05 できれば、働きたくありません
首都に近づいた馬車の中。
セシルは、手元の小説に夢中になっていた。
どこでも好きなことができるーー。
引きこもり伯爵令嬢の得意技だ。
ページをめくる音だけが、静かに揺れる馬車の空気を満たしている。
「そろそろ、任務について話してもいいだろうか?」
アランは腕を組んだまま、無表情で問いかける。
セシルは小説から目を離さず、淡々と答えた。
「ちょっと……ここのお話が終わってからでもいいですか?今、いいところなんです」
アランは沈黙のまま、じっと彼女を見つめる。
無表情なのに、その視線には微かな圧があった。
「わかった。だが、長くは待たない」
低く落ち着いた声。セシルは思わず小説から顔を上げた。
「んー……できれば聞きたくないですが」
アランはわずかに眉を上げ、口元にかすかに笑みを浮かべる。
「君にはつまらない話かもしれないが、少しだけ耳を貸してくれ」
セシルは小さく肩をすくめ、窓の外に視線を送る。
(……やっぱり逃げられそうにないか)
小さくため息をつき、口に出して言う。
「どうせ私には拒否権はないんですよね?」
「もちろんだ」
アランは迷わず答えた。
「今回の任務は、皇太子の娘、アンナ姫のなくし物を探すことだ」
セシルは目を細める。
(……なくし物?めんどくさそう……)
セシルはさらに小首をかしげる。情報収集ではなかったのか?
「ちなみに、無くし物は何ですか?」
アランは軽く目を開け、視線をセシルに向ける。
「アンナ姫の大切なものだ。詳しいことは、現場に着いてから教える」
セシルは目を細め、少し考えてから続ける。
「……それと、ちなみに報酬って私にいただけるんですか?」
アランは口元に小さく笑みを浮かべた。
「当然だ。君がやる気なら、報酬は渡す。仕事をするなら、それくらいは当然だろう」
セシルは窓の外を見ながら、肩をすくめる。
(……まあ、やる気っていうか、逃げられないだけだけど……)
馬車は首都の門に差し掛かろうとしていた。
石畳の道が近づくたび、揺れが少し大きくなる。
セシルは窓の外に目をやる。人々の行き交う姿、賑やかな街並み。
読んでいた小説を膝に置き、手を組み直す。
心のどこかで、任務がどんな展開になるのか想像する。
(探し物か…しかも皇族の。見つからなかったらすぐにクビにしてくれるかな…)
「さて、そろそろ準備をしておけ」
アランの声が静かに響く。
セシルは小さくうなずき、深呼吸を一つ。
(……逃げられないけど、やるしかない……)
馬車の車輪が石畳をこすり、首都の門が大きく開かれたーー。




