プロローグ
「ふふふ……新しき転校生よ。貴様の名は本城みお、だったか? その名には微かな魔力が宿っているようだな。だが、まだ未熟。私の『漆黒の瞳』は、すべてを見通す!」
教室の片隅で黒いマントのようなものを羽織った女子生徒がにやりと笑いながら俺に迫ってきた。長い黒髪を靳し瞳を細めて「威圧」しているつもりらしい。クラス中の視線が集まる中、彼女は両手を広げて大仰に宣言した。
「我が名はエレナ・クロウリー! 闇の血族に連なる者。この学園に新たなる闇の波動を感じたゆえ、貴様を試すために現れたのだ!」
……へいへい。
俺、本城みおは、内心で深いため息をついた。
確かに、見た目はめちゃくちゃ可愛い。整った顔立ちに、透明感のある白い肌。スタイルもいい。髪はサラサラで、制服の着こなしもどこか品がある。普通の学園なら間違いなくクラスのマドンナ枠だ。
なのに、なんでこんなに残念なんだろう。
「エレナ」ことクラスメイトの彼女は、俺の机に両手をバンと叩きつけてさらに続ける。
「貴様の瞳には、まだ光が残っている。それが許せぬ! 今ここで、闇に染めてやろうではないか!」
周りのクラスメイトたちが「おお……」「さすがエレナ様」「新入りが闇に落ちる瞬間を見られるなんて……」と囁き合う。みんな真剣な顔だ。本気で言っているのだ。
俺は静かに顔を上げ、できるだけ平静を保って答えた。
「……悪いけど、俺は普通に授業受けたいんだけど。」
その瞬間、教室が凍りついた。
エレナの瞳が大きく見開かれる。
「な、なんだと……? 貴様、普通などと……この学園で、そんな言葉を口にするとは……!」
彼女の声が震えている。怒りと驚きのさまざまな感情が混じっているように見えた。
はあ、もう。
俺は小さく頭を抱え、ため息をした。
――やっぱり、引き受けるんじゃなかった。そう思うと、自然と記憶が蘇る。
転校初日。
学園に到着したのは、朝の八時頃だった。
山奥に建つ荘厳な石造りの校舎。門をくぐると広大な敷地に寮舎やレストランやカフェや本屋などが揃っている。まるで小さな街のようだ。スマホの電波は圏外。Wi-Fiの痕跡すらない。まさに外界から完全に切り離された場所。
「ここが君の新しい学園だよ。本城みお君」
送迎の車から降り、出迎えてくれたのは学園長だった。白髪に眼鏡、穏やかな笑顔。でも、どこか疲れ切ったような表情が印象的だった。
「親御さんからはいろいろ話を聞いてるよ。君ならきっとうまくやってくれると信じている。」
……親御さん、ね。
俺は内心で舌打ちした。
確かに、母は「素晴らしい教育環境だから」と熱心に勧めてきた。父も「男として自立するいい機会だ」とか言ってた。でも、なんかおかしいと思ってたんだよな。急な転校だし、詳しい話は一切してくれないし。
学園長に案内されて向かったのは、学園長室。重厚な木の扉を開けると、広い部屋に大量の本と、なぜかフィギュアのコレクションが並んでいた。
俺の目が、思わずその棚に釘付けになる。
「……あれ、最新の『魔法少女リリカル☆なのは』の限定フィギュアじゃないですか」
「ほう、君も分かるのか。いい目してるね」
学園長はにこりと笑い、俺を椅子に座らせた。そして、突然真顔になって言った。
「実は、君に頼みたいことがある」
「……はい?」
「この学園の生徒たちを、救ってほしい」
救う?
俺が首を傾げると、学園長は深いため息をついた。
「この学園は昔は非常に厳格な全寮制の進学校だった。外部との接触を極力避け、3年間集中して学問に打ち込むことを目的としていた。だからこそネットも電話も一切通じない。卒業まで外出も許されない」
「それだけなら、まだ普通のスパルタ校ですよね?」
「だが、十数年前に事件が起きた。ある卒業生が、外部からアニメのビデオテープを密かに持ち込んだ。それがきっかけで……生徒たちの間に、ある『病』が広がってしまった」
「病?」
「いわゆる、『厨二病』というやつだ」
俺は一瞬、言葉を失った。
厨二病。俺も中学時代は少しだけ通った道だ。黒歴史ってやつだ。でも、今どきそんなことで、、
「最初は数人だった。それが外部情報が一切入らない閉鎖環境ゆえにどんどん増殖していった。今では先生たちを除く全生徒が本気で厨二病に冒されている。」
学園長は真剣な顔で続けた。
「彼らは本名を嫌い、自称する『暗黒名』でしか名乗らない。本名で呼べば激怒する。授業中も突然『封印が解けた』とか言い出して立ち上がる。さらに、卒業生は社会に出てから苦労しているらしい。まともに就職できない者も多いと聞く。」
俺は呆然としながら聞いた。
「先生たちだけでは、もう手に負えない。そこで、緊急会議を開き急遽。外部から新鮮な視点を持った生徒を入れることにした。君に、全員の厨二病を解消してもらいたい。」
「……俺に、しかも全員、、ですか?」
「そうだ。君は、親御さんから聞いたが厨二病を経験しつつもちゃんと抜け出せた人間だ。しかも、見た目が……その、非常に中性的で可愛らしい。だから、彼らに受け入れられやすいだろうと」
可愛らしいって言うな。
俺は自分の容姿を恨めしく思ってる。
本城みお。名前は完全に女の子。親が「どうしてもこの名前にしたかった」と頑なだったらしい。身長は158cm。顔も童顔で、髪も少し長めだから、初対面では九割がた女の子と間違われる。でも、俺は男だ。証拠に下半身に小さいけどちゃんとついてる。
学園長は俺の顔をうかがいながら話を続けてきた。
「もちろん、無報酬では酷だろう。だから、これを約束しよう。」
学園長が棚から取り出したのは俺がずっと欲しかったフィギュアのフルセット。未開封。限定生産。ネットオークションでも高額で取引されているやつだ。
「……これを、全部?」
「卒業までに生徒たちの半数以上が普通に戻ったらすべて君のものだ。全員ならさらにボーナスもつけよう」
喉から手が出るほど欲しかった。
俺は、悩んだ。ほんの一瞬だけど。
「……引き受けます」
学園長はほっとしたように笑った。
「ありがとう。君ならできると信じているよ」
あのときの選択が、今、俺を苦しめている。
「……貴様、普通などと言ったな」
エレナの声で、俺は現実に引き戻された。
彼女の瞳が、闇のオーラ(に見えるなにか)を放っている。クラスメイトたちもざわめき始めた。
「エレナ様が本気を出される」「転校生、終わったな……」
俺はゆっくりと立ち上がり、エレナを見据えた。
正気を保つために俺はどうすればいいんだろうか。
この学園で俺だけがまともでいられるのか。
それとも俺も昔に戻ってこいつらと一緒になってしまうのか、、?
そう考えるだけで背筋が凍ったが、とりあえず、今は
「……エレナさん、席に戻ったほうがいいんじゃない? もうすぐHR始まるよ」
教室が再び静まり返った。
エレナの顔が真っ赤になる。
「き、貴様……私に命令をしたな……!」
ああ、もう。
本当にものすごく後悔してる。
こんなやつを一般人に戻す?無理に決まってるな。
俺の学園生活は人生最悪の3年間になりそうだ、、、
プロローグを読んでいただいてありがとうございます!
今までにないラブコメを楽しんでもらえたらなと思ってます!




