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07 引きこもり伯爵令嬢、挨拶をする

馬車はやがて石畳の道を抜け、静かな屋敷街の奥で止まった。

外の世界に慣れていないセシルは、窓からそっと顔を出し、思わず目を丸くする。


(ひ、広い……!ていうか、静かすぎない!?)


整えられた庭園、手入れの行き届いた噴水、そして重厚な扉。

さすが帝国騎士団副団長の邸宅。

立派すぎて、引きこもり令嬢には眩しすぎた。


ド田舎の伯爵家とは大違いだ。



扉が開くと、年配の執事が深々と頭を下げた。

「お帰りなさいませ、アラン様」


「うむ。今日から一人、滞在者を迎える。話していただろう?」


「滞在者……」執事の眉が一瞬ぴくりと動く。

その背後に、こそこそと降り立つセシル。


「……お嬢様でございますか?」

「ちがいます!」

「ちがうそうだ」


アランの淡々とした言葉に、セシルは(いや、フォローしなさいよ!)と心の中でツッコミを入れる。


屋敷の中に足を踏み入れると、外観に負けないほどの静けさと規律の気配が漂っていた。

まるで副団長そのもの。


(うわぁ……住むだけで緊張しそう……。それに広くて迷いそう……。)


そんな感想を抱いていると、アランが振り返る。

「部屋は二階の奥を使え。使用人には伝えてある」


「え、ありがとうございます。その……あの、えっと……」


「何だ?」


「……応援してます」


「……まだその話を引きずっているのか」


ため息混じりの声に、セシルは慌てて口を閉じた。

(やばい、完全に変な子だと思われた……!)


セシルは広い玄関ホールを見渡しながら、ふと首を傾げた。


(……そういえば、副団長ってーー

確か、侯爵家の出じゃなかったっけ?)


ぼんやりと記憶を辿る。

昔、父と母が貴族の噂話をしていたときに、名前を聞いた覚えがある。


“ガブリエル侯爵家の次男坊。

若くして帝国騎士団に入り、功績を重ね、副団長にまで上り詰めた男”――そんな話だった。


(つまり、生まれも育ちもエリート中のエリート……! なのに、四十代独身……?)


彼の背中を見つめながら、セシルは再び想像を膨らませる。

(やっぱり切ない恋……?それとも任務一筋の不器用タイプ……?それとも身分違いの恋……?)


ひとり妄想を爆走させているうちに、アランが振り返った。

「どうした?」


「い、いえっ!なんでもありません!」


慌てて姿勢を正すセシル。

(あぶない、また応援しかけた……!)


アランは扉の向こうに消えながら、淡々と告げた。

「なにか不便なことがあったら言ってくれ」


セシルは少し妄想を巡らせたながら、残された執事に視線を向ける。


部屋に案内してもらう前に、やっぱり礼儀だけは欠かせない。


「ご挨拶が遅れました。セシルと申します」


執事は深く頭を下げ、柔らかい声で応える。


「セシル様、ようこそお越しくださいました。アラン様からお話は伺っておりましたが…まさか、すでにご成人なさっている方とは存じませんでした。ずっとお年の幼いお嬢様かと思っておりましたゆえ、先程は失礼いたしました。私はロイと申します。専用の侍女もお付けいたしますので、何なりとお申し付けくださいませ」


穏やかで優しい口調に、セシルは思わず肩の力を抜いた。

(……あぁ、安心する……!)


「そんな、お気になさらないでください。私のほうこそ、ご挨拶が遅れてしまって……」


「いえいえ。長旅でお疲れでしょう、セシル様。それでは本日よりお使いになるお部屋へご案内いたします」


緊張していた心が、少しだけほぐれるのを感じる。

広い屋敷も、厳かな雰囲気の中に優しさが漂っていると、セシルはじわりと実感した。



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