいか」
「もちろん」
アリスが隣に座る。
三人でテーブルを囲む。
少し気まずい沈黙。
俺が切り出した。
「アリスも、綱引きすごかった。指揮官として、チーム引っ張ってくれたよね」
「……当然だ。闇の力比べで、負けるわけにはいかぬ」
エレナがアリスを見て、言った。
「アリス。貴様の力は、確かに強かった。だが、次は、また我がチームを勝たせる」
「……ふん。受けて立つ」
アリスが淡々と答える。
でも、俺を見ると、少し視線が柔らかい。
「……影の眷属・みお。貴様は……意外と、邪魔にならぬな」
「ありがとう。アリスと一緒にチームでよかったよ」
アリスは眼鏡を押し上げ、頰を少し赤らめた。
「……ふざけるな。光の残滓が……」
でも、声が優しい。
俺は昨日の「モカちゃん」の声を思い出し、微笑んだ。
アリスは気づかず、トレイの納豆を食べ始める。
午後の競技。
試合は思ったより白熱して最後の競技で勝敗が決まる。
最終競技は「闇の疾走」、普通のリレー。
各チーム3人を出して勝負する。
3人って少ないと思ったが、この学園の伝統らしい。
俺たちのチームは、エレナ→俺→アリスの順。
対する偶数チームのアンカーはセレスティア副会長。
スタートの合図。
エレナが抜群のスタートダッシュ。
トップでバトンを俺に渡す。
「貴様! 絶対に遅れるな!」
「わかった!」
俺は全力で走る。
風を切ってトラックを駆ける。
セレスティアの鎖が鳴る音がだんだん近くなる。
俺は必死で走り抜き、アリスにバトンを渡す。
同時にセレスティアもバトンを受け取った。
「アリス! 頼む!」
アリスがバトンを受け取り、静かに加速。
彼女の走りは、無駄がない。
眼鏡の奥の瞳が、鋭く前を見る。
「……闇の疾走……副女王を……追い抜け……」
アリスがセレスティアに並ぶ。
最後の直線。
アリスが一気に加速。
セレスティアも負けじと鎖を鳴らして追い上げる。
「負けない……!」
アリスの声が、初めて熱を帯びる。
俺はゴールラインで叫んだ。
「アリス! 行け!」
アリスが最後の力を振り絞る。
セレスティアの鎖が鳴り響く。
二人がほぼ同時にゴール。
判定は……僅差で、奇数チームの勝利。
アリスが息を切らして立ち止まる。
俺が駆け寄って、ハイタッチ。
「アリス、すごかった!」
「……ふん。当然だ」
でも、彼女の頰が赤い。
眼鏡の奥で、瞳が少し潤んでいる。
エレナが俺の肩を叩く。
「……貴様も、悪くなかったぞ」
俺は二人を見て、胸が熱くなった。
体育祭は終わった。
優勝は奇数チーム。
表彰式で、リリス会長が俺たちにメダルを掛ける。
「影の眷属・みお。貴様の光は……少し、闇に近づいたな」
俺は笑った。
「まだ、まだだよ」
俺の隣に立ってるがアリスが、小声で呟く。
「……ありがとう……影の眷属・みお」
俺は彼女を見て、頷いた。
「こちらこそ。アリス」
この学園で、正気を保つのは相変わらず大変だ。
いつ、俺もああなってしまうかハラハラする。
だけど、こんな仲間がいるなら、しばらくは普通に戻さなくていいかもと、思ってしまった一日だった。
第九話です!ありがとうございました!
体育祭です!
ちょっとずつアリスとの仲が深まってきましたね!
2話連続で、恋愛部分にフォーカスを当てたので次はもっとコミカルにしたいと思ってるのでお楽しみに!




