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04 引きこもり伯爵令嬢、外に出る

馬車の扉が閉まると、セシルは思わず深く息をついた。

「……これが現実だなんて」


荷物の揺れと外の景色に合わせて心がざわつく。

外の景色がゆっくり流れる中、セシルはまた小さくため息をついた。

目の前には無表情のアラン副団長。



「ここからは長旅だ。覚悟してくれ」

その言葉に頷きながらも、セシルの心は落ち着かない。


本当は、怖い。

彼と目を合わせるたびに、心臓が変な音を立てる。

何を考えているのか、まるで読めない。


……それなのに、どうしてだろう。

気づけば、目で追ってしまう。


少しだけ、彼のことを観察してみたい。

そんな好奇心が、胸の奥で静かに疼いていた。


あの無表情の中に、ほんの一瞬だけ浮かんだ笑み。

それを見た瞬間、怖さなんて消えていた。


――嫌じゃなかった。

むしろ、少しだけ息が苦しくなるほどに、綺麗だと思ってしまった。


心の中でそう思いながら、セシルは自分の能力を使うかどうか、慎重に見極めていた。


(使えないやつだと分かったら、すぐ返してもらえるかも……!)


読心の力は私にしかわからない。

口に出すことも、証拠を残すこともない。


昔は、流れ込む感情に溺れそうになった。

けれど今は、静かに見ていられる。

表情の陰り、指の震え、声のわずかな波――

それだけで、十分。


もう、心を“読む”までもない。


……まぁ、勝手に聞こえてくるので、知りたくて聞いてるわけじゃないんだけど。

むしろ、聞きたくないときほど、よく聞こえる。

困ったものだ。



セシルは、目の前に座るアランをじっと見つめた。


(真面目すぎる……無駄なことなんて考えなさそう。鋭い目つきなのに、どこかに優しさを隠してる……それにしても、疲れてるな)


心の中で呟きながら、セシルはそっと視線を窓の外へ戻す。

別に“読心”の力なんて使わなくてもわかる。


仕草や呼吸、わずかな視線の動きだけで、彼の人柄が見えてしまうのだ。


(……ま、こんなこと言っても信じてもらえないだろうけど)


小さく息を吐いて、セシルは肩をすくめた。

力に頼らずとも、人のことは見えてしまう。

それが、引きこもりコミュ障が生き延びるために身につけた処世術だった。


(……ここで能力を出すと、バレてしまう。今のところ悪いようにはしなさそうだし。使えないやつだとすぐ判断してもらって、早く家に返してもらおう……!)



アランは腕を組み、目を閉じたままじっと座っている。無表情なのに、どこか威圧的な空気が漂う。


セシルは窓の外に視線をやりながら、小さく息を吐いた。


馬車の揺れに合わせ、二人は言葉を交わさず、静かな時間を過ごす。

アランの横顔に、微かな影も見えない。

それでも、セシルの観察眼には、ほんのわずかな心の揺らぎが確かに映っていた――



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